後日譚 ― 観測者は、祝福する ―
高い場所だった。
世界のすべてが見えるような場所。
風だけが、静かに流れている。
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「……へえ」
フレミシア・オールスは、少しだけ目を細めた。
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「ちゃんと、そこまで行ったんだ」
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視線の先。
そこには、一つの光景があった。
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■ その日
《リヴェリア》。
光と闇が交わる街。
その中心で——
小さな式が行われていた。
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派手なものではない。
でも、確かに“意味”のある場所。
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「……緊張してます?」
リミアが小さく笑う。
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「してない」
夜実が即答する。
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「顔に出てますよ」
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「出てない」
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いつものやり取り。
でも——
少しだけ違う。
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「……本当に、この形でいいんですか?」
リミアが聞く。
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「いい」
夜実は言う。
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「光族も闇族も、同じ場所でやる」
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その一言に。
すべてが込められていた。
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「……そっか」
リミアは、優しく笑う。
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■ 見守る者たち
周囲には、さまざまな人がいた。
光族。
闇族。
かつては、決して同じ場所に立つことのなかった人たち。
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「……変わったな」
誰かが呟く。
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「……ああ」
別の誰かが頷く。
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その中には——
見えないけれど。
確かに、“いないはずの存在”もいた。
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「……ちゃんと見てるよ」
フレミシアが、小さく呟く。
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迅。
レオン。
セレナ。
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もうここにはいない彼らの“可能性”。
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「君たちの分もね」
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■ 誓い
「……それでは」
式を進める声。
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静寂。
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リミアと夜実が、向き合う。
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「……ヤミア」
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「なんだ」
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「これからも、よろしくお願いします」
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「……ああ」
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短い。
でも——
それで十分だった。
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「お前もな」
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その言葉に。
リミアは、少しだけ目を細める。
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「はい」
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指輪を交わす。
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その瞬間。
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世界が、ほんの少しだけ“安定した”。
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■ 観測者の感情
「……やっぱり」
フレミシアは、空を見上げる。
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「こういう終わり方、嫌いじゃない」
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風が吹く。
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「というか、結構好きかも」
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珍しく、素直な言葉。
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「……あの二人だから、ここまで来れた」
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もしどちらかが違えば。
もし出会わなければ。
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この結末は、なかった。
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「……奇跡、ってやつかな」
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少しだけ笑う。
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■ それでも
「……でもね」
フレミシアは呟く。
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「これで終わり、じゃない」
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視線の先。
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リミアと夜実は、笑っている。
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でも、その先には——
まだ、無数の分岐がある。
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「夫婦になっても、きっと喧嘩するし」
「また大きな選択もする」
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「それでも」
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少しだけ目を細める。
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「きっと、選び続けるんだろうね」
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■ 小さな祝福
「……おめでとう」
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誰にも聞こえない声で、言う。
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観測者は、基本的に干渉しない。
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でも——
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「これくらいは、いいでしょ」
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ほんの一瞬だけ。
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風の流れが変わる。
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柔らかく、優しい風が。
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二人のもとへ届く。
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「……?」
リミアが空を見上げる。
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「どうした」
夜実が聞く。
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「……なんか、今」
少しだけ笑う。
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「祝福された気がしました」
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「気のせいだ」
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「ひどい」
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でも、その顔は嬉しそうだった。
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■ 観測者の役目
「……さて」
フレミシアは立ち上がる。
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「一区切り、かな」
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この世界は、もう大きくは崩れない。
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少なくとも、しばらくは。
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「……いいもの見せてもらった」
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少しだけ満足そうに。
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「じゃあ、次行こっか」
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その体が、ゆっくりと消えていく。
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どこへ行くのか。
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それは——
誰にも分からない。
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■ 最後に
残された世界。
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笑い声。
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夕焼け。
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そして——
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繋がれた手。
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― ワールドリバース After Story V ― 完 ―




