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第14話「異母兄弟」


 本島に戻るヘリの中で、レイは同行の開発大臣を通じ、政府スポークスマンや観光大臣に、様々な指示を与えた。

「発表は素早く、正確に。事件が起こったのは外海でビーチは安全だが、世論は納得しないだろう。ビーチを囲む防護柵の管理・点検を行い安全宣言を出すんだ。人々がアズウォルドの名前を聞いて『ジョーズ』を思い出す前に。迅速に行え」


「殿下、よろしいですか?」

 それまで後方に控えていた補佐官のサトウが、そっとレイの近くに進み出た。レイの公的な携帯に受けた連絡を伝えるためであったが……表情は芳しくない。あまり、喜ばしい内容でないことは一目瞭然であった。だが聞かない訳にもいかない。

「どうした? 王宮からか? それとも」

「アサギ島の宮殿からでございます」

 そこは兄、シン国王が静養と称して滞在中の宮殿であった。


「陛下が……いかがされた?」

 レイは感情を殺してサトウに問い掛ける。兄の身に何かあったのでは、と思うと気が気でない。

「いえ、国王陛下はお変わりなくご静養中とのこと。ただ、日本に里帰りされておられましたミセス・チカコ・サイオンジが、入国ゲートを通らずに、お戻りになられた、とのこと」

  

(またか……)

 ホッとすると同時に行き場のない怒りもこみ上げてくる。陛下の生母であるミセス・サイオンジには、何度申し上げても無申請で日本との間を行き来する。海上エアポートから直接、アサギ島の宮殿に戻ってしまうのだ。彼女の夫であった前国王が許可したと言って譲らない。確かに、許可はしたのだろうが……。

 しかし、まだしばらく戻らないと言っていたはずが、面倒なことになった。アメリカの一部マスコミが、プリンセス探し、などと報じたのが耳に入ったのだろう。女優やモデルなど、目立つ女性を連れまわし、スキャンダラスな報道で打ち消したつもりだったが。

 レイは出来る限り冷静を装い、サトウに質問した。


「ソーヤは? 彼も母親と一緒か?」

「いえ、ソーヤ・サイオンジ中将は海軍演習中でございます。ミセス・サイオンジは連絡を取ろうとされたようですが」

「そのたびに軍事演習では彼も大変だな。では、彼女は一人か?」

「いえ。それが……今回の帰国にあたり、二十代後半と見られる日本人女性を同行されておいでです。現在、身元確認中ですが、多分、先日の報告書にありました女性ではないかと」

(――やはり本気だったのだ)

 レイは側近にも大臣たちにも気付かれぬように、そっとため息をついたのだった。



 十二年前、日本政府とある約束を取り交わした。技術開発の指導と援助を条件に、レイ皇太子妃に日本人女性を迎えることである。それに選ばれたのが当時九歳だった、ミス・ミサキ・トオノだ。彼女は現在二十一歳になっている。本当なら高校を卒業してすぐ、花嫁に迎えるはずだった。

 だが三年前、「せめて二十歳までは親元にいたい」――レイは、ミサキの希望を受け入れ、結婚を二年延ばしたのである。

 ところがその二年後、「大学で学びたいことが出来た。卒業まで待って欲しい」。

 その要求に、アズウォルド国議会から抗議の声が上がった。自由恋愛が建前とはいえ、国家間で決定された婚姻を引き伸ばすことは契約違反である、と。

 しかし、レイはその議会が進言した『婚約破棄案』を退け、二年後の結婚を約束し、ミサキの好きにさせている。

 日本のマスコミは二人の関係を、光源氏と若紫のようだ、と書き連ねた。しかし……それは、レイが手を回してのことであった。



「返す返すも三年前、いや昨年でも、殿下がご結婚なさっておられましたら……」

「仕方あるまい。急き立てては、弱味を見せることになる。譲位を急いでいる、と思わせるわけにはいかない」



 シン国王とレイ皇太子は異母兄弟であった。

 今から四十年前、兄弟の父親である先代国王は、アメリカ人女性との婚約を一方的に解消した。そして、留学中に恋に落ちた日本人女性との結婚を決めたのである。それが、チカコ・サイオンジだ。彼女は妊娠しており、当時カトリックに改宗したばかりの祖父は、渋々チカコとの結婚を認めた。

 だが、三代に渡りアメリカ人女性を王妃に出来なかったアメリカは面子を潰され、アズウォルドへの支援をストップしてしまう。

 政治的に行き詰る中、チカコが夫をそそのかし、身内企業を優先したことが発覚したのである。

 祖父は、それを理由に『国家に対する背任行為』でチカコとの離婚を強制。その後迎えたのが、レイの母、ルビー・ハミルトン……現在のルビー王太后であった。


 伝家の宝刀を抜かれ、一度は王命に従った父だったが……。

 チカコが子供を盾に、アズウォルド十二島のうち日本に一番近いアサギ島に留まると、父もそこに通い始めたのである。

 その結果、ルビーがレイを産んだ翌年、なんとチカコにも次男ソーヤが産まれたのだ。離婚後に産まれた彼は、プリンス・ソーヤではなく、庶子の扱いであった。現在は海軍中将で、母方のサイオンジ姓を名乗っている。

 だがそのことに、先々代国王であった祖父は怒り狂ったのだった。





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