3話 ― 交わらない光と闇 ―
白い光が、空気を裂いた。
「——っ!」
夜実は反射的に後方へ跳ぶ。
だが、完全には避けきれない。
光の刃が腕をかすめた瞬間——
「ぐっ……!」
焼けるような痛みが走る。
ただの斬撃ではない。
“存在そのもの”を削られるような感覚。
「……なるほど」
夜実は低く呟いた。
「これが、光族の魔法か」
傷口からは黒い影がわずかに滲み出ている。
通常の攻撃とは明らかに違う。
——相性が、最悪だ。
「感心している場合ではありません」
セレナは一歩踏み込む。
その動きに無駄は一切ない。
「闇族を見逃す理由はありませんので」
「……容赦ないな」
「当然です」
言葉と同時に、再び光が収束する。
「——《ルクス・スピア》」
今度は無数の光の槍。
一直線ではなく、軌道を変えながら襲いかかる。
「ちっ……!」
夜実は影を展開する。
「——《シャドウ・シールド》」
黒い膜が広がり、光を受け止める。
だが——
「ぐっ……!」
防ぎきれない。
光が、影を侵食してくる。
「やっぱりな……!」
闇族は光に弱い。
それは知識ではなく、今この瞬間に“実感”として刻まれた。
防御が崩れる。
次の一撃が来る。
——その瞬間。
「やめてください!!」
リミアが二人の間に飛び込んだ。
「どいてください、王女」
「嫌です!」
強い声だった。
セレナの動きが、一瞬だけ止まる。
「この人は……私を助けてくれたんです!」
「……だからといって」
「敵だとしても!」
言い切った。
森に、静寂が落ちる。
「……」
セレナはリミアを見つめる。
その瞳は、冷静で——そして、どこか試すようだった。
「王女」
「……はい」
「あなたは、この者が何者か理解していますか?」
「……闇族です」
「ならば」
「それでもです!」
被せるように、リミアは言った。
「それでも、この人は……悪い人じゃない!」
迷いは、なかった。
その言葉に——
夜実は、ほんの一瞬だけ目を見開いた。
⸻
「……甘いですね」
セレナは小さく息を吐いた。
「ですが——」
光が、ふっと消える。
「今回は引きます」
「え……?」
リミアが驚く。
「王女の意思を、無視するわけにはいきませんから」
そう言いながらも、視線は夜実から外さない。
「ですが」
その声は、冷たいままだった。
「次に会えば——容赦はしません」
完全な敵意。
それを受けて、夜実は静かに答える。
「……望むところだ」
強がりではなく、本心だった。
だがその直後、リミアが振り向く。
「望まないでください!」
「……なんでだ」
「戦わなくていいなら、その方がいいじゃないですか!」
まっすぐだった。
あまりにも。
夜実は少しだけ言葉に詰まる。
「……お前な」
「だってそうでしょ?」
「……」
否定できなかった。
⸻
「帰りますよ、王女」
セレナが静かに言う。
「……はい」
リミアはうなずく。
だが、その足はすぐには動かなかった。
少しだけ、夜実の方を見る。
「……ヤミア」
「なんだ」
「また……会えますか?」
その問いは、本来ならあり得ないものだった。
光族と闇族。
再び会う理由など、本来は“戦い”しかない。
だが——
「……さあな」
夜実は少し考え、
「お前がまた迷子になれば、あるいはな」
そう言った。
「迷子じゃないです!」
即座に否定。
そのやり取りに、ほんの少しだけ空気が緩む。
「……じゃあ」
リミアは小さく息を吸って、
「また、会いましょう」
そう言って、背を向けた。
⸻
去っていく光。
残される闇。
夜実はしばらくその場に立っていた。
「……変なやつだな」
ぽつりと呟く。
胸の奥に、わずかな違和感。
それが何なのか、まだ分からない。
だが——
確かに、何かが変わり始めていた。
⸻
その頃。
遥か上空。
誰にも見えない場所で、“それ”は観測していた。
「……始まったね」
淡い声。
白でも黒でもない存在。
フレミシア・オールス。
その瞳は、すべてを見通しているかのようだった。
「光と闇が、交わる時——」
微笑む。
「世界は、再び動き出す」
だが、その笑みには。
わずかな狂気が混じっていた。
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