自衛隊、奪還作戦開始
偵察隊が町に侵入したと同時刻 作戦司令本部
「苅一佐。偵察隊が大阪市内にそれぞれ侵入を始めました」
「そうか。それでまだ侵入している部隊の所属がまだ来ていないのだが?」
その質問を聞いて、ハッと三尉は思い出すと手に持っていた書類を苅に渡した。
「ご説明しますが大阪市内に侵入している部隊は第七偵察隊 通称「ファントム7」、第3偵察隊 通称「ファントム3」、第7偵察隊 通称「ファントム4」、第6偵察隊 通称 「シャドー6」、第1偵察隊 通称「シャドー1」、それから第1対戦車ヘリコプター隊と第2ヘリコプター隊からOH-1が2機編成の部隊の「エアー1」、「エアー2」の部隊の7部隊が展開中です」
「うむ。そこまで長い説明ありがとうだが実働部隊の方は?」
「それについては各方面隊は準備を完了させて、いつでも出動可能です」
「それで各方面隊の編成はどうなっている」
「まず”残存”北部方面隊の機甲部隊と攻撃ヘリ部隊と普通科連隊、中部方面隊も同じく、攻撃ヘリ部隊と普通科連隊、西部方面隊は大阪湾からAAV7とLCACの車両で敵の背後について、強襲します。東部方面隊は残念ながら四国のパンデミックの対応に追われているため、現在、活躍は期待できません。なお空自と海自は空自は全機スタンバイできており、いつでもあの作戦を決行できます。海自の方はしばらく時間がかかるため、おそらく戦闘の途中に来ることになるでしょう」
「分かった。時間どおりにすると各部隊に伝えろ。失敗や遅れは許されないからな。頼んだぞ」
「了解しました。では失礼します」
彼が退出した後にふぅーと息を吐いた。まったく何なんだこれは?
(また自分が指揮をすることになるとはな)
苅はゆっくりと瞼を閉じるとその光景がまるでビデオのワンシーンを再生したように思い出し始めた。あの忌まわしい記憶をだ。
いまから3年前 東京 自衛隊作戦司令部
確か、あの時は市民の避難がカテゴリーの攻撃で延々と遅く、その為の防衛戦の指揮をしていたんだっけなぁ。
激しい銃撃音と悲鳴、向こうからは駆り立てるような雄叫びとF-15JやF-2などの戦闘機のジェット音が鳴り響いていた。
「苅一佐、和光市に展開している部隊と連絡が途絶えました」
「一佐!国立市で避難民を護衛している部隊が敵と接触して応援を求めています」
「港北区の部隊と連絡が取れません」
上がってくる報告は時間が経つにつれて、最悪な報告へと変わっていく。その報告に歯噛みしていると指揮所の天幕に隊員が慌てた様子で入ってきた。
「一佐!大変です。敵がこちらに向かってきているようです」
「何だって」
それは絶望的だった。まだ避難民の収容ができていない。だから何としてもここを守らなければならなかった。
「AW!(87式自走高射機関砲)、SAM-1!(81式短距離地対空誘導弾)、
SAM-3!(93式近距離地対空誘導弾)に撃墜指示を出すんだ」
「分かりました!!」
何としてもだ。守るこそが自衛隊のあり方なのだから。攻撃指示を受けた車両が次々と攻撃準備を始めた。
「一佐。攻撃準備完了です」
「見えました!!」
準備完了の報告と共に見張り員から敵襲来の報告がくる。
「攻撃準備。射程距離に入ったら、各自攻撃を始めろ」
「分かりました」
「あと、それから・・・・ここは放棄する」
その宣言に周りは動揺する。
「ど、どういう事ですか?一佐」
「言った通りだ。ここが襲撃された以上、もうここは安全地帯とは言えない」
「しかし。それでは命令違反に・・・・」
「場所を変えるだけだ。撤退はしないよ。各員、機材をありったけ、トラックなどに積み込むんだ」
こうしている間にも敵に向けて、ミサイルが発射されていく。
「ⅤTOLはどうなっている?」
「もうすぐで着くはずです」
ふぅと息を吐いた時にその報告はやってきた。
「一佐。レーダーに反応!真上です」
「何!」
彼が上を見た時は何もかも遅かった。しかしそれが来る前に誰かに呼ばれた。
「一佐!大丈夫ですか?」
ハッと目を開けると一人の隊員が心配そうにこちらを見ていた。
「ああ。すまない」
「一佐。出撃の準備が整いました。ご指示を」
「分かった。全部隊に通達 雪の中に桜咲くだ」
「全部隊に通達 雪の中に桜が咲いた。繰り返す 雪の中に桜が咲いた」
通信士が作戦の開始を告げる。さっきの夢が再び、現実にならないことを苅は静かに願った。
陸上自衛隊 中部方面隊 米子基地
「隊長来ました。雪の中に桜咲く 以上です」
「了解した。では諸君!」
その隊の隊長はこちらをまじめそうに向いている隊員達に語りかけた。
「今から3年前、人類は土地を奪われた。中には家族や友人、恋人などを失った者が多いだろう。それに以前人類は復興が出来ていない。だが人類は今日再び、前の土地に足を踏み入れるのだ。今こそ、土地を取り戻そう!全員搭乗!」
その演説が終わるとおーー!!と士気を高ぶらせながら、ヘリ、VTOL、車両に乗って出撃する。
「では行くとするか」
彼自身もヘリに乗って、現地に赴いていく、決して自分が戻れるかはわからないのに。
こうして大阪奪還実働部隊は出撃していった。
海上自衛隊 佐世保基地
「えー分かっているとは思うが今回は陸自、空自との合同作戦だ。厳しい戦いであり、我が部隊は一番遅れを取ることになるがそれを巻き返せるような活躍をするぞ」
基地の全員が敬礼する。司令官も敬礼する。
「なお。陸自の西部方面隊が「おおすみ」、「しもきた」、「くにさき」、「ちた」のおおすみ型4隻に乗るため、必ずこれを守り抜け。以上だ」
その話が終わると全員が出航準備に取り掛かった。司令官はその姿を見ながら、どんな激戦になるのかが不安になった。
航空自衛隊 美保基地
「今、作戦開始の合図が来た。敵陣地には多数の対空砲、航空戦力が存在している。その為、早期にここを潰す必要がある。そのためF-2などの爆撃部隊を編制する。その為に戦闘機部隊は護衛を務めてもらいたい。以上だ。各員の技量を信じている」
気休めな言葉だったが司令官は少しでも不安を和らげてやりたいと思った。
そしてすぐにスクランブルの時にかかる警報が鳴り始め、随時発信していく。司令官は静かに敬礼をしながら見送った。
こうして陸・海・空の全ての自衛隊が決戦の”舞台に”立った。
アメリカ合衆国 ホワイトハウス
「カルロス大統領。第七艦隊は佐世保で修理が完了しだい。こちらに帰ってきます」
「そうか。それはよかった。第七艦隊が戻れば航空戦力、部隊の支援攻撃もアップする」
「いえ。その事なのですが「ジョージ・ワシントン」は日本に残るようです」
「何だって!今すぐ連れ戻せ!」
「分かりました」
長官は汗をハンカチで吹きながら、退出する。
(今は戦局を見極めねばならない。周辺諸国と足並みをそろえなけば、今度こそ破滅しか待っていない)
カルロスはまずは戦局が大きく変わることをその時願った。