14話 ― 光の師、最後の教え ―
空間が、歪んでいた。
王城の一室とは思えない。
壁は軋み、床には亀裂が走り、空気そのものが不安定に揺れている。
「……っ」
リミアは息を呑んだ。
目の前にいるのは、もう“エルディア”ではない。
「……いい顔ですね」
エルディアは笑う。
「絶望と混乱。実に人間らしい」
その声に、かつての温かさは一切なかった。
⸻
「……黙れ」
夜実が前に出る。
影が、静かに広がる。
「それ以上喋るな」
「怖いですね」
エルディアは肩をすくめる。
「ですが——」
その瞬間。
“何か”が弾けた。
「——遅い」
消える。
次の瞬間、夜実の背後。
「——っ!」
とっさに振り向き、防ぐ。
衝撃。
「……やはり速い」
エルディアが呟く。
「ですが——」
さらに圧が増す。
「まだ足りない」
押し込まれる。
⸻
「ヤミア!!」
リミアが叫ぶ。
「来るな!!」
夜実が即座に叫び返す。
「お前は下がってろ!!」
その一瞬の隙。
「——甘い」
エルディアの一撃が、夜実の肩をかすめる。
「……っ!」
血が舞う。
「ヤミア……!」
「大丈夫だ……!」
歯を食いしばる。
だが——明らかに強い。
迅とは違う。
“制御されている狂気”。
⸻
「……面白いですね」
エルディアは呟く。
「あなたたち」
視線が、リミアへ向く。
「本当に信じているんですか?」
「……何を」
「分かり合えるとでも?」
その言葉に、リミアの心が揺れる。
「……私は」
だが——
「——信じてます」
はっきりと言った。
「たとえ難しくても」
「……」
「それでも、諦めたくない」
その言葉に。
エルディアは、わずかに目を細めた。
⸻
「……やはり」
小さく呟く。
「危険だ」
その瞬間。
空気が一変する。
「——消えてもらいましょう」
狙いは——リミア。
⸻
「——っ!!」
動けない。
速すぎる。
「リミア!!」
夜実が叫ぶ。
だが、間に合わない。
その時——
「——そこまでです」
光が、割り込んだ。
⸻
衝撃が弾ける。
エルディアの攻撃が、完全に防がれる。
「……やはり来ましたか」
エルディアが静かに言う。
そこに立っていたのは——
セレナだった。
⸻
「……リミア」
振り返る。
その表情は、いつもと変わらない。
「無事ですか」
「……師匠……!」
リミアの目に、涙が浮かぶ。
「下がっていなさい」
静かに言う。
「ここからは——大人の仕事です」
⸻
「……あなた」
エルディアが言う。
「気づいていたのでは?」
「ええ」
セレナはあっさりと答える。
「ですが、確証がなかった」
一歩、前へ。
「今ので、十分です」
その瞬間。
光が、満ちる。
⸻
「——《ルミナス・ドミニオン》」
空間が、変わる。
純粋な光で構成された領域。
その中で——
セレナは、圧倒的だった。
「……さすがですね」
エルディアが笑う。
「光族最強」
「お褒めに預かり光栄です」
淡々と返す。
次の瞬間——
光が閃いた。
⸻
一撃。
エルディアの体が吹き飛ぶ。
「……っ!」
壁に叩きつけられる。
「終わりです」
セレナが言う。
だが——
「……本当に?」
その声に、違和感。
⸻
影ではない。
光でもない。
“何か”が、エルディアの体を包む。
「……っ」
セレナの目がわずかに細まる。
「それが……本質ですか」
「ええ」
ゆっくりと立ち上がる。
「これが——新しい力です」
その瞬間。
空間が、崩れた。
⸻
「——っ!!」
セレナが防御を張る。
だが、押される。
「……これは……」
予想以上。
「師匠!!」
リミアが叫ぶ。
「来るな!!」
セレナが鋭く言う。
「これは、あなたの戦いではない!」
⸻
「……素晴らしい」
エルディアが笑う。
「ですが——」
一歩、踏み込む。
「古い」
その一撃が——
セレナの防御を貫いた。
⸻
「……っ」
血が、落ちる。
「……師匠……?」
リミアの声が震える。
「……大丈夫です」
セレナは、まだ立っている。
だが——
限界は近い。
⸻
「……リミア」
静かに呼ぶ。
「はい……!」
「よく聞きなさい」
その声は、どこまでも穏やかだった。
「あなたの選んだ道は、間違っていません」
「……!」
「だから——」
一歩、前へ。
「進みなさい」
その背中は、大きかった。
⸻
「——やめて!!」
リミアが叫ぶ。
「もういいです!もう……!」
だが——
セレナは振り返らない。
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「……最後に」
小さく呟く。
「少しだけ、教師らしいことを」
光が、収束する。
すべてを込めるように。
⸻
「——《セレスティアル・ノヴァ》」
光が、爆ぜた。
⸻
閃光。
衝撃。
そして——
静寂。
⸻
煙が晴れる。
そこに立っていたのは——
エルディア。
傷を負いながらも、生きている。
「……惜しい」
小さく呟く。
その足元には——
倒れた、セレナの姿。
⸻
「……師匠……?」
リミアが、震えながら近づく。
「……」
反応はない。
「……うそ……」
膝が崩れる。
「……起きて……」
手を伸ばす。
だが——
その手は、冷たかった。
⸻
「……っ……」
声にならない。
二度目の、大きな喪失。
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「……」
夜実は、何も言えなかった。
ただ、前を見ていた。
その目に、わずかな怒りを宿して。
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「……さて」
エルディアが言う。
「そろそろ終わりに——」
その時だった。
⸻
「——やりすぎだよ」
別の声。
空間が、歪む。
そこに現れたのは——
フレミシア・オールス。
⸻
「……あなたは」
エルディアが眉をひそめる。
「観測者、ですか」
「まあ、そんなところ」
軽く笑う。
「でもさ」
その目が、わずかに鋭くなる。
「これは、まだ“早い”」
その一言で——
場の空気が、変わった。
⸻
物語は、さらに核心へ近づく。
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