2話 ― 境界の出会い ―
「……で、なんでそんなところにいたんだ?」
闇族の少年——夜実は、倒れたモンスターの死骸を軽く蹴りながら言った。
リミアは少し言葉に詰まる。
「えっと……視察、というか……その……ちょっと冒険みたいな……」
「迷子か」
「違います!」
即答だった。
だが、その直後に目を逸らすあたり、説得力はない。
夜実は小さくため息をついた。
「ここは境界だぞ。光族が一人で来る場所じゃない」
「それは……あなたも同じじゃないですか」
言い返す。
一瞬だけ、沈黙。
——確かにその通りだった。
夜実は肩をすくめる。
「俺は別にいいんだよ。強いから」
「……自分で言います?」
「事実だ」
迷いが一切ない。
リミアは思わず少しだけ笑ってしまった。
「……変な人」
「初対面でそれか?」
「だって、本当に変なんですもん」
くすくすと笑うリミアを見て、夜実は少しだけ目を細めた。
——変なやつだ。
普通なら、もっと警戒するはずだ。
闇族と分かれば、恐れるか、逃げるか。
それなのに。
「……お前もな」
ぽつりと呟く。
「え?」
「いや、なんでもない」
夜実は視線を逸らした。
⸻
「ところで、名前は?」
少し歩いたところで、リミアが聞いた。
夜実は一瞬だけ迷う。
——本名を名乗るべきか。
だが、なぜか。
「……ヤミアでいい」
結局、そう答えた。
完全な嘘ではないが、本名でもない。
「ヤミア……か」
リミアはその名前を小さく繰り返す。
「いい名前ですね」
「そうか?」
「うん。なんか、静かで……強そう」
「適当だな」
「適当じゃないです!」
少しだけ頬を膨らませる。
その反応が子供っぽくて、夜実は思わず吹き出しそうになるのを抑えた。
「……で、お前は?」
「あ、そうでした。私は——」
言いかけて、止まる。
——王女だと知られたら、面倒になる。
「……リミアです」
ほんの少しだけ、本当を隠した。
「リミア、か」
夜実はその名前を口の中で転がす。
「そっちも、悪くない名前だな」
「でしょ?」
なぜか少し誇らしげだった。
⸻
森を抜ける道中、二人は並んで歩いていた。
奇妙な光景だった。
本来なら、絶対に交わらないはずの二人。
光族と闇族。
それなのに、今はこうして普通に会話をしている。
「ヤミアって、よくここに来るんですか?」
「たまに。強いやつが出るからな」
「……戦うの好きなんですか?」
「別に。弱いのがつまらないだけだ」
淡々とした答え。
リミアは少しだけ考える。
「じゃあ、楽しいことって何ですか?」
「……」
夜実は答えなかった。
考えたこともなかった。
楽しいこと。
そんなものを。
「……ないな」
しばらくして出た答えは、それだった。
「えー、それはもったいないですよ!」
「もったいない?」
「人生、楽しまないと損です!」
妙に力強い。
夜実は少しだけ呆れる。
「そんなもんか?」
「そんなもんです!」
自信満々だった。
その様子が、少しだけ眩しく見えた。
⸻
「……あ」
ふと、リミアが立ち止まる。
「どうした」
「その……服、破れてますよ」
夜実の腕を指差す。
戦闘で裂けた布の隙間から、肌が見えていた。
「ああ、さっきのか」
気にした様子もない。
だが——
「ちょっと待ってください」
リミアは近づき、そのまま布に手を伸ばす。
「おい、何を——」
「じっとしててください!」
「……」
有無を言わせない勢いだった。
リミアの手が、そっと触れる。
次の瞬間——
「《リュミエール・スレッド》」
細い光の糸が生まれ、布を縫い合わせていく。
応急処置の魔法。
だが、その精度は高かった。
「……すごいな」
思わず、夜実は呟いた。
「えへへ、こういうのは得意なんです」
少し照れながら笑う。
その距離は、かなり近かった。
「……近い」
「え?」
「顔が」
「——っ!?」
リミアは一気に後ろに飛び退いた。
「す、すみません!」
「別にいい」
「よ、よくないです!」
顔が少し赤い。
夜実はその様子を見て、なぜか少しだけ面白いと感じた。
⸻
その時だった。
「——見つけました、王女」
冷たい声が、森に響く。
空気が一変した。
リミアの表情が凍る。
振り向いた先にいたのは——
セレナ・ヴァルシス。
「……師匠」
その視線は、まっすぐ夜実へと向けられていた。
鋭く、そして明確な敵意。
「闇族……」
その一言で、空気が張り詰める。
夜実もまた、一歩前に出た。
「……知り合いか?」
「違います!」
即答だった。
だが、それが逆に不自然だった。
セレナはゆっくりと手を上げる。
光が集まる。
「王女、離れてください」
「待ってください!」
リミアが叫ぶ。
だが——
もう遅かった。
「——《ルクス・ブレイク》」
光が、放たれる。
⸻
光と闇。
決して交わらないはずの二つが、今、衝突する。
そして——
まだ知らない。
この出会いが、世界を変える引き金になることを。
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