075.鬱憤
「おい!真夜!!」
「何ですか?お兄ちゃん。」
「!!?」
お昼休み、お兄ちゃんこと火室が現れた。何でだかは分かっているが固まっている。
「今日は人前でお兄ちゃんと呼ばしてもらいます。」
「・・・・?」
「面倒ごとは少ない方がいいです。」
「・・・・・・・・?」
お兄ちゃんには分からないだろう。理解してもらいたいとも思っていない。バレンタインディーと言う日に普通にこいつと絡むといらぬ誤解を受けかねないからだ。
「嫌じゃないなら気にしないでください。」
「?分かった。」
まだ、疑問に思っているようだが、お兄ちゃん呼びがうれしかったようでそれ以上は追及してこなかった。だって、すごーくご機嫌な顔してるもん。
「で、ご用件は?」
「実のはあるのか?」
一瞬、何のことじゃ、と思った。が、今日がバレンタインディーなことを思い出し、何のことだか理解する。
「ありますけ」
「持ってこい!」
「へ?」
「いいから、持ってこい!!」
お兄ちゃんは私の両肩を持ち私をくるっと回転させ教室の入り口を向かせた。そして、私の背中を強く押した。そのせいで私はコケタ。
「っ・・・・・・・・。」
「おい!真夜!?」
「痛い・・・・・。」
痛い。かなり、痛い。いくら私が妹だからって女扱いしなさすぎだよ!妹だって体は女なんだよ、小さいんだよ。頼むから、
「・・・・・・ち、力加減くらいしてください!!」
「すまん!!」
私が涙目だったので、火室は素直に謝った。かつ、柄にも無くおろおろしている。
「本当に、すまん!だから泣くな。」
「ヤダ。」
「・・・・・・。」
「だって、痛いもん。」
「泣くな。」
「ヤダ。」
「・・・・・・、お前に泣かれるはつらい。だから、泣くな。」
「だったら、なおさら泣く。だって、お兄ちゃんのせいだもん。」
「・・・・・・。分かった。」
「・・・・・・・?」
「1発殴れ。」
「へ?」
「それでチャラだ。」
何故、そうなった?共通していることは・・・・・、痛いことか・・・・?この人はアホだから、多分、そういう考え。
「自力だと弱いので、強化魔法、使っていいですか?」
「あぁ、かまわん。」
私が泣きながら言うと、同意した。
「肋骨、折れちゃうかもですよ?」
「そうしたら治せよ。」
そこまでして、私に泣かれたくないのか。何か悪い気がしてきたが、今までの鬱憤を晴らすという意味ではありと思い、深呼吸をした後、強化魔法でこぶしを強化した。そして、殴った。あ、火室が吹っ飛んだ。やべ、やりすぎた。火室は廊下に突っ伏して動かない。
「お、お兄ちゃん!?」
今度は、私がおろおろする番だ。火室はゆっくりと起き上がった。
「お兄ちゃん、だいじょ」
「やっと」
「え?」
「やっと泣き止んだか・・・・。」
「この期に及んで何言ってるの!?」
思わず突っ込んでしまった。とりあえず、治癒魔法をかける。治癒魔法をかけると、対象者の状態がざっくりだがわかる。肋骨が1本いってしまっている。私はあわててくっつける。しかし、あの威力のを受けて1本で済むなんて丈夫だ。普通だったら、3,4本いってるところだ。いや、私も、よく力加減しないでやったもんだ。日ごろの鬱憤はすごかったらしい。
「土田はいっつもこれくらってるのか・・・・・・・・・。」
「いえ、この3分の1程度にしてます。」
「だから、何だかんだいって無事なのか・・・・・。」
肋骨がくっ付いた。
「肋骨が1本いってました。くっつけておきましたが、しばらくはおとなしくして、よくカルシュウムをとってください。」
「今後のためにもとっておく。」
ん?何、その発言。まさか、私が泣くたびにやろうとしてないよね!?
「それより・・・・・、早く持ってこい。」
「へ?」
「実の、持ってこい!」
何でなのかは今だに疑問だが、反省している私は持ってきた。
「・・・・・、持ってきま」
「行くぞ!!」
そう言って、お兄ちゃんは私の手首をがっしりつかんでスタスタと歩いた。
「お兄ちゃん、早い!歩くの早い!」
私はひずられる。それが面白かったようで、楽しそうだ。歩く早さは変えない。階段を上がり、2年生のフロアーに行くとひとつの教室の前で止まり、ガラリと開け、その中に私を放り込み閉めた。
「ちょ、お兄ちゃん!お兄ちゃん!?」
私はドアに向かって叫ぶ。何がやりたいんだあやつは。だが、そのなぞはすぐに解けた。
「真夜・・・・・?」
後ろから名が呼ばれて方をやさしくたたかれる。その声は私の大好きな人のものだった。