後日譚 ― 残された光、残された闇 ―
世界が再び動き出してから、一年が経った。
かつて止まっていた空は、今ではゆっくりと巡っている。
朝が来て、夜が来る。
それは、当たり前で——
かつては、奇跡だったもの。
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■ リミア・クレイセア
王都。
「……ここまでですね」
書類に目を通しながら、リミアは小さく息を吐いた。
机の上には、山のような資料。
光族と闇族の交流に関するもの。
共同開発の計画。
そして——
衝突の報告書。
「やっぱり、簡単じゃないですね」
苦笑する。
共存は始まった。
でも、それは“完成”じゃない。
むしろ——
ここからが本番だった。
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「リミア様〜」
アリシアがひょこっと顔を出す。
「また仕事してるんですか?」
「ちょっとだけだよ」
「“ちょっと”の量じゃないです!」
机を見て即ツッコミ。
「休んでくださいって、何回言えば……」
「大丈夫だって」
「大丈夫じゃないです!」
いつものやり取り。
でも、それが少しだけ嬉しい。
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「……ねえ、アリシア」
「はい?」
「私、ちゃんとできてるかな」
ぽつりと漏れる。
「……何がですか?」
「全部」
少しだけ目を伏せる。
「レオンや……師匠が見てて、恥ずかしくないかなって」
その言葉に。
アリシアは少しだけ黙ってから——
「……きっと、怒られてますね」
「え!?」
「“働きすぎだ”って」
「そっち!?」
思わず声が大きくなる。
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「でも」
アリシアは微笑む。
「ちゃんと見てくれてますよ」
「……」
「だから、そんな顔しないでください」
その言葉に。
リミアは、少しだけ笑った。
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■ 霊堂 夜実
闇族領。
夜は、相変わらず深い。
だが——
「……静かだな」
夜実は空を見上げる。
そこには、かすかに“星”が見えていた。
以前よりも、ずっと。
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「そんな顔してると、また考え事してるってバレるぞ」
声。
振り向く。
そこには、若い闇族の兵士。
「……してない」
「してるでしょ」
軽く笑う。
昔の迅みたいなやつだ。
「……」
一瞬、沈黙。
「……似てるか」
「え?」
「なんでもない」
視線を戻す。
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「……あいつなら」
ぽつりと呟く。
「どう思うかな」
風が吹く。
返事はない。
でも——
「……まあ、いい」
少しだけ口元が緩む。
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夜実は、以前よりも人と関わるようになっていた。
強さだけじゃない。
“選ぶこと”を覚えた。
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■ 境界
かつての戦場。
今では、小さな街ができていた。
光族と闇族が、同じ場所で暮らす場所。
まだぎこちない。
時々、衝突もある。
でも——
「それでも、進んでる」
リミアはそう言った。
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「遅いな」
夜実が呟く。
「ごめん!」
走ってくるリミア。
「会議が長引いて……」
「言い訳だな」
「違います!」
即否定。
そのやり取りに、少しだけ笑いが混じる。
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「……変わったな」
夜実が言う。
「え?」
「前より、ちゃんとしてる」
「前はちゃんとしてなかったみたいな言い方!」
「してなかっただろ」
「してました!」
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少しだけ、沈黙。
風が吹く。
夕焼けが、広がる。
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「……ねえ」
リミアが言う。
「もし、あの時」
少しだけ迷って、
「全部違ってたら」
迅も、レオンも、セレナも。
「……」
「どうなってたと思う?」
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「……さあな」
夜実は答える。
「でも」
少しだけ空を見る。
「今より、つまらなかったかもな」
「え?」
「お前、いないし」
「……!」
一瞬、言葉に詰まる。
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「……それ、ずるいです」
顔を少しだけ逸らす。
「何がだ」
「なんでもないです!」
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そのやり取りの中で。
確かに、“未来”があった。
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■ フレミシア・オールス
誰もいない高所。
世界を見下ろせる場所。
「……ちゃんと回ってるね」
空を見上げる。
地球は、確かに動いている。
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「……でも」
小さく呟く。
「これで終わり、ってわけじゃない」
その目は、どこか遠くを見ている。
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「アルトも、結局“途中”だったし」
風が吹く。
「次は、どうなるかな」
少しだけ笑う。
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「……ま、しばらくは」
肩をすくめる。
「観測だけでいいか」
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その存在は、まだ消えない。
物語の外側で——
世界を見続けている。
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エピローグ
世界は、完全には変わっていない。
争いも、憎しみも、まだ残っている。
でも——
“止まってはいない”。
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光と闇は、もう交わらないものじゃない。
ぶつかりながらも、進んでいくものになった。
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そして——
「……行こうか」
「はい」
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二人は、歩き出す。
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終わりじゃない。
これは——
“続いていく物語”。
― ワールドリバース After Story I ― 完 ―




