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10話 ― 届かなかった手 ―


闇族領 《ノクス》、外れ地区。


普段は人の少ないその場所に、異様な気配が広がっていた。


「……なんだ、これ」


夜実は足を止める。


空気が、重い。


いや——歪んでいる。


地面には亀裂が走り、影が不自然にうごめいている。


「……迅」


その中心にいる存在を、見間違えるはずがなかった。


だが——


「……あ?」


振り向いた“それ”は、もはやいつもの迅ではなかった。


影が、体を覆っている。


いや、侵食している。


「来たのかよ……夜実……」


声も、少し歪んでいる。


「……やめろ」


夜実はゆっくりと近づく。


「もういい」


「何がだよ……」


迅は笑う。


だがその笑みは、崩れていた。


「まだ……足りねえんだよ……」


影が、さらに膨れ上がる。


周囲の空間が、きしむ。


「……戻れ」


「戻る?」


その言葉に、迅の表情が歪む。


「どこにだよ……!」


叫び。


「弱かった頃の俺にか!?」


「違う」


夜実は即座に否定する。


「今のお前は——お前じゃない」


「うるせえ!!」


影が暴走する。


地面が砕ける。


「これは……俺の力だ!!」


「違う!!」


夜実も叫んだ。


「それは、お前を壊してるだけだ!」


その言葉に。


一瞬だけ、迅の動きが止まる。


「……壊れてるのは」


小さく呟く。


「最初からだろ」


「……」


「お前はいいよな……」


その声は、静かだった。


「全部持っててさ……」


影が、ゆっくりと形を変える。


巨大な腕のようなものが、夜実へと向けられる。


「……やめろ、迅」


「……止めてみろよ」


その一言で、すべてが決まった。



衝突。


圧倒的な力がぶつかる。


「——《アビス・カット》!」


夜実の一撃が、影を切り裂く。


だが——


「無駄だ!!」


すぐに再生する。


「くそ……!」


終わりが見えない。


それどころか、力は増している。


「ははっ……!どうしたよ……!」


迅の声が響く。


「お前なら……もっとやれるだろ……!」


その言葉に、夜実の動きが一瞬だけ鈍る。


——本気を出せば、倒せる。


だがそれは——


「……できるわけないだろ」


小さく呟く。


相手は、親友だ。


「……甘いなぁ」


迅が笑う。


「だから……届かねえんだよ」


次の瞬間。


影が、爆発的に膨れ上がる。


「——《ナイトメア・カタストロフ》」


空間が、悲鳴を上げた。


「……っ!」


夜実は防御を展開する。


だが、押し切られる。


「ぐっ……!」


地面に叩きつけられる。


「終わりだ……!」


迅が手を振り下ろす。


その瞬間——


「——やめて!!」


声。


光が、割り込む。


「……っ!?」


リミアだった。


間に合った。


「……リミア……?」


夜実が目を見開く。


「どうして……」


「分かりません……でも——」


息を切らしながら、リミアは言う。


「来なきゃいけない気がしたんです」


直感だった。


だが、それは間違っていなかった。



「……なんだよ……」


迅がリミアを見る。


「光族……?」


その瞳に、わずかな揺れ。


「……なんで、そんな顔してんだよ」


リミアは、まっすぐ迅を見ていた。


「……苦しそうだからです」


「……は?」


「あなた、今……すごく苦しそうです」


その言葉に。


迅の動きが止まる。


「……はは」


小さく笑う。


「何言ってんだ……」


だが、その声は震えていた。


「俺は……強くなって……」


影が、揺らぐ。


「……あれ……?」


力が、不安定になる。


「……なんで……」


その隙を——


夜実は見逃さなかった。


「……すまん」


小さく呟く。


「——《アビス・カット》」


一閃。


迷いを、断ち切るように。



静寂。


影が、崩れる。


迅の体が、ゆっくりと倒れる。


「……」


「……夜実……?」


リミアの声が震える。


夜実は、動かない。


ただ、そこに立っていた。



「……はは……」


小さな笑い声。


迅は、まだ生きていた。


「……やっと……静かになった……」


影は、もうない。


ただの少年に戻っていた。


「……迅」


夜実が膝をつく。


「……悪いな」


迅は笑う。


「手間……かけさせて……」


「……」


言葉が出ない。


「……でもさ」


迅は少しだけ目を細める。


「最後に……」


視線が、夜実に向く。


「ちゃんと……止めてくれて……よかった」


その一言で。


夜実の中の何かが、崩れた。


「……っ」


「……お前……やっぱ……最強だな……」


かすれた声。


「……だからさ……」


「……」


「ちゃんと……やれよ……」


その言葉を最後に。


迅の手が、力なく落ちた。



沈黙。


「……っ……」


夜実は、動かなかった。


動けなかった。


「……」


リミアも、何も言えない。


ただ、その場に立ち尽くす。



空は、相変わらず曖昧なまま。


光でもなく、闇でもない。


その中で——


一つの命が、消えた。



遠くで、それを見ていた存在がいた。


「……いい終わり方だ」


フレミシア・オールス。


「感情も、絶望も、十分」


その瞳は冷たい。


「これで、次に進める」


静かに、微笑む。


ーーー→ continue to next story




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