12話 ― 届かなかった言葉 ―
王都 《ルミナリア》。
その空気は、ここ数日で明らかに変わっていた。
「……またか」
アリシアが小さく呟く。
廊下の向こう。
言い争う声が聞こえてくる。
「最近、ずっとこんな感じですね……」
「うん……」
リミアも頷く。
原因は明確だった。
——闇族への対応。
「強硬派」と「穏健派」。
光族の中で、その対立が激化していた。
⸻
「王女」
呼び止める声。
振り向くと、一人の青年が立っていた。
鋭い目つき。
短く整えられた銀髪。
「……レオン」
リミアは少しだけ表情を引き締める。
レオン・アルヴェルド。
王国騎士団の若き隊長。
そして——強硬派の中心人物。
「話があります」
その声は、いつもより固かった。
⸻
訓練場。
人気のない場所。
「……単刀直入に言います」
レオンは言った。
「あなたの行動は危険です」
「……」
「闇族と接触し、思想まで揺らいでいる」
はっきりと断言する。
「それは、王族として許されるものではない」
その言葉に、リミアの胸がざわつく。
「……私は」
「分かっています」
遮る。
「あなたが優しいことくらい」
一瞬だけ、声が和らぐ。
「ですが、それでは守れない」
すぐに戻る。
「この国も、人も」
その言葉は、重かった。
⸻
「……レオン」
リミアは一歩前に出る。
「本当に、戦うしかないんですか?」
「……当然です」
迷いのない答え。
「彼らは敵だ」
「でも——」
「例外はない」
言い切る。
「一度でも情を持てば、それが隙になる」
その言葉に、リミアの中で何かがぶつかる。
「……それでも」
顔を上げる。
「私は、確かめたい」
「……」
「本当に、それしかないのか」
まっすぐな言葉。
だが——
それはレオンにとって、受け入れられないものだった。
⸻
「……甘い」
低く、呟く。
「それで何人死ぬと思っている」
「……」
「理想で、人は守れない」
一歩、踏み込む。
「現実を見てください」
その言葉に、リミアは歯を食いしばる。
「……見てます」
「いいえ、見ていない」
否定。
「見ていたら、そんなことは言えない」
その一言で——
リミアの中の感情が、弾けた。
⸻
「……じゃあ!」
声が、強くなる。
「戦い続けて、何が残るんですか!?」
レオンの目がわずかに見開かれる。
「ずっと対立して、ずっと憎み合って!」
一歩、近づく。
「それで、本当に守れてるんですか!?」
その問いは、鋭かった。
だが——
「守れている」
レオンは、静かに言った。
「少なくとも、今は」
その言葉に、リミアは言葉を失う。
⸻
「……あなたは」
レオンが続ける。
「まだ知らない」
その声は、どこか悲しげだった。
「守れなかった時の、重さを」
一瞬、沈黙。
だが——
そのすれ違いは、もう埋まらない。
⸻
「……もういい」
レオンは背を向ける。
「これ以上は、平行線だ」
「……レオン」
呼び止める。
だが——
「次に同じことがあれば」
足を止めずに言う。
「私は、あなたを止める」
その言葉は——
完全な決別だった。
⸻
数日後。
境界付近。
「……なんで、こんなことに」
アリシアの声が震える。
目の前には——
レオンの部隊と、闇族の小規模部隊。
偶発的な衝突。
そのはずだった。
だが——
「……引くな!!」
レオンの声が響く。
「ここで退けば、次はない!!」
戦闘が、激化する。
「待ってください!!」
リミアが前に出る。
「まだ、話せるかもしれません!」
「無理です」
即答だった。
「もう始まっている」
剣を構える。
その目に、迷いはない。
⸻
「……やめて」
リミアは呟く。
だが、戦いは止まらない。
光と闇がぶつかる。
叫び。
衝撃。
その中で——
「——っ!」
一瞬の隙。
闇族の攻撃が、リミアへと向かう。
「危ない!!」
その瞬間。
レオンが飛び込んだ。
「——!」
光が弾ける。
攻撃を受け止める。
だが——
次の一撃が、背中を貫いた。
⸻
静寂。
「……え……?」
リミアの声が、震える。
レオンの体が、ゆっくりと崩れる。
「……なんで……」
駆け寄る。
「なんで……!」
レオンは、かすかに笑った。
「……王女……」
「……レオン……!」
「やっぱり……」
呼吸が浅い。
「守らないと……ダメだな……」
その言葉に、リミアの涙がこぼれる。
「違う……!こんなの……!」
「……いいえ」
小さく首を振る。
「これで……よかった」
その瞳は、静かだった。
「あなたは……そのままで……」
言葉が途切れる。
「……」
「……進んでください……」
それが——
最後の言葉だった。
⸻
「……レオン……?」
返事は、なかった。
⸻
戦場は、静まり返っていた。
誰も、動けない。
ただ一つの事実だけが、そこにあった。
——届かなかった。
言葉も、想いも。
⸻
リミアは、その場に崩れ落ちた。
「……っ……」
声にならない。
胸が、壊れそうになる。
——もし、もっと早く。
——もし、違う言い方をしていたら。
そんな後悔が、押し寄せる。
⸻
遠くで、それを見ていた影。
「……いい」
外套の人物が呟く。
「これで、“溝”は決定的になった」
その隣で——
エルディアが、静かに目を伏せていた。
「……順調だ」
その声には、感情がなかった。
⸻
光の中で起きた、二つ目の喪失。
それは、より深く——
心を抉るものだった。
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