8話 ― 再会、そして違和感 ―
境界付近、“グレイゾーン”。
昼とも夜ともつかない、曖昧な空の下。
「……やっぱり来ちゃった」
リミアは小さく呟いた。
理由は、自分でも分かっている。
“あの時の続き”を、どこかで求めていた。
「……バカだな、私」
苦笑する。
本来なら、来るべき場所じゃない。
でも——
「……来ると思ってた」
その声に、リミアの心臓が跳ねた。
振り向く。
そこにいたのは——
「ヤミア……!」
夜実だった。
前と同じように、どこか気だるそうに立っている。
だが、その瞳は前より少しだけ鋭かった。
「また迷子か」
「違います!」
即否定。
だが、そのやり取りに少しだけ懐かしさが混じる。
「……無事だったんだな」
夜実がぽつりと言う。
「うん。そっちも」
「まあな」
短い会話。
それだけなのに——
なぜか少し安心する。
⸻
「……あのさ」
リミアが少しだけ真面目な顔になる。
「この前のこと……ごめん」
「何がだ」
「師匠が……攻撃して」
「ああ」
夜実はあっさりと頷く。
「気にしてない」
「でも——」
「敵なんだろ」
その一言で、空気が変わる。
リミアの言葉が止まる。
「……」
「光族と闇族」
夜実は淡々と続ける。
「そういうもんだ」
割り切ったような言い方。
だが——
「……そう、だけど」
リミアは俯く。
納得していない。
「でも、それだけじゃないって思う」
顔を上げる。
「少なくとも、私は」
まっすぐな視線。
夜実は少しだけ目を細めた。
「……変わらないな、お前」
「変わらないよ」
即答。
その強さが、少しだけ眩しい。
⸻
「で、今日は何しに来た」
夜実が話題を変える。
「えっと……」
少し迷ってから、
「会いに来た」
そう言った。
「……は?」
一瞬、思考が止まる。
「また話したいなって思って」
悪びれもなく言う。
夜実は頭を押さえた。
「お前な……」
「ダメ?」
「……」
普通なら、即否定する。
こんな関係はあり得ない。
危険だし、意味もない。
だが——
「……少しだけなら」
気づけば、そう答えていた。
⸻
「それでね、最近——」
リミアは楽しそうに話し始める。
モンスターのこと。
議会でのこと。
アリシアのこと。
夜実は適当に相槌を打ちながら聞いていた。
「——で、アリシアが“顔に書いてある”って言ってきて!」
「実際書いてあるんじゃないか」
「書いてない!」
少し笑う。
その時間は、妙に自然だった。
本来ならあり得ないはずなのに。
「ヤミアは?」
リミアが聞く。
「最近どう?」
「……別に」
「絶対なんかあるでしょ」
「ない」
「ある顔してる」
「どんな顔だ」
「“めんどくさいけど話したいことある顔”」
「そんな顔はない」
だが——
少しだけ、沈黙。
「……一人、いる」
夜実がぽつりと言う。
「親友が」
「へえ!」
リミアの目が少し輝く。
「どんな人?」
「……うるさいやつだ」
「それだけ?」
「それだけで十分だ」
少しだけ柔らかい声だった。
「強いの?」
「……まあな」
「ヤミアより?」
「……どうだろうな」
珍しく、曖昧な答え。
リミアは少し驚いた。
⸻
その時だった。
「——ねえ」
声。
だが、それはリミアのものでも、夜実のものでもない。
二人は同時に振り向く。
そこにいたのは——
黒瀬 迅。
「へえ」
ニヤッと笑う。
「これが、例の光族?」
空気が、変わる。
「……迅」
夜実の声が低くなる。
「なんでここにいる」
「たまたま通りかかっただけ」
軽い口調。
だが、その目は——
リミアをじっと見ていた。
「ふーん……」
一歩、近づく。
「確かに、“普通”だね」
「……」
リミアは少しだけ警戒する。
「でもさ」
迅の影が、わずかに揺れる。
「あんまり深入りしない方がいいよ」
その声は、さっきまでと違っていた。
「壊れるから」
「……え?」
意味が分からない。
だが——
嫌な予感だけは、はっきりとあった。
「迅、やめろ」
夜実が前に出る。
「別に何もしてないじゃん」
笑う。
「忠告しただけ」
だが、その笑みは——
どこか歪んでいた。
⸻
「……行くぞ」
夜実が低く言う。
「え、でも——」
「いいから」
有無を言わせない。
リミアは少し戸惑いながらも頷いた。
「……また」
小さく言い残して、立ち去る。
⸻
残された迅は、しばらくその背中を見ていた。
「……あれが、光か」
ぽつりと呟く。
その手に、黒い影が絡みつく。
「確かに——」
その影は、どこか“異質”だった。
「壊したくなるね」
その笑みは、完全に“何かに侵されていた”。
⸻
そして、遠くからそれを見ている存在がいた。
「……いいね」
フレミシア・オールス。
「順調に歪んでる」
その瞳は、すべてを見ていた。
「さあ——」
静かに微笑む。
「どこまで耐えられるかな?」
ーーー→ continue to next story




