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第十六話【クロフォード】


 軌道エレベーターの地上側に鎮座する巨大な建造物は、実は元宇宙船である。


 開拓許可された惑星用にカスタマイズされた移民船が建造されると、その移民船は惑星に向かう。移民船は衛星軌道上に軌道エレベーター部分を切り離して、その巨体を地に下ろす。


 移民船その物が街であり工場であり発電所でもある。軌道上に切り離した軌道ステーションとただちにエレベーターで繋がれて必要な建材を積み卸しする。あっという間に宇宙港の完成だ。


 この開拓システムのおかげで惑星の初期開拓は10〜30年で完了するようになった。今カイとディードが歩いているエレベーターロビーもそんな元宇宙船の中ということになる。


 まっすぐに喫煙所に移動して無害無臭煙タバコを吸い始めるカイ。


「どうだった?」


「あんまりだな」


 ガラスとエアカーテンで外界と遮断された喫煙者の楽園。ディードからすると良い迷惑なのだがすでに慣れていた。


「まずコールダー文章に関しては全滅だ。ロバート・ブラウンは無関係と思われる人物が大量に引っかかった。それとウィスキーの名前にも使われているらしい」


「日系の酒だ」


 カイは最初の一本目を一気に灰にする。


「ほう。植物学者の名前もあったが遙か昔に故人になっている。これも除外だな。ヴォルケイノ・セキュリティーに関しては少しわかったことがある」


 ディードがプリントアウトした用紙をカイに渡した。


「40年前に設立したんだが、急成長している。私たちの知っている噂よりももっと酷い手口で金を集めているらしい。だが腕は確かな集団だな。惑星ドラドの大使館襲撃籠城事件の時に突入したのは地元のスペシャルチームとなっているが、どうも実際にはヴォルケイノの精鋭部隊が解決したらしい」


 用紙のゴシップ記事を指差した。


「名目上は現場周辺の警備って事だったみたいだがな」


 カイが記事の一つに目をとめる。


「ディード。これを見てくれ」


 ディードリヒもその荒い写真を凝視する。


「……似ている……か?」


「難しい所だな」


 写真の一枚。大量の車両と警官の中、黒いバンの奥で横顔だけ映る男。


「ロバート……に見えなくも無いが。意識しすぎか?」


 ディードが額に指を当てる。


「そういえば、どこのグループの大使館だったのだ?」


 ディードは文字を目で追った。


「ぬ……これは、グループ大使じゃなく惑星大使だな。――セントラル・ナディア。この星の大使館だ」


「何か関係があるのか?」


 ディードリヒが激しく額を指打つ。


「もしかしたら……ここにあったのでは無いか?」


 カイがディードの目を覗いた。


「コールダー文章」


「そう。ロバートは突入時にそれを見つけてしまった」


「なるほどな。筋は通る。正義感かなんか知らんが、そいつを世に出すためにこんな真似をしたって訳か」


 カイは横の自販機から缶コーヒーを購入して一気に飲み干す。こんなものですら船の泥水とは雲泥の差だ。


「疑問も沢山残るがな」


「なんでクロフォードなのか」


「コールダー文章がクロフォードと関係があると考えるととりあえず説明はつく」


 ディードリヒも缶コーヒーを購入した。


「カイの方は?」


「ここにはあんまりツテが無いんでな。たいした情報は得られなかったが一つだけわかったことがある。この星にヴォルケイノの支社があるらしいんだが、少なくともこの中央で警備している気配が無い」


「ふむ……逆にわからなくなる情報だな。会社も噛んでいるのか?」


「ロジャーの子飼いって線はどうだ?」


「そうか……それだとすっきりするな。ロバートの独走で収まりもいい」


「しかしそうなると識別信号を消されて飛び回られたら見つけられねぇ」


「その時は警察に期待するしかないな。私たちでは手の出しようが無い」


 カイは飲み終わった缶を握りつぶした。


「アルにもメールを出しておいた。何か判明しているかもしれない。船に戻ろう」


 ディードリヒの手の中でも空き缶は形を変形させていた。


 ◆


 シャトルを降りると、少しだけ強い重力を感じた。


 この惑星の重力は1Gよりも高いのだろう。シャノンが暮らしていたセントラルが0.96Gだったので余計に重く感じるのかも知れない。


「これは……移民船?」


「そうだ」


 シャノンは独り言のつもりで呟いたのだが、以外にもロバート隊長が即答した。


「ここはどこなのですか?」


 ロバートは彼女の問いに無言を返しただけだった。


 彼らの立つ場所は移民船の上であり、滑走路の引かれた空港でもあった。それでどれだけ巨大な建造物か想像が出来るだろう。


 強風に煽られて暴れる髪をシャノンが慌てて押さえた。遠くの山脈まで緑が広がり雲が流れていた。


 どうしてこんなに素敵な惑星の開拓をしなかったのか。それは開拓船の中央より前方のひしゃげた(・・・・・)様子が全てを物語っていた。


 電力は確保しているのだろう、ドアは近づくだけで開いた。


 ロバートとその部下23人に連れられて開拓船の中に移動した。大型のエレベーターが開くと巨大な公園スペースが広がっていた。開拓船はその性質上長い時間宇宙で暮らさなければならないし、また着陸してからも生活スペースとして活用されるのでこのような施設も多数内包していた。


 彼らは緑が広がる公園スペースを横切り居住スペースに移動した。一種のマンションの様な区画である。広い通路の左右には小さな庭の付いた住居が並ぶ。アメリカの建て売り住宅地に似ていた。


「レグ、ペイトン。ミス・クロフォードを適当な家に案内しろ」


 二人の男が前に出た。


「ミス・クロフォード。後でやっていただく事がある。それまでは身体を休めていたまえ。それでは後ほど」


 一見するとアメリカの住宅街ののどかな道を、武装した男たちが進んでいった。


「こっちだ」


 黒人の言葉に従い、家の門をくぐった。


「この区画は一番マシな所だ。水も電気も使える。中の窓はモニターだ。出入り口はここだけ。そして俺たちはココを動かない。OK?」


 男は親指で玄関前をぐいと差し下ろす。


「わかりました」


 シャノンは大人しく家の中に入っていく。レグとペイトンはそのまま玄関外に残った。明かりを灯すと室内は者が散乱していた。2LDKの家には確かに昔誰かが住んでいたのだろう。大小様々な食器類に本や子供のオモチャが転がっていた。


 生活の残り香にシャノンは耐えきれず、見つけたベッドに潜り込んだ。シーツからは嗚咽が漏れていた。


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