外典 ― 観測者フレミシア・オールス ―
世界がまだ、分断される前。
光も闇も分かれていなかった頃。
その時代から——
“彼女”は存在していた。
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■ 観測者という存在
フレミシア・オールスは、人間ではない。
かといって、神でもない。
彼女は——
「観測する存在」
それだけで定義される。
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「世界ってさ」
誰もいない空間で、彼女は呟く。
「“見られてる”ことで、確定するんだよ」
それは、この世界の根本的なルール。
誰かが見ることで、現実は“形”を持つ。
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そして——
彼女は、その“誰か”の中でも特別だった。
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「私はね」
少しだけ笑う。
「世界の“外側”から見てる」
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■ フレミシアの正体
彼女の正体。
それは——
「複数の可能性を同時に観測できる存在」
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通常、人は一つの現実しか生きられない。
だがフレミシアは違う。
分岐した未来。
選ばれなかった可能性。
壊れた世界線。
すべてを“同時に見ている”。
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「この世界もさ」
指を軽く振る。
空間に、いくつもの“別の世界”が映る。
「何百、何千とある中の一つ」
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その中で——
最も“面白い流れ”を辿っているのが、この物語の世界だった。
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■ アルトとの関係
「……あいつは、ちょっと惜しかった」
フレミシアは呟く。
アルト・オルディア。
世界を分断した張本人。
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「発想は良かったんだよ」
争いをなくすために、世界を変える。
それ自体は、間違いじゃない。
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「でもね」
目を細める。
「“一つの答え”に固執した時点で、終わり」
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フレミシアは知っていた。
別の可能性を。
別の結末を。
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「もっと面白い未来も、あったのにね」
だが——
アルトはそれを“選ばなかった”。
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■ なぜ介入したのか
「本当はね」
フレミシアは座り込む。
「私は、何もしない」
それが観測者のルール。
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だが、この世界では——
「ちょっとだけ、手を出した」
理由は単純。
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「このままだと、“つまらない終わり方”だったから」
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迅の暴走。
エルディアの裏切り。
リミアと夜実の出会い。
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それらすべてに、ほんの少しだけ“ズレ”を与えた。
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「完全に壊れるか」
「それとも、乗り越えるか」
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その“揺らぎ”を作ったのが、フレミシアだった。
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■ 感情はあるのか
「……よく聞かれるんだよね」
フレミシアは笑う。
「感情、あるのかって」
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答えは——
「あるよ」
あっさり。
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「ただ、人間とちょっと違うだけ」
悲しみも、怒りも、理解できる。
でも——
それに“縛られない”。
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「だからさ」
少しだけ遠くを見る。
「死ぬのは、嫌いじゃない」
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重い言葉。
だがその意味は、単純ではない。
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「“終わり”があるから、物語は面白い」
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■ リミアと夜実について
「あの二人はね」
少しだけ、優しくなる。
「かなり珍しい」
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光と闇。
本来なら、反発するはずの存在。
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「でも、あいつらは“選んだ”」
分断ではなく、共存を。
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「だから」
小さく笑う。
「ちょっとだけ応援したくなった」
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それは、観測者としては——
かなり異例の感情だった。
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■ 本当の役割
フレミシアは、ただ見ているだけではない。
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「“終わりすぎないようにする”」
それが、彼女の役割。
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世界が完全に停滞することも、
完全に崩壊することも、
どちらも“つまらない”。
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「だから、揺らす」
ほんの少しだけ。
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「選択肢を、増やす」
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それが、彼女のやり方。
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■ そして、これから
「……さて」
フレミシアは立ち上がる。
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「この世界は、とりあえず合格」
公転は戻った。
共存の道も始まった。
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「でも」
少しだけ笑う。
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「まだまだ、見てたいね」
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その目には、無数の未来が映っている。
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「次は、どんな選択するのかな」
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彼女は、消える。
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どこへでもなく。
どの世界へでもなく。
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ただ——
“観測するために”。
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― 観測者フレミシア・オールス ― 完 ―




