5話 ― 混ざり合う力 ―
「——《ルクス・スラッシュ》!」
リミアの放った光の刃が、異形の獣へと叩き込まれる。
だが——
「っ、また弾かれた……!」
表面に当たった瞬間、光が歪んで散った。
まるで、何かに“拒絶”されているかのように。
「普通の個体じゃないですね……!」
アリシアが剣を構え直す。
「闇の力が混ざってる……!」
「うん……でも——」
リミアは歯を食いしばる。
「だからって、引くわけにはいかない!」
その瞬間、獣が動いた。
地面を砕く勢いで突進してくる。
「速い!?」
「アリシア、右に!」
「はい!」
二人は同時に散開。
だが、獣はそのままリミアへと向きを変えた。
「——っ!」
避けきれない。
そう思った瞬間——
「危ない!!」
アリシアが飛び込んだ。
「——《ルクス・ガード》!」
光の障壁が展開される。
だが——
「きゃっ……!」
砕かれる。
衝撃でアリシアの体が弾き飛ばされた。
「アリシア!!」
リミアの声が響く。
倒れたまま動かない。
「……っ」
頭の中が、真っ白になる。
——守れなかった。
その感情が、胸を締めつける。
「なんで……」
震える手。
「なんで……通じないの……!」
光が効かない。
届かない。
守れない。
その現実が、リミアを追い詰める。
⸻
その時だった。
「——それ、本当に“光”か?」
低い声が、響く。
「……え?」
一瞬だけ、世界が止まったように感じた。
だが——
すぐに現実へ引き戻される。
目の前には、迫る獣。
「……違う」
リミアは呟く。
「こんなの……私の知ってる光じゃない」
胸の奥が、ざわつく。
あの時。
境界で感じた、あの違和感。
夜実と出会った時に感じた“何か”。
それが、今ここで繋がる。
「……混ざってる」
光の中に、別の何かがある。
それを拒んでいる。
だから——
「だったら……!」
リミアは目を閉じる。
深く、息を吸う。
「分ければいい……!」
魔力を、感じる。
流れを、掴む。
光と——それ以外を。
「——《リュミエール・ピュア》」
今までとは違う光が、手の中に生まれた。
それは、澄んでいた。
混じり気のない、純粋な光。
「いける……!」
確信。
リミアは前へ出る。
「はあああっ!!」
振り下ろす。
光が、獣を斬り裂いた。
今度は——
「通った……!」
確かな手応え。
獣が悲鳴を上げる。
「もう一度!」
「——《リュミエール・ピュア》!」
二撃目。
三撃目。
そのすべてが、確実に届く。
そして——
「これで終わり!」
最後の一撃が、核を貫いた。
⸻
静寂。
獣は崩れ落ち、そのまま消えていった。
「……はあ、はあ……」
リミアはその場に膝をつく。
魔力の消耗が激しい。
だが——
「アリシア!」
すぐに立ち上がり、駆け寄る。
「……う、うーん……」
「よかった……!」
アリシアは目を覚ました。
「リミア様……無事ですか……?」
「うん、大丈夫!」
思わず抱きつく。
「ちょ、近いですって……!」
「よかった……本当に……」
その声は、少し震えていた。
⸻
「……見事です」
後ろから、セレナの声。
「師匠……!」
「今のは、あなた自身の力です」
珍しく、はっきりとした評価だった。
「……はい」
リミアは小さく頷く。
だが——
その表情には、迷いが残っていた。
「……でも」
「なんですか」
「さっき……変な声が聞こえた気がして……」
セレナの目が、わずかに細まる。
「声?」
「はい。“それは本当に光か”って……」
その言葉に、セレナは沈黙した。
数秒。
「……気のせいでしょう」
そう言った。
だが——
その声は、わずかに硬かった。
⸻
その夜。
王城の一室。
セレナは一人、窓の外を見ていた。
「……始まってしまったのね」
小さく呟く。
その瞳には、わずかな焦りがあった。
「このままでは——」
その言葉は、最後まで紡がれなかった。
⸻
同じ頃。
闇族領 《ノクス》。
「へえ、境界でそんなことが」
軽い口調の声。
夜実の前に立つのは、一人の少年。
「面白そうじゃん」
黒髪に、どこか軽薄そうな笑み。
「……興味ない」
夜実は短く答える。
「またまた〜。そんな顔して?」
「どんな顔だ」
「“退屈じゃなくなりそう”って顔」
図星だった。
夜実は少しだけ眉をひそめる。
「……うるさい」
少年は笑う。
「まあいいけどさ」
その瞳は、どこか鋭かった。
「そのうち、絶対巻き込まれるよ」
「……何にだ」
「世界の話」
軽く言う。
だが——
その言葉は、妙に重かった。
「ま、楽しみにしときなよ」
その少年こそ——
夜実が“最強”だと信じ、そして心から信頼する親友。
だが、まだ誰も知らない。
彼が、やがて命を落とす存在であることを。
ーーー→ continue to next story




