【人類滅亡まであと42日と6時間】 一番サード中畑清(62)
「な、何ですか! あのオーダーは!!」
キチガイが驚愕するのも無理はない。
今やマツダ球場全体が怒号に包まれていた。
「明日の一面差し替えじゃ!!」
地元の新聞関係者らしき男達が慌てて電話を取り出した。
そして、汚い安芸弁で怒鳴り始める。
まあ、そらそうやろ。
(三)中畑
(二)石川
(一)中村
(左)筒香
(右)バルディリス
(遊)白崎
(中)荒波
(補)黒羽根
(投)三浦
還暦過ぎた人間が監督やりながら1番サードとか正気の沙汰ではないもんな。
ただ、これはキヨシのキャラやから、まだ失笑交じりに許されとる側面もある。
球場はどよめいたまま。
野村監督が主審に眉をひそめながら抗議。
そうやねん。
この作戦のネックは、中畑清の出場が認められるか否か…
これはもう賭けや。
審判暴行で退場くらった直後のこの振る舞い、冒涜行為と解釈されても仕方がない。
ただ、客が焦れて叫びだしたことから、試合は渋々開始される。
いつの間にか増えているカメラ…
確かにこの映像を撮り損なったら、広島の映像会社は業界内で発言力落ちるやろう。
「ワイさん、まさか… 加護を中畑監督に使ったんですか?」
『ああ。 チーム全員の実績と言動から総合的に判断した。』
「中畑監督は選手時代、そこそこいい選手だったと思います。」
『…うん。』
「ですが、レジェント達と比較した場合、一枚… いや二枚落ちる選手だと思います!」
『つまり、ONを超一流とした場合。
そこから一枚落ちて原・篠塚。
キヨシは更に一枚落ちると?』
「はい。
私は野球は詳しくありませんが…
そういう印象を持ってます。
間違ってますか?」
『いや。
オマエの見立ては正しい。
キヨシはトップクラスではない。』
「好守の中村選手を一塁に追いやってまでサードを守る意味が分かりません。
あの人、自分が目立ちたいだけなんじゃないですか!」
ワイが事情を解説しようとしている時に、試合のサイレンが鳴った。
カープのトップバッターは丸。
流石に戸惑った表情をしている。
二度、中畑清を観察してから何事も無いように構える。
サードを見ようとした三浦にキヨシが
「打たせて取るスタイルww!!!」
と一喝する。
数秒固まった三浦大介やったが、、リラックスしたように笑って
真顔でホームに目線を向ける。
第一球。
外角高めに様子見のストレート。
僅かに外れてボール。
丸は打ち気がなかったのか微動だにしない。
第二球。
丸に動く気配はない。
三浦構わず、似た場所にさっきよりも早…
丸が目を見開いて、叩き付けるようなスイングで三塁前に弾く!
「上手い!」
キチガイを初めとした数名がバックネット越しに叫ぶ!
瞬間…
丸全速力!
同時に中畑清猛チャージ!
「え、はや…」
流石にキチガイの想定は上回っていたらしい。
そらそうや、あの時期の巨人でスタメン取った男が凡庸である筈がない。
高くバウンドした打球に空中で喰らいついたキヨシが、そのまま上半身だけでジャンピングスロー。
矢の様な送球!
やや、足元よりの送球だったが中村紀洋が柔らかい手首で華麗に捕球。
丸の脚も相当早かったが、タイミングはアウト。
会場がどよめく…
球界最年長監督の美技…
この時点でチケット代の元は取れている。
キヨシ、中村に何事か声を掛けている。
唇の動きから推理すると…
「逸れてゴメン」
とでも言ったんやろう。
その後、菊池・新井とバントも交えてゆさぶってくる。
だが、キヨシはゴールデングラブ賞七回受賞の貫禄を見せつける。
一塁への送球も、勘を取り戻したのか正確無比だった。
「あれ?
でも中畑監督って現役時代ファーストじゃなかったですか?」
『原が後から入ってきたからな。
でも、キヨシは元々サードやで?』
「そうですよね。
私も巨人のサードって言ったら長嶋さんか原さんのイメージがあります。
間に中畑監督が居たんですね。」
『まあ、間にはもう一人スーパーレジェントが居るねんけどな。』
「え、それって…?」
キチガイが何かを言いかけたタイミングで大歓声が上がった。
キヨシが深く一礼してから打席に入るのが見える。
一方、ジョンソン。
真剣な面持ちである。
油断の色は一切感じられない。
流石はカープ史上最高の助っ人外国人投手や。
しかしキヨシも長身やが…
この位置から見るジョンソンの体格から来る威圧感は圧倒的…
「じょ、ジョンソンさんってあんなに背丈のある人だったんですね。
生で見るのは初めてなので…」
『おお。 データ以上の圧迫感があるな。
ちなみに、神のおっさんと同じ身長やで?』
「あれ?
そうですか?」
『ジョンソン細身やからな。
ひょろっと高く見えるんやろ。』
当然、この状況ならばジョンソンの初球は…
シンキング・ファストボール。
ドズバアアアー―ーンッ!!
「151キロ、早い!?
って球威!?」
ジョンソン、本気や。
プライドを掛けてきとる。
二球目同じ場所に来た球をキヨシカット。
打球は真後ろバックネットに刺さる。
ガシャーン!!
「キャッ!!」
キチガイがワイにしがみつく。
「あ、ワイさん/// くっついてしまってごめんなさい!」
『ええんやで。
そら、女の子からしたら怖いわな。
ワイでもちょっとチビるで。』
「ワイさん… 優しい…」
キチガイはその後ずっとワイにしがみついていた。
よっぽど音が怖かったんやろ。
3球目。
打球は一塁側スタンドに飛び込む。
キヨシは大袈裟に苦笑するが、勿論球場は騒然である。
ジョンソンの154㌔に還暦過ぎた老人が喰いつく?
走り回る記者達、一斉にスマホで撮影を始める観客…
今、日本中がキヨシに熱視線を送っていた。
ツーエンドワン。
次、ジョンソンは当然決め球のスライダーを投げてくる。
ワイでもそうする。
(いや、ピッチ経験はリトル時代だけやけどな。)
ジョンソン、ゆったりと振りかぶって…
同時にキヨシが動く。
三遊間ッッッッ!!!
広島球場が叫ぶ!!!!!!!!
中畑清(62)、ヒットで出塁!!!!!
恐らくはギネス記録。
ジョンソン、険しい表情で天を睨むが會澤の声掛けで回復する。
何事もなかったかのように石川を三振に仕留める。
「いよいよ中村選手の出番です!」
『ああ、そうやな。』
キヨシ、年齢を差し引いても恐ろしく大きなリード。
ジョンソンが二度牽制するも余裕のセーフ。
これにペースを乱されたのか中村にタイムリースリーベースを許す。
「キャー!!
流石中村選手です!
フェンス直撃の音がここまで聞こえてきましたよ!
どごおって!
どごおって!」
更に筒香のタイムリーが続き、横浜は2点先制で一回を終える。
「そっか!
ワイさんは好守の中距離バッターである中畑監督に加護を与えて、
中村選手とセットで運用する方針を採ったんですね!」
『ええと思うか?』
「はい!
攻守で機能してる場面を見て確信しました!
中村選手と中畑監督を選んだのは、現時点でベストな選択だったと思います!」
『サードへの打球が一番多いからな。
加護はサードを守れる人間に与えたかった。』
「なるほど!
中村選手も中畑監督も両方サードですもんね!
これで内野は盤石です!」
結局、キヨシはこの試合5打数4安打(全て単打)で終える。
スコアは6対4。
危ない場面もあったが、キヨシのハッスルプレイが伝播したのか横浜守備陣はふんばったように見えた。
そして、巨人がゲームを落としてくれたので、首位とのゲーム差は23.5にまで縮む。
「いやあ、今日は最高でしたね!
中村選手、今日2ホーマーですよ!
加護の甲斐がありました!」
『…。
ああ、中村君のバッティングは素晴らしかったな。』
「ですよね!
これで僅かに希望が見えてきました!」
『と言っても20ゲーム以上離されとる。
まだまだ気は抜けへんぞ!』
「はい!!
明日からが正念場ですね!」
『ああ、アイツらにとってのな…』
「え? ワイさん何か言いましたか?」
『いや、何でもない。』
そう、明日から…
彼らにとっての長い地獄が始まる。
あくまで明日、日本を震撼させる衝撃こそが、ワイの大本命。
明子、ユタカ。
ワイ、最後くらいはオマエらの為に…
「ぜっこおおおおおおおちょおおおおおwwww!!!!
どうぇえええええええええすッwwwwww!!!!!!!」
キヨシの絶叫が広島の街を震わせていた。
1、人類滅亡まであと43日(但し、横浜以外のチームがリーグ優勝を果たした瞬間人類滅亡)
2、転生可能なろう民2人。
3、横浜ベイスターズ首位まで23.5ゲーム差