036.強制保留
そう、この目は〝ラブマジ内での土田光" のマジモードの目だ。それこそ「っえ!うっそー!!」。
「だからちゃんと空気を読もうね、真夜ちゃん。」
今、今読んだから。だから何も言わないんだってば!!
「そういえば真夜ちゃん。気を失う前のアレ、なかったことにしようとしてるでしょ。」
「っえ、本当!?マジで瞬君と!?」と言うボケかましてごまかしたかったが、
「アレ、本気だから。」
もちろんやらせてもらえない。っう・・・・・・・・。
「好きだよ、真夜ちゃん。」
だから顔。顔近いってば!頬を触るのもやめろ!!
ここは〝逃げる" が正解。だけどそうはさせてもらえない。これが(乙女)ゲームならばときめくところだが、現実だと無理、心臓が持たん。この人のことを友達だとしか思って無くても、無理。だって、ここは月影真夜にとっては現実で、仮想世界では感じられないこの人の熱を帯びた吐息やこの人が持つ温度は本物なのだから。真弓がラブマジをplayしてたときは、普段の軽いノリと(今現在、実際に起きている)マジモードのギャップにキャーキャーとときめいていたものだ。だが、ただの友達としか思っていない人にやられても心臓に悪いだけである。だから逃げたいのに、今の空気とその目が私を逃がしてはくれない。もう、いろいろな意味で半泣き状態な私が頑張って声を発した。
「・・・・・・・・って、い、言われ、ても・・・・・・・・。」
なんて返せばいい。なんて返したら私は解放してもらえるのだろう。(乙女)ゲームの答えなら簡単に浮かぶ。でも、リアルでの正解はリアル恋愛未経験の私には全く分からない。あーもー、何でリアルは選択コマンドが表示されないんだろうか。(乙女ゲーム)ゲーマーである私にとってはそれがもどかしい。
「わ、私達・・・・・・・、と、友達・・・・・、でしょ・・・・・・・?な、なのに、こんなの・・・・・おか」
ダメだ。少女マンガでありがちなセリフしか思い浮かばん。現実・恋愛経験0でオタク偏差値80以上である私なんてこんなものである。まぁ、土田君には
「おかしい。・・・・・そう言いたいの?そう言いたいんだよね?」
お見通しだった。この人だってオタク偏差値は高い。それだけじゃなく、現実・恋愛偏差値もそこそこなものだ。
「真夜ちゃんにとってはそうかもしれないけど、実際君に恋をしている俺から言わせてもらえば、・・・・・・・おかしいと思うことがおかしいと思う。」
クソ!こいつもありがちな返しをしてきやがった!
「もし仮に俺と真夜ちゃんが、兄弟だったとか同性だったとかだったらおかしいと思うのは正しいと思う。」
いや、土田よ、お前もオタクなら今時になって同性恋愛がおかしいと思うな。GLはともかくBLは否定するな。ゆかりんが聞たら同性愛否定論への否定論と薔薇のすばらしさについて何時間も熱弁するぞ。
「でも実際は違うでしょ?」
そうだ、同性愛はおかしくない!って、そこの否定じゃないって!!ヤバイな、ゆかりんの洗脳が強すぎるようだ。ゆかりん、恐るべし!
「俺と真夜ちゃんは真夜ちゃんの言ったとおり現時点では友達でしょ?」
おい、〝現時点では" を強調するな。
「異性の友達は恋愛対象外。そんなことは無いでしょ?何千冊の少女マンガを読んできた真夜ちゃんなら否定できないはずだよね?」
何千ではない。何万だ、万。・・・・・・・・。
(分かってる。そんなこと分かりきってるんだよ・・・・・。)
「でもやっぱり・・・・・・・・、ゴ」
メンを言うとしたら、土田君は空いているほうの手の人差し指を私の唇に軽く当て、私が言葉を続けるのを阻止する。
「・・・・・・俺、あわてて出した答えがほしいわけではないんだよ。それに、今の状況は想定内だしね。だから真夜ちゃん、・・・・・・・君に時間をあげるよ。」
指がそっとはなされる。
「時間・・・・・・・・?」
いや、いくら考えたところで私の答えは変わらんのだが。
「真夜ちゃんは好きな人はいる?あ、もちろん恋愛的な意味で。」
そう言われて、1人の人物の顔が思い浮かんだがその人のことはゲームのキャラとして好きなのかリアルで好きなのか分からないので私は首を横に振る。
「うん。なら、タイムリミットは真夜ちゃんにそういう意味で好きな人ができるまで。だから、好きな人ができたら俺に言うんだよ。それが俺だったとしても俺じゃなかったとしても。で、その人物に俺が納得したら終わり。俺の負け。納得しなかったら、・・・・・略奪愛でも何でもするからね。」
おい、土田、笑うとこじゃないぞそこ。
「それまでは今までどおりオタ友のままでいから。」
っと、言って土田君は去っていった。さて、これからどうしたらいいものか・・・・・・・。