第4話 家来
桃兵衛が鬼退治に向かう日の朝を迎えた。
爺さんは打ち直した刀を受け取りに、鍛冶屋に向かう。
婆さんは桃兵衛の食事の準備。
帰って来た爺さんから刀を渡され、桃兵衛の気も引き締まる。
「持っておいき、桃兵衛。道中で食べれば、力もわいてくるぞい。」
甲冑を着込み陣羽織を羽織り、帯刀する桃兵衛に、婆さんはきび団子を渡す。
きび団子にはあの粉ミルクが練り込んであった。
これで粉ミルクは使いきる。
「お爺さん、お婆さん、行ってきます。」
「ああ、桃兵衛。無事に戻ってくるのじゃぞ。待ってるからの。」
「はい。必ず戻ってきます。」
爺さんと婆さんに別れをつげ、桃兵衛は出発する。
桃兵衛の姿が見えなくなった頃、婆さんが震えだす。
「お爺さん、あの子はいったい、なんだったのでしょう。」
粉ミルクを使いきり、桃兵衛も成長しきった事で、托卵型の救命ポッドの効果が切れる。
桃兵衛を我が子と思い育ててた婆さんへの、呪縛が解ける。
「何を言っとるか、婆さん。あの子は天神さまの使わしてくれた、ワシらの息子じゃ。」
「え、ええ、そうね、天神さまの子、天神さまの子。」
振るえが止まらない婆さんを、爺さんは家の中へと連れて行く。
「がるるる、」
桃兵衛は道中、野犬の群れに囲まれる。
だけど甲冑を着込んだ桃兵衛に、野犬の牙は通じない。
爺さんの刀を野犬の血で汚したくないと思った桃兵衛は、素手で野犬の相手をする。
状況が不利になった野犬の群れは、散り散りに逃げだす。
野犬のリーダーらしき犬が、しんがりを務めるかのように、桃兵衛の気を引いてくる。
桃兵衛もその犬の意思にのってやる。
ふたりの戦いがしばらく続き、他の野犬が見えなくなった頃、その犬は戦いをやめる。
桃兵衛にかなわないと悟ったその犬は、その場に伏せをして、桃兵衛の指示を待つ。
「なかなか潔いヤツだな。」
桃兵衛はしゃがみ込み、野犬の頭をなでる。
「そうだ、これでも食うか。」
桃兵衛は腰につけてたきび団子をひとつ、野犬に差し出す。
野犬は差し出されたきび団子を食べる。
「うまいな、これ。なんだか力もわいてくるぞ。」
突然野犬が喋りだす。
「おまえ、喋れるのか。」
「へい。だんなから頂いた、このエサのおかげですぜ。」
「そうか。お婆さんがくれたきび団子に、そんな効果があったとはな。」
「だんな。あっしの名前はポチ右衛門。どこまでもだんなについて行きますぜ。」
「そうか。俺は桃兵衛。これから鬼ヶ島に鬼の討伐に行くのだが、ついてくるか。」
「へい、喜んで。」
桃兵衛の家来に、野犬のポチ右衛門が加わった。
しばらく歩くと、道から茂みに入った辺りに、一匹の猿が倒れていた。
「あいつ、この辺りのボス猿、エテ之助ですぜ。」
ポチは猿に駆け寄って話しかける。
「ワンワン。」
「ウキャー。」
「ワンワン。」
「ウキィ。」
後から追いついた桃兵衛に、ポチが説明する。
「こいつ、仲間に裏切られて後ろから襲われたそうですぜ。」
「そりゃ酷い話しだな。」
「そこでだんな。こいつにもきび団子を与えてはくれませんか。こいつも鬼の討伐のお供をしたいと言ってますんで。」
桃兵衛は猿にきび団子を与える。
ケガが回復した猿のエテ之助が仲間に加わった。
しばらく歩くと、猟師とすれ違う。
キジを四羽ぶら下げた彼は、キジを五羽仕留めたが、一匹は見失ったとの事。
桃兵衛のいで立ちに、昔見た婆さんの若い頃の姿を重ねた猟師は、桃兵衛の鬼討伐を祈願して、去って行った。
ポチの鼻で、キジはすぐに見つかった。
エテが周りに人の気配が無い事を確認して、桃兵衛たちはキジに近づく。
「ワンワン。」
「キーキー。」
「ワンワン。」
「キー、」
「だんな、こいつはスミスって言うらしいですぜ。」
「ふむ。で、こいつもきび団子をあげたら、鬼の討伐についてきてくれるのか。」
桃兵衛はきび団子を取り出す。
「へい、そう言ってまさぁ。」
桃兵衛がきび団子を与えると、キジの傷もたちどころに治る。
「ここは、お礼を言うべきかなぁ。おおきにな。」
喋りだすキジは、どこか厚かましい。
「全く人間と言うのは、よー分からんて。あっしらを殺したり、そうかと思えばあっしを助けたり。ほんま、何がしたいんや。」
キジの頭では、ひとりひとりの人間の違いが、分からなかった。
「まあ、あっしを助けてくれたあんさんには、力をかしまっせ。斥候ならまかせときぃ。」
キジは大空に舞い上がる。
「こっちや。ついてきぃや。」
キジは勝手に進んでいく。
「おい、あいつ大丈夫なんか。」
エテがスミスの頭を心配する。
「まあ、鳥頭だし、多くを期待したら、ダメなんだろな。」
ポチもため息をつく。
「ふ、なかなか面白いヤツじゃないか。気に入った。」
桃兵衛はスミスを受け入れる。
「ほらぁ、とっとと付いてこんかい。」
上空からスミスが急かす。
桃兵衛たちは、先を急ぐ。




