6話 ― 闇に生きる者たち ―
闇族領 《ノクス》は、今日も静かだった。
光はない。
だが、その代わりに——“影”が生きている。
建物の隙間、路地裏、屋根の上。
どこにでも潜むそれらは、闇族にとっては“当たり前”の風景だった。
「で、結局その光族の子と仲良くなったわけ?」
軽い声が響く。
「……語弊がある」
夜実はため息混じりに答えた。
「助けただけだ」
「でも会話したんでしょ?」
「……したな」
「はいアウト〜」
「何がだ」
「完全にフラグじゃんそれ」
ニヤニヤと笑う少年。
夜実は心底めんどくさそうな顔をした。
「くだらない」
「くだらなくないって。そういうのが一番面白いんだから」
そう言って笑うこの男——
名を、黒瀬 迅。
夜実の親友であり、数少ない“対等に話せる相手”。
そして——
闇族の中でも、かなりの実力者だった。
「それにさ」
迅は少しだけ真面目な顔になる。
「光族って、どうだった?」
「……」
夜実は少しだけ考える。
「……普通だった」
「普通?」
「ああ」
思い出すのは、あの少女。
リミアの笑顔。
「思ってたより……」
言葉が、少しだけ詰まる。
「……変なやつだった」
「いやそれお前もだからな?」
即ツッコミ。
夜実は無視した。
⸻
「でもさ」
迅は空を見上げる。
もちろん、そこにあるのは闇だけだ。
「もしさ、仲良くなれたらどうする?」
「は?」
「光族と闇族がさ、普通に話せる世界」
軽く言う。
だが——
その言葉は、この世界では“あり得ない仮定”だった。
「……無理だろ」
夜実は即答した。
「そう?」
「対立してる理由がある」
「でも、それって“昔の話”じゃん?」
「……」
「俺らはさ、その続きをただなぞってるだけかもしれないよ?」
その言葉に、夜実は少しだけ黙る。
「……珍しく、まともなこと言うな」
「珍しくは余計だろ」
笑う迅。
だが、その目は少しだけ真剣だった。
⸻
「じゃあさ、証明してみようぜ」
「何をだ」
「お前が“最強”だってこと」
唐突だった。
「は?」
「だってそうだろ?」
迅はニヤッと笑う。
「お前、自分で言ってたじゃん。“強いからいい”って」
「……言ったな」
「じゃあ、その強さ」
一歩、前に出る。
「見せてよ」
空気が変わる。
軽さが、消える。
「……本気か?」
「もちろん」
迅の影が、揺れる。
「たまには全力でやろうぜ」
その言葉に、夜実は小さく息を吐いた。
「……いいだろ」
影が広がる。
「後悔するなよ」
「それ、こっちのセリフ」
二人は、同時に構えた。
⸻
「——《シャドウ・ランス》!」
迅が先に動く。
無数の影の槍が、夜実へと放たれる。
「遅い」
夜実は一歩踏み込み、そのすべてを“斬り裂いた”。
「やっぱバケモンだな、お前」
「褒め言葉として受け取っておく」
「まだまだ!」
迅は笑う。
影が、さらに濃くなる。
「——《ナイトメア・フィールド》」
空間が歪む。
視界が暗く染まる。
精神に干渉する中級魔法。
だが——
「効かないな」
夜実は平然としていた。
「だと思ったよ!」
迅は笑いながら、さらに距離を詰める。
近接戦。
拳と影が交差する。
「はっ!」
「甘い」
一瞬の隙を突き、夜実の一撃が迅の腹に入る。
「ぐっ……!」
吹き飛ぶ。
だが——
「……やっぱ強えな」
立ち上がる。
口元に血をにじませながらも、笑っていた。
「でもさ」
その瞳が、ほんの一瞬だけ鋭くなる。
「その強さ——」
影が、異様に“歪む”。
「ちゃんと、使いこなせてる?」
その言葉に。
夜実は、わずかに眉をひそめた。
⸻
次の瞬間。
迅の影が、“形を変えた”。
それは、通常の魔法とは明らかに違うものだった。
「……それ」
夜実の声が低くなる。
「どこで手に入れた」
迅は、少しだけ笑う。
「さあね」
だが、その笑みは——
どこか、いつもと違っていた。
「面白いよ、これ」
影が、さらに濃くなる。
「世界、変わるかもね」
その言葉に、夜実の中で何かが引っかかる。
——違う。
何かが、おかしい。
「……迅」
「ん?」
「それ、やめろ」
「なんで?」
「……嫌な感じがする」
本能的な違和感。
だが——
迅は、笑ったままだった。
「大丈夫だって」
その一言が。
後に取り返しのつかない未来へ繋がることを——
この時の夜実は、まだ知らない。
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