191.合宿(?)12~ほしかったもの~
「・・・・・・・。」
ヒックヒックと泣く私の声だけが部屋に響き渡る。
「真夜・・・・・・・・・。」
わたしは返事ができない。泣いているからではなく、別の理由で。
――――月影真夜が佐野真弓であっても、佐野真弓は月影真夜ではない。
それが理由だ。
「・・・・・・・・・ま、真弓・・・・・・・?」
「!!」
「で合ってるかな・・・・・?」
「・・・・・・・・?」
(何で分かったの・・・・・?)
「真夜の恋人、だからかな。」
その発言にキュンとし、涙が引っ込んだ。
正確には〝佐野真弓になった〟わけではない。私はいつも、真夜:真弓=8:2ぐらいで構成されているのだ。それが(真夜:真弓=)2:8になってしまっただけ。だから無表情モード。せめて5:5ぐらいにならないとしゃべれない。
(時間かかりそう・・・・・・・。)
「良いよ、待つから。」
「!!?」
(何でさっきから心の声が筒抜けなの!!?)
「ん?顔に書いてあるよ。」
(もしかして、あれか!?実先輩もマコちゃんの感情が読み取れる人なのか!!?)
「そ、それは無理かも・・・・・・・。」
(え!?何で??)
「だって、真弓は真夜の一部なんでしょ?なんていうか・・・・・・・・、軸?うん。真弓は真夜の軸とか骨格だから。つまり、俺の大好きな真夜なんだよ。そういうこと、かな。」
(別人だと認識しないの・・・・・・?)
「うん。だって、・・・・・・・・真夜はここにいるから。」
――――そうだ。真夜はまだここにいる。
「・・・・・・・・・私、」
うん、なんとか話せそうだ。
「ずっと、居場所、なかった。」
片言だな真弓。
「1人の時間、沢山過ごした。」
両親がいるとはいえ、両親がずっと病院にいるわけではない。平日は1,2時間くらい、休日は半日くらいがやっとだ。両親にだってしなければならないことがある。いくら1人娘だからってずっと構っているわけにもいかない。そんなことは社会が許してはくれない。しかも、病院の入院者なんて大半がおじいちゃんおばあちゃんだから、友達なんて1人もいなかった。・・・・・・・・、どんなに寂しくても。
「外にも出れなかった。だから・・・・・、真夜になって、外に出れて嬉しかったの。」
――――5:5から、
「でも、初めは、創られた世界なんだ、て思って・・・・・・。それでも、初めて見る外の世界が楽しくて、忘れてた。」
――――6:4へ。
「小学1年生の時に瞬君に会って・・・・・・・、そのことを思い出した。だからぺらぺらと話しちゃったの。でも、嘘みたいな真実を信じてくれた。初めて嘘をつかなくてもいい友達だできたの。
それと同時に、キャラクターにもキャラクターの生活があって、キャラクターもこの世界では人間なんだって、自分の意思がちゃんとあるんだって、知ったの。」
――――そして、7:3へ。
「それでも私、怖かったんです。近いうちに、前世みたいに死んじゃうんじゃないかって。いつも怯えてた。
事故にあった時も、幸せだった今までの時間への対価なんだって、自分が1番あの〝死〟に納得していました。」
まぁ、死んでないけどね。
「でも、私は生きた。死のフラグをビンビン立てながら、ですが。再び、消えちゃうことに怯える日々が始まったんです。」
死んだ人間がもう一回生きるなんて。そんなの物語の世界ではよくあること。でも、ここは現実だ。
「高校に入学して、皆と過ごす時間が楽しくて楽しくて。ここにいたい、そう思うくらいとても楽しかった。・・・・・・・・・いや、違います。真弓がほしかったものの最後の一つが手に入ったから、ここにいたいって思ったんです。」
「・・・・・・ほしかったもの、って・・・・・・・?」
「〝好きな人〟です。」
実先輩が目を見開いて驚いた。
「ずっとずーと真弓がほしかった、外に出られる体も、一緒に楽しい日々を過ごせる家族・友達・仲間も、してみたかった恋も、自由も。ほしかった全てが手に入ったんです。だから、ここにいたい。この居場所がずっとあったらいいな、って思ったんです。だから・・・・・・・・、私の居場所になってくれた皆が私は大事なんです。」
「真夜・・・・・・。」
(あ・・・・・・・、〝私〟に戻ったんだぁ。)
「真実を知っても私をいさせてくれた人たちに傷付いてほしくないんです。だから、守りたかったんです。」
分かってもらえただろうか?
「真夜・・・・・・・・。でも、俺達からしてみれば、俺達のその対象には真夜がいるんだよ。」
「?」
「真夜だって俺たちの居場所の1つなんだよ。」
「・・・・・・・・・!!」
「そんなことも忘れてたの?」
「・・・・・・・・・。」
っう・・・・・・・・。
「それに、真夜は消えないよ。俺、・・・・・・・俺達が真夜を消させないよ。居場所がほしい、居場所を無くしたくない、って思うのは真夜だけじゃないんだよ。俺だって無くしたくない、失いたくない。」
「実先輩・・・・・・・・!」
――――幸せだ。全部を知っても居場所になってくれる人がいる今が幸せだ。
「でも、ちゃんと言ってね、真夜。1人で危険な目に合うなんてダメ。」
「で、でも・・・・・・・。」
「真夜。・・・・・・・・守り合えば良いだろ?そうすればお互い傷付かなくて済むよ。」
「・・・・・!うん・・・・・・・!!」
私は泣きながら実先輩に抱き付いた。
次話は明後日、26日火曜日午前7時にup