13話 ― 崩れかけた光 ―
王都 《ルミナリア》。
その中心にあるはずの“光”は、今、明らかに揺らいでいた。
「……リミア様」
アリシアの声は、どこか不安げだった。
「……」
返事はない。
窓の外を見つめたまま、リミアは動かなかった。
あの日から——
レオンが死んでから。
時間は進んでいるはずなのに、心だけが置いていかれていた。
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「……少し、休みましょう?」
「……ううん」
小さく首を振る。
「大丈夫」
その言葉に、力はなかった。
「……大丈夫じゃないですよ」
アリシアは、珍しく強い口調で言った。
「ちゃんと寝てないし、ご飯もほとんど食べてないじゃないですか」
「……」
何も言えない。
事実だった。
「……私たち、仲間じゃないですか」
一歩、近づく。
「頼ってくださいよ」
その言葉は、優しかった。
でも——
「……守れなかった」
リミアが、ぽつりと呟く。
「え……?」
「私が、ちゃんとしてれば」
声が震える。
「レオンは……」
言葉が続かない。
「……」
アリシアも、何も言えなかった。
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「……怖いんです」
小さく、絞り出すような声。
「また、誰かがいなくなるのが」
その本音に、空気が止まる。
「だから……」
拳を握る。
「私の考えが……間違ってるなら……」
その言葉は——
危うかった。
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「それは違います」
静かな声。
振り向くと、そこには——
エルディアがいた。
「……エルディア」
リミアは少しだけ安心したような顔をする。
「あなたは、間違っていません」
優しく言う。
「優しさは、弱さではない」
その言葉は、心に染みる。
「でも……」
「むしろ」
エルディアの目が、わずかに細まる。
「その優しさがあるからこそ——利用される」
「……え?」
一瞬、意味が分からない。
「どういう……」
その時だった。
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「——やめとけ」
低い声。
窓の外。
そこに立っていたのは——
夜実だった。
「……ヤミア!?」
リミアの目が大きく開かれる。
「なんでここに……!」
「話がある」
短く言う。
その視線は——エルディアへ向けられていた。
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「……不法侵入ですよ?」
エルディアは穏やかに笑う。
だが、その目は笑っていない。
「帰っていただけますか?」
「断る」
即答だった。
空気が、張り詰める。
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「……何しに来たんですか?」
エルディアの声が低くなる。
「王女に近づく理由はないはずだ」
「お前に言われる筋合いはない」
夜実も引かない。
「……ヤミア?」
リミアは状況が掴めない。
「……そいつから離れろ」
夜実が言う。
「え?」
「そいつは——」
一瞬、間を置いて。
「“中”じゃない」
その一言で。
空気が凍った。
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「……何を言ってるんですか」
エルディアは、笑った。
だがその笑みは——
どこか歪んでいた。
「私は、光族ですよ?」
「違うな」
夜実は即座に否定する。
「気配が違う」
その言葉に。
エルディアの目が、わずかに細まる。
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「……なるほど」
小さく呟く。
「気づいていましたか」
その一言で。
すべてが、確定した。
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「え……?」
リミアの声が震える。
「……どういうこと……?」
エルディアは、ゆっくりと視線を向ける。
その目には——
もう、あの優しさはなかった。
「残念です、リミア様」
淡々とした声。
「もう少し、利用できると思っていたのですが」
「……」
理解が、追いつかない。
「……なんで……」
「簡単ですよ」
エルディアは、微笑む。
「“外”の人間だからです」
その言葉は、あまりにも軽かった。
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「……最初から……?」
「ええ」
あっさりと肯定する。
「あなたの思想も、行動も」
一歩、近づく。
「すべて、利用させてもらいました」
その言葉に。
リミアの中で、何かが崩れる。
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「……やめろ」
夜実が前に出る。
「それ以上、喋るな」
「なぜです?」
エルディアは首を傾げる。
「真実ですよ?」
その一言が、さらに突き刺さる。
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「……なんで……」
リミアの声が、かすれる。
「なんで……そんなこと……」
「理由ですか?」
少し考える素振りを見せてから、
「面白いから、ですかね」
その答えは、あまりにも冷たかった。
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「……っ……」
リミアの視界が揺れる。
レオンの死。
迅の死。
そして——
目の前の裏切り。
「……もういい」
夜実が低く言う。
「下がってろ」
「……ヤミア……」
「こいつは、俺がやる」
その声には、迷いがなかった。
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「……やる、ですか」
エルディアは笑う。
「できると思いますか?」
その瞬間。
空気が、歪む。
「——っ!」
リミアが息を呑む。
それは、見覚えのある感覚だった。
——迅と同じ。
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「……やっぱりな」
夜実が呟く。
「お前も、あっち側か」
「“あっち側”?」
エルディアは楽しそうに笑う。
「さあ、どうでしょう」
影が、にじむ。
だがそれは——闇族のものとは違う。
もっと、歪んだ何か。
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「……リミア」
夜実が言う。
「逃げろ」
「でも——」
「いいから」
強く言い切る。
その声に、リミアは動けなかった。
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「……逃がしませんよ」
エルディアが手を上げる。
「ここで終わりにしましょう」
その瞬間——
光でも闇でもない“何か”が、弾けた。
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世界は、さらに壊れていく。
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