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一髪千鈞を引く

「ママ、どうして僕にはお父さんがいないの?」

「バカね、パパはいるわよ。ただ、そばにいないだけ」

「どうして一緒にいないの?」

「パパには大事なことがあるから」

「僕たちより大事なの?」

ママは少し間を置いて、言った。

「パパはね……」


響はうめき声を漏らし、ゆっくりと目を開けた。

視界に飛び込んできたのは、牛ちゃんの大きな顔だった。


「やっと起きた!」

目を赤くした牛ちゃん。

「三日三晩、ずっと眠りっぱなしだったんだぞ!」


そして振り向いて大声を上げた。

「じっちゃん!響が起きた!」


ニコルが駆け寄り、その後ろからレオン隊長もやって来る。

レオンは響の肩を叩こうとして、包帯だらけの体を見て手を引っ込めた。

笑いながら言う。

「ニコルから聞いたぞ。大手柄だ。」

「領主に報告して、三か月分の褒賞を出してもらう」


響はニコルがどう説明したのか分からず、とりあえず頷いて礼を言った。


夜が更け、野営地は静まり返る。

焚き火には、わずかな火の粉だけが残っていた。


ようやく、ニコルと二人きりになる。

ニコルはそばに座り、そっと響の手を握った。

声にはわずかな高揚が混じっている。

「本当に、よく耐えたな。」


響は眉をひそめる。

「気を失ったところまでしか覚えてない……その後、何があった?」


ニコルは少し間を置いてから言った。

「お前は、自然の魔力まで引き込んで風暴を放った。」

「その反動で、魔力がそのまま体に流れ込んだんだ。」

低く続ける。

「洪水が細い川に流れ込むみたいにな。」

「経脈も骨も、ほとんど壊れかけた。」


響は思わず息を呑む。

倒れる直前の、あの引き裂かれるような痛みが蘇った。


ニコルはさらに言う。

「だが、お前は気絶する直前に、自分に治癒魔法をかけていた。」

「魔法書で覚えたのか?」


響は頷いた。

「ああ、最後の数ページにあった。いざという時のために先に覚えておいたんだ」


ニコルは小さく息を吐く。

「一髪千鈞を引いた。本当に、ぎりぎりだった。」

「その場に高位の魔法使いがいても、助けられたかどうか分からん。」


「お前自身の魔法が、体内に流れ込んだ自然魔力とちょうど共鳴した。」

「それで、ほとんど死にかけの状態から引き戻せたんだ。」


響は深く息を吸い、体内の魔力の流れを確かめる。

手足の感覚はしっかりしていて、魔力も滞りなく巡っていた。

ようやく安堵する。

「……今は、特に問題なさそうだ。」


ニコルは頷く。

「骨折がいくつか残ってるくらいだな。」

彼は響を見て、ふっと笑った。

「お前、本当に運がいい。」


「それで……隊長には?」

ニコルは周囲を見回し、声を潜める。

「三番隊長のことは話してない。」

「奴は三番手だが、実力は盗賊団で二番目の男だ。」


「俺の実力じゃ、説明がつかん。」

さらに身を寄せて続ける。

「道中で手強い盗賊二人に遭遇した、ってことにした。」

「死に物狂いで勝ったが、最後に爆発魔法を使われてな。」

「お前が俺をかばって、爆発を受け止めた……そういう話だ。」


響は軽く頷いた。


ニコルは隊の中で職位がないが、戦場経験が豊富で信頼も厚い。

普段から皆に一目置かれている。


その後の数日、兵士や副隊長が入れ替わりで様子を見に来た。

天幕の入口から顔を出し、軽く声をかけていく。

「このガキ、しぶといな。」

「いい働きだったぞ。」


響の活躍もあってか、奴隷たちへの扱いも少し柔らいだ。

響は両手を包帯で巻かれ、碗を持つこともできない。

最初は牛ちゃんだけが食事を運んでいたが、やがて奴隷たちが自然と交代で世話をするようになった。


響自身も何度か治癒魔法を試してみたが、効果は大きくない。

骨の回復が、わずかに早くなる程度だった。


その報告を聞き、ニコルはしばらく考え込む。

「俺の知る限り、治癒魔法を使える人間自体が少ない。」

そして響の肩を軽く叩いた。

「今は気にするな。体がもう少し戻ったら――」

「戦場で一番大事な、身軽さの技を教えてやる。」


軽身術――。

響は思わず、また治癒の旋律を小さく口ずさんだ。

少しでも早く回復するために。

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