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第13話「アズライト」


「我が国では、アズライトは王族のみが身に付けることの出来る石でございます」

「え? それって……」

「国旗をご覧いただいても判りますように、青は国の色となっております。その中で、最も高貴とされるのが、アズル・ブルーでして、こちらに飾られたアズライトの色でございます。私ども平民は、孔雀石くじゃくいしと結合したアズロマラカイトを、お守りにすることが許されております」

 満面の笑みを浮かべ、女官長は説明してくれたのだった。


 それを聞きながら、ティナはコッソリ右手を背後に回す。袖をキッチリ伸ばして、バングルが隠れるように必死だ。

「あの、参考までにお聞きしたいのですけど……。皇太子殿下が右手首に付けられているバングル……あれは」

「ええ、そうですわ! あれが、アズライトでございます。祖母上さま……フサコさまがご存命の折に、様々な願いを込めて贈られたお品だと聞いております。それはもう大事にされておいでで」


 その大事な品がこの手にあると知れたらどうなるのだろう……。背筋に冷たい汗が伝った。レイは何を考えてこんなことを。


「王族のみがって言われたけれど、普通に売ってますよね? 買ってはいけない、ということ? それとも、身に付けたらいけないのかしら?」 

「ああ、いえ、それはアズウォルド人だけでございます。外国の方には何の制約もございません。どうぞ、気に入った石を見つけられましたら、ぜひ、お買い求め下さいませ」


 罰せられることはなさそうだ。一瞬、王妃になれば処罰されない、という理由で押し切られるのかと考えてしまったが……レイがそんな卑怯な真似をするはずがない。

 だが、これはあまり人前には出さない方が良さそうだ。少し暑いが、ティナは長袖で過ごすことに決めた。外せば良いことだが……自分の手にはめた時の彼の顔が過ぎり、どうしても出来なかった。


「あっ……えっと、皇太子殿下はこの王宮に?」

「執務室はございますが、王宮にお住まいになるのは国王ご一家だけでございます。皇太子さまはあちらに見えます、離宮……セラドン宮殿に住まわれておいでですよ」

 女官長はニッコリ笑って裏手側の窓を指し示した。緩やかな坂を上った小高い丘の中腹に、セラドン・グリーン……青磁せいじ色の上品な建物がある。


「では、あそこに行けば殿下に逢えるんですね」

「あぁ、いえ、今は……。開発大臣とともに第二号油田の視察に向かわれたのではないでしょうか? 何か事故があったと」

「事故! 油田で事故って」

「油田ではなく、作業員の事故のようです。ご帰国をお待ちしてからのご報告でしたので、大事はないと思われますが……」


 アメリカでは忙しなく色んな行事に出ていたようだ。本当は一週間の予定を五日に切り上げた、とニュース番組で聞いた気がする。

 どうしてそんなに急いで、ティナをこの国に連れて来たのだろう? 兄である国王の妃になって欲しいと彼は言った。でも、そんな女に、大事なバングルを渡すなんて……ティナはどうしても直接会って、レイに尋ねたかった。



~☆~☆~☆~



「カケス・ジェイ島からやって来たばかりのガキです。全く、馬鹿をやるにも程がある!」


 二号油田の責任者、ジョージ・カンザキは苦々しげに怒りをぶつけた。

 そこは、本島から二百キロ北にある二番目に設営された油田基地だった。本島より少し涼しいが海面はやはり吸い込まれるように美しい。その基地に配属されたばかりの十八歳の見習い作業員が、ボートでの移動中にセイレーンの誘惑に駆られ、海に飛び込んだのだった。若者同士のくだらない賭けもあったようだ。しかし、その若者を引きずり込もうとしたのは人魚ではなく、海の殺戮者・サメであった。


「では、命に別状ないんだな。足は切断したのか?」

「どうにか、くっついてるようです。詳しい事は医者が報告すると思いますが」

「判った。ご苦労だった。側にいた者はショックも大きいだろう。彼らが充分なカウンセリングを受けられるよう、手配してやってくれ。足りない人員は早急に補充する。よろしく頼む」

 レイ皇太子がそう言ってスッと手を上げると、作業員全員が最敬礼した。

 責任者のミスター・カンザキは、

「お疲れのところ、わざわざありがとうございました。殿下の顔を見たら、みんな落ち着きますよ」

 そう言って、日に焼けた笑顔を見せるのだった。





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