4話 ― 光の中の影 ―
王都 《ルミナリア》は、今日も変わらず輝いていた。
だが——
「……集中しなさい、リミア」
「してますよ!」
王城の訓練場には、やや緊張感の欠けた声が響いていた。
「その状態で魔力が乱れているのを“集中”とは言いません」
セレナは腕を組み、淡々と指摘する。
リミアは少し不満そうに頬を膨らませた。
「だって……今日はちょっと……」
「ちょっと?」
「……なんでもないです」
視線を逸らす。
セレナは一瞬だけ、その様子を見逃さなかった。
「……境界での件ですか」
「——っ」
図星だった。
リミアの肩がわずかに揺れる。
「王女」
セレナの声は、いつもより少しだけ柔らかかった。
「情を持つこと自体は否定しません」
「……」
「ですが、それが判断を鈍らせるなら——それは“弱さ”です」
静かな言葉。
だが、重い。
リミアは下を向いたまま、小さく呟く。
「……強くなりたいです」
「ならば」
セレナは一歩近づく。
「感情から逃げないことです」
「……え?」
予想外の言葉だった。
「迷いも、優しさも、怒りも——すべて受け入れなさい」
セレナの瞳は、真っ直ぐだった。
「それが、本当の強さです」
その言葉に、リミアは少しだけ目を見開く。
「……はい」
小さく、だが確かに頷いた。
⸻
その日の午後。
「リミア様ー!」
元気な声が、廊下に響いた。
振り向くと、明るい金髪の少女が手を振っている。
「アリシア!」
リミアも笑顔になる。
アリシア・ルークス。
リミアの幼なじみであり、護衛騎士見習い。
とにかく明るくて、少し騒がしい。
「今日も修行ですか?大変ですね〜」
「うん……まあね」
「顔が死んでますよ?」
「そんなことないよ!?」
「いや、完全に“疲れた顔ランキング1位”です」
「そんなランキングあるの!?」
軽い掛け合い。
さっきまでの重い空気が、少しだけ和らぐ。
「で、どうしたの?」
「実はですね——」
アリシアは少しだけ声を潜める。
「最近、“外れ”の方でモンスターの出現が増えてるらしいんです」
「外れ……って、境界付近?」
「はい。しかも、普通より強いやつが」
リミアの表情が変わる。
「……そうなんだ」
頭の中に、あの森の光景が浮かぶ。
夜実と出会った場所。
「興味あります?」
アリシアはニヤッと笑う。
「顔に書いてありますよ。“行きたい”って」
「書いてないよ!?」
「いや、でっかく書いてあります」
「うそでしょ……」
完全に見抜かれていた。
⸻
「……で、結局来たわけだ」
夕暮れ。
王都から少し離れた森の入口。
セレナは呆れたように言った。
「いや、その……視察です!」
「ほう」
「本当です!」
「アリシア」
「はい!」
「あなたが誘いましたね」
「はい!」
即答だった。
「……正直ですね」
セレナは小さくため息をつく。
「ですが、ちょうどいい」
「え?」
「実戦訓練にします」
空気が引き締まる。
「王女、アリシア」
「はい!」
「今回は私も手出ししません。自分たちで対処しなさい」
その言葉に、二人の表情が変わる。
「……わかりました」
リミアはしっかりと頷いた。
⸻
森の奥。
空気が、明らかに違っていた。
「……なんか、嫌な感じしますね」
アリシアが小声で言う。
「うん……」
静かすぎる。
風も、音も、どこか不自然だった。
その時——
「——来る!」
リミアが叫ぶ。
次の瞬間、地面が裂けた。
現れたのは、異形の獣。
全身が黒く歪み、目だけが異様に光っている。
「なに、あれ……!」
アリシアが息を呑む。
「普通のモンスターじゃない……!」
リミアは構える。
「いくよ!」
「はい!」
二人は同時に動いた。
光が走る。
剣が閃く。
だが——
「硬い……!?」
攻撃が通らない。
「なんで……!?」
その瞬間、リミアは気づく。
——この気配。
「……闇の力……?」
光族の領域のはずなのに。
なぜ、闇がここにあるのか。
その違和感が、胸をざわつかせる。
⸻
遠くから、それを見ている影があった。
「……混ざり始めている」
低い声。
「いい兆候だ」
その人物の周囲には、わずかに“歪み”が生じていた。
「光も闇も——まだ足りない」
ゆっくりと笑う。
「もっと壊れてもらわないとね」
その存在こそ——
この世界の“歪み”そのものだった。
⸻
戦いは、まだ続く。
そしてリミアはまだ知らない。
この戦いが、
仲間を失う未来へと繋がっていることを。
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