7話 ― 光に潜む亀裂 ―
王都 《ルミナリア》、中央議会。
そこは光族の中枢——政治と意思決定の場だった。
白く輝く大理石の床。
天井から降り注ぐ人工の光。
そのすべてが“清らかさ”を演出している。
だが——
「——境界付近での異常個体の発生、これは看過できません」
一人の男が声を上げる。
金色の長髪を後ろに流した、威圧感のある人物。
「闇族の侵入である可能性が高い」
その言葉に、ざわめきが広がる。
「証拠はあるのか?」
別の議員が問う。
「完全ではない。だが——」
男は視線を細める。
「王女が接触した闇族の存在。これが何よりの証拠だ」
その瞬間。
空気が凍りついた。
⸻
「……どういう意味ですか」
静かな声。
リミアだった。
議場の中央、王族席に立っている。
「そのままの意味です、王女」
男は冷ややかに言う。
「あなたは闇族と接触した」
「それは……」
否定できない。
「しかも、生かして帰した」
その言葉に、さらにざわめきが広がる。
「それが何を意味するか——お分かりですよね?」
疑い。
明確な、敵意。
「……私は」
リミアは拳を握る。
「敵かどうかを、自分の目で判断したかっただけです」
「甘い」
即座に切り捨てられる。
「それがどれほど危険な思想か、理解していない」
「思想……?」
「そうだ」
男は一歩踏み出す。
「光族と闇族は、相容れない存在だ」
断言だった。
「それは歴史が証明している」
その言葉に、多くの議員が頷く。
「だが——」
リミアは顔を上げる。
「それは“今”もそうだって、誰が決めたんですか?」
一瞬、沈黙。
「……何を言っている?」
「昔の争いを、そのまま続けてるだけじゃないですか!」
声が、強くなる。
「本当に、それが正しいんですか?」
その問いに——
空気が変わる。
「……危険だな」
男が低く呟く。
「王女は、“思想に汚染されている”」
ざわめきが、さらに大きくなる。
「違います!」
「違わない」
冷たい声。
「闇族と接触した者は、必ず影響を受ける」
その言葉に、リミアの胸がざわつく。
——本当に、そうなのか?
一瞬だけ、迷いが生まれる。
だが——
「……私は、間違っていません」
はっきりと言い切った。
「自分で見て、自分で決めます」
その強さに、場がわずかに揺れる。
⸻
「……もういい」
セレナの声だった。
静かだが、圧がある。
「この議論は、ここまでに」
その一言で、場が止まる。
「しかし——」
「以上です」
有無を言わせない。
議会は、強制的に打ち切られた。
⸻
廊下。
「……大丈夫ですか、リミア様」
アリシアが心配そうに覗き込む。
「うん……」
そう答えながらも、リミアの表情は晴れない。
「……怖かった?」
「ちょっとだけ」
正直に答える。
「でも、それ以上に——」
リミアは小さく息を吸う。
「悔しかった」
その瞳には、確かな意志があった。
⸻
「……随分と強くなりましたね」
後ろから、別の声。
振り向くと、一人の青年が立っていた。
柔らかな笑み。
整った顔立ち。
どこか落ち着いた雰囲気。
「エルディア」
リミアは少し安心したように笑う。
エルディア・セレスト。
王城に仕える若き魔導士。
穏やかで、誰に対しても優しい人物。
「議会、見てましたよ」
「……恥ずかしいところを」
「いいえ」
エルディアは首を振る。
「立派でした」
その言葉に、リミアは少し照れる。
「ありがとうございます」
「でも——」
ふと、エルディアの声がわずかに低くなる。
「気をつけてください」
「え?」
「この国は、思っているより……」
一瞬、言葉が止まる。
だがすぐに、いつもの笑みに戻った。
「いえ、なんでもありません」
「……?」
小さな違和感。
だが、それはすぐに流れてしまう。
⸻
その夜。
エルディアは、一人で城の外へ出ていた。
人気のない路地。
光の届かない、わずかな“影”。
「……遅かったな」
低い声。
そこにいたのは——
黒い外套をまとった人物。
顔は見えない。
「申し訳ありません」
エルディアは、静かに頭を下げる。
「王女の動きが予想以上に……」
「構わない」
短く返される。
「で、どうだ」
「……順調です」
その声は、昼間とはまるで違っていた。
冷たく、感情がない。
「内部の亀裂も、広がりつつあります」
「そうか」
満足げな気配。
「ならば——」
外套の人物は、わずかに笑う。
「次の段階へ進めるな」
その瞬間、空気が歪んだ。
「……はい」
エルディアは静かに頷く。
その瞳は——
完全に“闇”に染まっていた。
⸻
光の中に潜む影。
まだ誰も気づいていない。
その裏切りが、すべてを崩す引き金になることを。
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