貴族の衰退と平民の台頭
ここまで話せば出席者のほとんどは結論が見えたようだ。
「平民たちは学園を卒業した自分の子供たちが貴族社会で難しい仕事をしているのを見て、気がついたのです。これまで貴族たちが重要な役割を独占できていたのは、貴族の血筋が優れていたからではない。貴族たちが必要な教育を受ける機会を独占していたからだと」
沈黙が大広間を支配した。だが沈黙の意味は出席者の立ち位置によって全く違うだろう。
「かつては貴族の統治に疑問を持つ平民はいませんでした。ですが現在はそうではありません。そして貴族社会もこれを止めることはできません。優秀な平民の人材なしでは、国も領地も統治ができないからです」
「だから、政に平民を参加させろというのか」
国王陛下が苦々しく吐いた。苦々しい表情をしているのは、一部の貴族もそうだった。
「それをこれから話し合って決めるのです。話し合いをしなかったら、クイーンズベル王国は内戦に突入するでしょう。モートン卿、ご苦労だった。退席してよい」
殿下の言葉を受けて、自分は深く腰を折って両陛下に礼をした。姿勢を戻して大広間を出ようとしたが、国王陛下に呼び止められた。
「待て。卿はどう考える? この事態を招いた余を愚かな王だと思うか?」
自分は返事に困って、殿下に視線を送った。
「陛下のご希望だ。答えよ」
一瞬悩んだが、責任を回避することにした。
「陛下のご評価は、この国の未来の民が歴史を振り返ったときに決めるものと存じます。私は過去を調べることはできますが、未来は判りません。ただ、この会議が未来の第一歩であることは間違いないでしょう」
誉めても貶しても、必ず誰かからの反感を買うだろう。なら未来という曖昧なものに、評価を丸投げするのが無難だ。
「そうだな。大儀であった」
陛下は手を振って、追い払うような仕草をした。どうやら自分は陛下の期待に応えられなかったらしい。おおかた免罪符が欲しかったのだろうが、自分の口からそんなものが出てくるとなぜ思ったのか。陛下の側には聞こえの良い言葉ばかり口にする人間しかいないのだろうか。
そんな陛下に自分はもう一度腰を折って礼をした。折った腰を戻したとき、肖像画が目に入った。気のせいか、建国の祖の女王の顔には憂いの色が浮かんでいるように見えた。自分は玉座に座っている陛下ではなく、大広間を見下ろしている陛下に敬意と同情を感じながら、大広間を退出した。
「今後の政治体制を考える際に、参考になりそうな外国の事例を専門家に調べさせました……」
退出間際に殿下の声が聞こえてきた。




