track1
「もっと違う世界に生まれたかったな…」
そう呟くと私はビルから飛び降りた。
重力に引かれる身体、奇妙な浮遊感、流れていく視界、その隅に写るトラック。
……トラック?
誰も通らないタイミングを狙ったつもりだったけど、私は死ぬ時まで誰かに迷惑を……
そこまで考えて私は意識を失った。
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気が付くと私は車の運転席に座っていた。
「……え?」
「気が付きましたか」
どこか聞き覚えのある機械音声が聞こえてくる。
ここは……? 私は……? なんで意識が?
「トラックごとここに運んでくるのは結構大変だったんですからね」
疑問を投げかける間もなく機械音声が話し続ける。この声は……そうだ、カーナビだ。
「まったく最近の若者はすぐ自殺なんて。どうしておとなしく偶然跳ねられるのを待っていられないんだか。そもそも飛び降りの時点で下に誰かが通りかかるか否かにかかわらず迷惑で……」
カーナビ(?)の声を聞き流しつつ周りを見る。今まで乗ったことはないが、どうやら私が座っている運転席はトラックの物であるらしい。それよりも窓の外に広がる何もない空間に目を奪われる。音も振動も感じない事から考えると私はその何もない空間に浮かんで静止しているトラックの中にいる、という事になるのだろうか?
「なに……これ……?」
「ちゃんと話聞いてましたか? ここはわたくしの領域、まあ世界の狭間みたいなものですね」
「……あなたは?」
「わたくしはカーリー・ナヴィエ。所謂女神様です」
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女神様ことカーリー・ナヴィエ様……長いのでカーナビ様と呼ぼう。カーナビ様曰く、私の飛び降り自殺は予定に無かったものであり、上から降ってきた私にぶつかってしまった哀れなトラックは当然遅れ、そのせいで創造神様が注文していたゲームが発売日中に届かず、予定通りに遊ぶことができなかった……とかなんとか。ちなみに運転手は無事だったらしいが……正直頭が付いていけない。
「つまり! わたくしの数少ない楽しみを邪魔してくれたあなたとそのトラックに異世界でちょっとした罰を受けてもらおう、という事です!」
要するに、ゲームの代わりの暇つぶしとして死ぬはずだった私を異世界に送り込みその様子を観察することにしたらしい。トラックの方は完全にとばっちりである。
「まあそのまま行ってすぐ死なれたら面白くないので少しは助けてあげます。ありがたく思いなさい」
自殺した身で言うのもなんだが大人しく死なせてもらえるのならそれが一番ありがたかった。……などと考えていると視界が突然光に包まれ、すぐに元に戻る。
「これは……?」
「考えるだけでこのトラックを自由に動かせるようにしてあげました。どうせ運転できないんでしょう?」
図星である。生前(?)の私はトラック用の物は勿論、普通免許すら持っていなかった。
「ついでに鍵も不要にしてあげました。念じるだけで使える電子キーみたいなものです。どうです? すごいでしょう」
……この女神様、さっきからちょっと調子に乗っていないか?
「こっちの方は……こんなかんじですかね」
トラック全体が一瞬光に包まれた様だが中にいる私には良くわからない。
「色々付けておきましたんで後で自分で確認してくださいね」
声と共にそれまで何も映っていなったカーナビ――女神様でなく機械の方である――の画面に光が灯る。どうやらこれを使えという事らしい。
「まあ習うより慣れろと言いますし、そろそろ異世界いってみましょう!」
「待って! まだ聞きたいことが!」
私の声を遮ってエンジンが唸りを上げ、念じてもいないのに車が動き出す。
そして何もなかったはずの空間に突如現れた半円型の穴――見た目だけで判断するのならトンネルの出口そのもの――へと向けて加速していく。
「ではでは、剣と魔法とトラックがファンタジーな世界へようこそ!」
そして、私は……