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呪縛の蝋  作者: 想 詩拓
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13『失踪した娘たちの行き先』

 赤羽たちが、現場に到着したときにはすでに村のほとんどの住人がこの場に集まっていた。

 赤羽がやってきたのに気がつくと、並んで順番を待っていた者たちも道を空けて、彼に先を促した。赤羽は、彼らに一礼すると、雛子の両親・利奈や芳雄と共に住人たちが注視する中、ゆっくりと洞窟の中に歩いていく。

 洞窟の入り口では、神妙な顔をした千鶴と、不安そうな顔をした雛子が並んで立っている。


「期待通り、と言えるかどうかわかりませんけど、どうぞ」


 千鶴は、懐中電灯を取り出して見せると中へと赤羽たちを案内する。



 洞窟の中は涼しい白灯村の日陰にも増してひんやりとしており、また湿気に満ちているという妙な空気を持っていた。そして独特な臭気が立ち込めている。

 入り口から数メートルは狭かったが、奥に行くにつれて広くなっており、やがて大広間のような大きく開けた場所に出る。

 そこには机や、紙、本などが散乱し、また、壁際や机の上にはランプが配置されており、明らかに何者かがここで何らかの活動を行っていたことが伺える。

 もっとも、ランプは古くなって今は使えないらしく、今は代わりに蝋燭の炎が部屋の中を照らし出していた。


 そして、この場所には先客がいた。伊戸部老人をはじめ、その他五家族、毎年“蝋人還し”を一緒に行っている人たち―――つまり、蝋人形魔術の事件において失踪した娘たちの家族だった。

 

「これで全員が揃ったわけですね」

 

 全員の注目が集まる中、千鶴は部屋の中央に立ち、それを取り囲む被害者家族を見回して言った。


「はじめに自己紹介をしておきます。僕は赤羽教授の大学の学生で、青山千鶴と申します。今回、蝋人形魔術の噂を聞き、それを実際に確かめてみたいと思って、この旧白灯村にやってきました」


 ま、実際は忍び込んだわけですが、と苦笑して、千鶴がこの事件に関わることになった経緯を述べる。

 最初は、興味本位だったこと。蝋人形館を見学して、蝋人形魔術事件のことを赤羽から聞き、生半可な気持ちで首を突っ込むことはやめようと思ったこと。


「でも、一日目に灯籠巡りをしたとき、僕はあるものを見てしまいました。そう、蝋人還しの儀式です」


 奇妙な宗教儀式を見ただけなら、それほど合理にこだわる性格ではない千鶴は、その儀式が気味の悪いものでも、意味があればそれでいいと考えられた。

 だが、事情を知っていた千鶴は、根拠のない希望に縛られた行為だと思い、その希望の真実を得るために、調査を開始した。

 そして昨日一日を使って、資料などを調べた結果、全ての謎が氷解し、今日、その推論を裏付ける証拠を見つけたのである。


「あなた方が間違っているから止めろ、とは言いません。これをどう受け止めるかはあなた方の自由です。ただ、今から僕が話すことが、すべての真実であり事実であるとだけ申し添えておきます」


「まず、“この部屋の奥にあるもの”について説明をします。こちらへどうぞ」


 千鶴は、蝋燭を手に持って先導する。

 洞窟には、この大きな部屋からさらに奥へ伸びる二本の道があった。千鶴が案内したのは向かって左のより大きな道だ。

 その道には、両側に棺のような人一人が入れる大きさの箱が置かれていた。そしてその中に納まっているのは―――


「うっ……!」


 千鶴の後ろにいた者の大半が“それ”を見て息を呑み、数人がえづく。

 それは、ミイラ、といって差し支えないものだった。とはいえ、ミイラとしては肉付きが悪く、骨にところどころ申し訳程度に皮と肉がついていた程度だったが。

 それは五つ続き、不可思議なことに奥に行くほど、ミイラについている肉が多くなっている。五つ目のものなどは顔の半分、体の八十パーセントは瑞々しく張りを残したままだ。

 そして、最後の一体は一番奥に安置されていた。寝台のように盛り上がった岩の上に横たえられた、その姿は色こそ真っ白になってしまっているが、造詣は完璧な人間の姿をしている。雛子と似た目鼻立ちであり、蝋人形館の地下アトリエに残された蝋人形と同じ顔―――紛れもなく、高野日奈であった。

 

「姉さん……!」


 利奈が思わず息を呑み、隣にいた芳雄にすがりつく。


「……これは一体何なんだ? 探偵さんよ」

「これが人を蝋人形に変える魔法“蝋人形魔術″の成果なんです」


 そう言いおいて、千鶴は屍蝋について、彼らに説明をしてやる。


「遺体は普通放っておけば腐敗するものです。ですが、ある条件下では腐敗菌は繁殖せずに、化学反応によって体の脂肪分が蝋状に変化する。それを屍の蝋と書いて“屍蝋”と呼びます」


 そこで、千鶴は少し間をおいて続けた。


「そして、それを人為的に行うのが伊戸部礼二の研究していた蝋人形魔術の正体なんです」

「で、でも他のはそれほどキレイじゃないのはどうしてなの?」


 被害者家族の一人がそれを尋ねる。確かに、日奈のように生前そのままに残っていてもショックだろうが、ボロボロのミイラにされた者に関しても納得がいかないのは確かだろう。


「……それは、他の五体については“失敗したから”です」


 千鶴は答えると同時にノートを取り出した。


「これは皆さんもご存知の井上巡査から借りた、彼の父上が当時独自に事件を捜査していたときのノートです。これによりますと、最初に山下妙子さんが失踪したのが一月八日、それから三十日後の二月七日、二人目の桂美里さんが姿をくらましています」


 そのさらに三十日後の三月九日には三人目・川口智美が失踪。

 そしてその三十九日後である四月十七日には四人目・加村英子。

 次の五人目・伊藤夕菜は四十六日後の六月二日。

 そして最後の一人、高野日奈が七十五日後の八月十六日に失踪している。


「このように失踪事件の間隔に注目してみると、“どんどん周期が長くなっていく”ことが分かります」

「それが、何を意味するんだね?」と、尋ねたのは伊戸部老だ。


 千鶴はノートの別のページを開いて答えた。


「実は完全に屍蝋ができるまでは三年もの月日がかかります」


 屍蝋化が始まるまでは一ヶ月、それが全身に及ぶまでは三ヵ月、大体見た目が完成するのが半年後、そこからゆっくりと完全な蝋化へ移っていく。

 ところが最初の事件から三人目の事件までは間が三十日しか空いていない。


「これは、死体が蝋化現象に移行せず、そのまま腐敗してしまったからだと考えます」


 つまり、三十日目において屍蝋作りが失敗したと知った伊戸部は、そのときに備えて前から目をつけていた他の娘を誘拐して殺害し、ここに運び込んでは屍蝋を一から作り直したのだ。


「……要するに、ここに並べられてあるのは紛れも無く姉さんたちの遺体なんですね?」


 そう聞いたのは姉の屍蝋のそばに立っていた利奈だ。


「その通りです。そして、蝋人形館の地下アトリエに残された蝋人形はただ姿を似せて作られた蝋人形です」


 “失踪した六人の村娘の行方”という謎に対する結論に、被害者家族の何人かがうめき声を上げた。それが、家族の死亡が確認された悲しみか、今まで自分たちがしてきたことに対するむなしさか、もっともそれを知る術は赤羽には無い。

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