言葉でしか伝わらない想い
付き合ってから半年。
いよいよ初めてのクリスマスという時。
彼が私に隠れて、何かしているという情報を、バイト友達経由で入手した。
「何してるのか、わかる?」
「いや、わかんなかった。でも、あんたが知らないっていうことは、どういうことだろうね」
「クリスマスプレゼントとか?」
「いや、ここはあえて新しい女ができたほうに一票」
「ちょっと、やめてよ。そんなこと言うの」
私は友達に言った。
「じゃあ、ビシッと聞いてやりなよ。何してるのってさ」
「それができたら苦労しないって……」
「それもそうよね~」
他人事だと思って、友達は軽く言っていた。
「まあいいや。先上がるね」
「はい、お疲れ様ー」
友達はこれからのシフトだそうだ。
だから、今日はこれでお別れとなる。
彼氏の家に遊びに行くと、ちょうど出ていくところだった。
「あれ、これから?」
「ああ。ちょっとな」
「ねえ、ついて行っていい?」
私が彼にそう聞くと、すこし考えたうえで言った。
「いいよ。ついでに見てもらいたいものもあるしな」
何のことかわからなかったが、私はとりあえず別の彼女ができてないということで、安堵した。
まず向かった先は、銀行だった。
「ちょっと待ってて」
彼は一人で窓口で現金を下ろしていた。
いくらおろしたかは、わからなかった。
そして、そのお金を大事そうに封筒に入れると、私が待っている玄関あたりに戻ってきて、次の場所へと移動した。
「どこ行くの?」
「まだ秘密」
最後にハートマークでもつけようかという、甘い声で彼が私に教えてくれた。
「きっと気に入るところだよ」
それがどこか、私にはまだ秘密ということだそうだ。
だが、だんだんと私にもわかってきた。
ジュエリーショップが立ち並ぶ商店街へと向かっていることが分かったからだ。
横を私の速度に合わせて歩いている彼に、聞いた。
「ねえ、もしかして、宝石屋に向かってる?」
「あ、やっぱりバレた。そろそろクリスマスだし、プレゼントでも買おうかなって思ったんだ。でも、目当てのモノの値段が高くてね。それで、最近バイトのシフト増やしてもらったんだ。それで、やっと目標金額に達したから、今日買いに行くつもりでね」
「それで出かけようとしてたのね」
「そういうこと。さあ、ここだよ」
普段なら入ることもないような、高級そうなジュエリーショップに、私たちはそろって入った。
「いらっしゃいませ。どのようなご用でしょうか」
店員がすぐに声をかけてくる。
「予約してた指輪を」
「かしこまりました。予約票はお持ちでしょうか」
「あ、はい。ここに」
財布の中から、髪を一枚取出し、にこやかな店員に渡す。
「こちらで少々お待ちください」
店員が裏へと向かう。
その間、ガラスのケースに、丁寧に陳列されている宝石の数々を私は見ていた。
「これ、10カラットのダイヤモンドだって。金の指輪台にはまってきれい……」
「友達に聞いてさ、クリスマスプレゼントって、なにがいいのかなって。ほら、直接聞いたら、なんだかいやだろ」
「私の好きなもの買ってくれるのだったら、いいんだけどね」
私は彼の説明に、ショーケースを見ながら言った。
「それで、宝石なら、きっと好きだろうって思って。で、買うことにしたんだ。クリスマスに驚かしたかったんだけど、どうにも、俺は秘密ってのが苦手みたいだね」
「その通りだよ。私だって、何かしていることはわかってたんだけどね」
その時、ふと思ったことを聞いてみた。
「ねえ、その友達って」
「ああ、お前のバイト先の人だよ。彼女は、俺の高校時代の友人さ」
「なるほど……」
私に教えた時には、すでに何をしているのかを知っていたということになる。
後で覚えておけよ…
そんなことを考えていると、店員がケースを持ってやってきた。
「こちらでございます。6号と11号でございます」
「ここで試しに嵌めてみても」
「よろしゅうございます」
彼が、店員に一言伝えてから、指輪を私に渡してくれた。
その頂上には、小さな宝石が輝いていた。
「0.3カラット、3EX、D、そしてVVS1のダイヤモンドとなっております」
「…お値段は」
私はなぜか質問をしようとして、それしか出てこなかった。
「時価となっております。ただし、予約なされておりますので、予約時点のお値段となります」
彼は封筒をそのまま店員に渡した。
「これでたぶん足りると思うんですが」
「検めさせていただきます」
封筒からごっそりとお札の束を取り出して、近くにあったお札を数える機械にセットした。
そして、別の店員も寄ってきて、もう一度その機械にセットしなおした。
「ぴったりです。ありがとうございます」
「それで、あの事なんですが…」
「ええ、準備はすでに終わっております」
店員がさらに裏へと向かった。
「あの事?」
私は彼に聞いた。
すると、彼は私に急な真剣なまなざしで見てきた。
「知り合って半年。互いにもう成人してるし、もう頃合いだと思うんだ」
「え、なに?」
私は混乱する頭を落ち着かせようとしていた。
すると、彼は私の目の前で、片膝立ちになって、先ほどの台に置かれていいた指輪を私に見せた。
「これ婚約指輪なんだ。どうか、俺と結婚してくれないか」
「…ええ、喜んで」
「よかった…」
指輪を私が受け取り、薬指にはめてみる。
不思議なほどぴったりとはまった。
ここで申し込むということは、あらかじめお店に伝えてあったようで、そのままウェディングプランナーの人が、裏から現れた。
こうして、私たちは結婚した。
バイト先の友達については、あとで詳しく事情を聴くと、驚かせたいから黙っててくれということと、私の指の大きさを教えていたらしい。
だから、私が言わなくても、ちょうどいいサイズの指輪が作れたということのようだ。
今では、私の薬指で、そのダイヤはくすむことなく輝き続けている。