064.変化
数日後の昼休み。
「・・・・・で、話してもらえるようになったんだ。」
「はい。やっと仕事が進みますよ。」
現在、生徒会室にて風天先輩と予餞会の進行状況についてお弁当を食べながら話している。いや、先週の同じ曜日にもやったんだけどね。その日は、雷瀬君のせいで言うことなし。なので聞きに回っていた。
「・・・・・・、心配だなぁ・・・・・。」
「何がですが?」
「ん?あぁ、こっちの話。だから気にしないで。」
先輩が目を細めながら笑う。何か、最近から2人っきりのときにするようになった少し色っぽい笑い方だ。いつもの萌キュンの笑顔より、こっちはどきどきするし長めにやられたら溶けてしまいそうだ。ご馳走様、と言う余裕がなくなる。多分、いつもの笑い方の大半を占めている優しさと言う感情より、別の感情が見えるからだと思う。ただ、その別の感情がなんだかは分からないけど。
あと、前より距離が近い。前は隣に座ると一般的に適切な人と人との距離(約30cmぐらい)だったのに、最近は10cmぐらいだ。他の人だったら、おい何やってるんだ、と言いたくなるが風天先輩相手だとうれしいくらいだ。ドキドキして落ち着かないのにここにいたいと思う。あと、よく顔を覗き込まれる。今だってやられてる。
これで、手を重ねて耳元で囁かれたい。そんなことされたら絶対落ちる。いや、いつの落ちてると言えばそうなんだけど、何と言うか・・・・・・・・、2度落ち?うーん、でも、今までが1度落ちどころじゃないから、数学っぽい表現になるけど・・・・・n+2度落ち?うん、これだこれ。ちなみに、今の状況の続きは妄想では泣くではなく、ラブマジであるのだ。さっきのはざっくりしていたので細かく言うと、まず視線を絡まさせ、相手が少し赤くなったとこで耳元でヒロインの名と好きだよを優しく囁き連呼しながら、重ねていた手をヒロイン側の手から逆の手に変え、今まで重ねていた手で肩を抱き、どんどん自分のほうに引き寄せる。何回か連呼していくと、好きが大好きに変わりそしてキスをする。やられたら絶対溶ける。だって、風天先輩は性格も見た目もだが、声もドストライクで好みなんだもん。今も昔も変わらない私の好み。
と、言うのを思う出していたら、いつの間にか肩を抱かれるところまでいっていた。いや、好きも名前もささやかれてませんか・・・・・・・。あぁ、この大好きな優しい声に熱を持たせて囁かれたいと思う私に贅沢言うなといいたくなる。だって、私がいくらこの人のことが好きでも、この人にとって私はただの後輩なのだから。
「真夜・・・・・・・。」
耳元で囁かれたわけではないが、大好きな優しい声に少し熱がこもったことは分かった。一気に私の心臓が撥ねる。
「真夜・・・・・・・、」
この声に、期待したくなる。違うと分かっていても、期待したくなる。これが恋する乙女というものだろうか。いや、私の場合恋するオタクか。それ以前に、なんで先輩の声には熱がこもってるの?そう思ったら、呼ばれたから返事をしなくちゃなのに声がでない。
「真夜、俺は・・・・・・・」
何?何を言うの?ドキドキが加速していく。
「君のことが・・・・・・」
何か、この状況が理性的にはよくないと思うのだが、本能的にはすごくいい。
「ずっと、ずっと前から・・・・・・・・、す」
この空気を読まない、というかぶち壊したかったのかといいたくなるタイミングで昼休み終了のチャイムが鳴った。何かベタだなぁ。と、私が思っていると先輩は今までの表情からいきなり、いつもの先輩に戻っていた。何でそう思ったかというと、顔を真っ赤にさせて私がいつももえている恥ずかしがる顔をしていたから。さっきまでの、あの少し色っぽい熱はどこに言ったのやらといいたくなるほどいつもの先輩だった。
「っあ、私、次の時間移動教室なので、もう行きますね。」
あ、やべ、このこと今まですっかり忘れてた!間に合うかなぁ?と思いながら、退出しようと席を立つと、先輩は
「ちょ、ちょっとま」
と言い私の手をつかんだが、ハッとした後、
「・・・・・・・ご、ゴメン。気にしないで・・・・・。」
と言って、手を離した。
「行っていいよ。」
とさびしそうな笑顔で先輩は言った。なんとなく、私には黙って立ち去る以外の選択肢しかなかった。