15話 ― 観測者の語る世界 ―
静寂。
崩れた空間の中で、誰も動けなかった。
倒れたセレナ。
崩れ落ちたリミア。
そして——
ただ立ち尽くす夜実。
「……」
その沈黙を破ったのは、
「やりすぎだって言ったよね」
軽い声だった。
フレミシア・オールス。
まるで、場違いなほどに落ち着いている。
⸻
「……あなたは何者ですか」
エルディアが問う。
その声には、わずかな警戒があった。
「さっきも言ったじゃん」
フレミシアは肩をすくめる。
「観測者」
「……ふざけているのですか」
「全然」
笑う。
だがその目は、まったく笑っていない。
⸻
「……目的は」
「んー」
少し考える素振り。
「面白いから、かな」
その言葉に、夜実の眉が動く。
「……ふざけるな」
低い声。
フレミシアは視線を向ける。
「お、怖い」
「……お前」
夜実の声は、明らかに怒りを含んでいた。
「全部、見てたんだろ」
「見てたよ」
あっさりと答える。
「最初から全部」
その一言で——
空気が凍る。
⸻
「……なら」
夜実が一歩踏み出す。
「なんで止めなかった」
「止める理由がないから」
即答だった。
「これは“必要な流れ”だからね」
その言葉に。
リミアが顔を上げる。
「……必要……?」
震える声。
「人が死ぬことが……?」
フレミシアは、少しだけ首を傾げる。
「うん」
迷いなく頷いた。
「だって、そうしないと進まないでしょ?」
その価値観は——あまりにも異質だった。
⸻
「……最低です」
リミアが言う。
涙を浮かべながらも、睨む。
「人の命を……なんだと思ってるんですか」
「重いよ?」
さらっと答える。
「だからこそ価値がある」
「……!」
「軽かったら、意味ないでしょ」
その言葉に、リミアは言葉を失う。
⸻
「……で」
フレミシアは話を変える。
「そろそろ本題いこうか」
空気が、変わる。
⸻
「この世界さ」
ゆっくりと歩きながら言う。
「なんでこうなってると思う?」
「……」
誰も答えない。
「地球の公転が止まった理由」
その言葉に、夜実の目が細まる。
「……知ってるのか」
「知ってるよ」
笑う。
「だって——“見てたから”」
⸻
「昔、この世界にはね」
フレミシアの声が、少しだけ低くなる。
「一人の“天才”がいた」
空間が、わずかに揺れる。
「そいつは、世界を変えたかった」
「……」
「争いも、差も、全部なくしたかった」
リミアの目が揺れる。
「だから——」
フレミシアは、ゆっくりと言う。
「やりすぎた」
⸻
「……巨大な彗星」
夜実が呟く。
「そう」
フレミシアは頷く。
「人工的に引き寄せた」
その一言で——
すべてが繋がる。
⸻
「……は?」
リミアが声を漏らす。
「そんな……」
「本当だよ」
あっさりと肯定する。
「その結果が、今の世界」
光と闇に分断された地球。
「……」
「で、その天才は何をしたか」
一瞬、間を置く。
「自分の理想の“進化”を、世界に押し付けた」
⸻
「……それが」
夜実が言う。
「今の、光族と闇族か」
「正解」
フレミシアは笑う。
「環境に適応させて、別々に進化させた」
「……」
「分断すれば、争いは減ると思ったんだろうね」
皮肉っぽく言う。
「まあ、結果はこの通りだけど」
⸻
「……誰なんですか」
リミアが問う。
「その人は」
フレミシアは、少しだけ黙る。
そして——
「さあね」
笑った。
「それは、まだ秘密」
⸻
「……ふざけるな」
夜実が低く言う。
「全部知ってるくせに」
「うん、知ってるよ」
あっさり認める。
「でもさ」
指を立てる。
「全部教えたら、つまらないでしょ?」
その言葉に、空気が張り詰める。
⸻
「……あなたは」
エルディアが口を開く。
「どこまで関与しているのですか」
その問いに。
フレミシアは、にやりと笑った。
「さあ?」
だが——
その次の言葉は、はっきりしていた。
「少なくとも、“今”は君たちの敵じゃない」
⸻
「……信用できると思うか?」
夜実が言う。
「思わなくていいよ」
軽く返す。
「ただ——」
一歩、後ろへ下がる。
「これは、まだ“途中”」
その言葉と同時に——
空間が歪む。
⸻
「……撤退、ですか」
エルディアが言う。
「うん」
フレミシアは頷く。
「今日はここまで」
「……」
エルディアは少しだけ考えた後、
「……了解しました」
そのまま、姿を消した。
⸻
残されたのは、三人。
リミア、夜実、フレミシア。
⸻
「……さて」
フレミシアが振り返る。
「ここからが本番だよ」
その目は、真剣だった。
「世界を元に戻したいんでしょ?」
「……」
「だったら」
指を指す。
「“原因”をどうにかしないとね」
⸻
「……どうすればいいんですか」
リミアが問う。
フレミシアは、少しだけ笑う。
「簡単だよ」
一言。
「公転を、もう一度動かす」
⸻
その言葉は——
この物語の終着点を示していた。
ーーー→ continue to next story




