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例文をもう一度見てみましょう。
『その男は、湖のほとりの番小屋に住んでいた。
眼光の鋭さは傭兵崩れであるが故だろうか。漆黒の髪の下で暗光を湛えるその瞳は、バケモノを思わせる暗さで、子供心に恐ろしかった。
さて、この男、左腕がない。戦場で切り落とされたのだという。
失った肉体のバランスが崩れ、いつもよろよろと歩いている姿は、哀れなほどに滑稽であった。』
箱内に文章を収めるコツは、何が必要なのかを先に選び出すことです。突き詰めて言えば何を表現すべきか。
例文にぐっちゃぐちゃに突っ込んでおいた要素を整理してみましょう。
まず男が『居る』ということ。これは必須とします。次に描写すべきは男の目つき? 左腕がないこと? それとも、傭兵だったという過去?
もし、これが物語の冒頭であるなら、彼の過去をここに入れておく必要はない。むしろ謎のままにして物語の展開の中でじわじわと解き明かす方が面白いでしょう。
では、彼が主役ではないなら? 外見の描写がくどすぎる。主人公とのカラミに必要なのは「鋭い眼光」なのか、「左腕を失った」ことなのか……
削るところはいくらでも思いつく。
まあ、冒頭ではなくて例文ですので、この形で完結させることを大前提に考えましょう。
この男を描写するのに、アザとー的な優先順位は①男である ②片腕がない ③傭兵だった の順番です。お暇な方は別の優先順位をつけて試してみてくださいね。
その優先順位に従うなら、どしょっぱなの『湖のほとりの番小屋』に暮らしていたことは描写の必要なし。『鋭い目つき』は残してもいいが、ここまでくどくどと描写するのは『片腕がない』のインパクトを薄めてしまう。
不要部分を削り、前後を並べ替え、整文すると、こうなります。
『その男には片腕がない。
傭兵だったころに切り落とされたのだと本人はいうが、今の彼を見ていると鵜呑みに信じることはできない。
失った左腕に振り回されるようによろよろと歩く姿は滑稽で、愚鈍ですらあった。
ただ、何かの折に見せる目つきの鋭さは、ぞっとするほどに冷たい戦士のそれであった。』
はい、これで137文字♪ 目標まであと一文字ですね。
ここからは小手先のテクニックに入ります。
例えば言葉の言い換え……「だけど」を「だが」に変えるとか、「何かの折」を「時折」に変えるだけでも文字数ダウン。もちろん、ただ言い換えれば良いというものではなく、よりシンプルな文章を目指して精査するのが目的です。
それを精査している段階で、大きな削りどころに気づいたりもするのです。
今回アザとーが気づいたのはここ! 正解文を読む前に考えてみてください。
明らかな表現の重複を、9文字削ることにしました。どこでしょう?
正解は次回っ!
誰か、むっちゃドS口調で「さっさとしろ」と言ってくれれば、大急ぎで正解編、書きま~す(ドMモード)