恋愛結婚の普及と弊害②
ここで一拍置いて、続きを話した。
「上昇婚の流行は、別の影響ももたらしました。令嬢の初婚時の年齢の高齢化、つまり晩婚化です。事件以前の初婚の年齢の平均値は十八・五歳でした。学園在学中に親が婚約を決め、そのまま婚姻するケースがほとんどで、学園卒業と同時か程なくして結婚していました」
その場にいた貴族のほとんどは当主で、年齢は三十から五十代が圧倒的に多い。彼らのほとんどは、初耳だったようだ。
「ですが事件後はそのようなケースは少数派となったのです。学園が共学でなくなったこともあって、卒業までに婚約を結べない令息・令嬢も珍しくなくなったのです。この傾向は特に下位の貴族の令嬢に強く表れました。婚約の一歩手前まで行っても、もっといい相手が見つかるのではないかと、欲を出す令嬢が少なくなかったようです」
ここで言葉を切って、そばのテーブルから水が入ったグラスを取り上げて、乾きはじめた口の中を湿らす。
「現在の貴族令嬢の初婚の平均年齢は二十九・一歳です。五十年の間に、十歳以上も上昇しました。同時に婚姻率も九割九分から七割二分まで低下しました。欲を出しすぎて婚期を逃してしまう令息・令嬢も多いのです」
具体的な数字を出されて驚いている人も少なくなさそうだ。
「この変化の最大の影響は、子供の数として表れました。少子化です。五十年前の貴族の家庭の子供の数の平均値は三・八人でしたが、現在は二・一人です。これは貴族の人口を維持できるぎりぎりの数字です。そして少子化は現在でも進行しています。以前から嫡出子に恵まれなかった家では、平民になった分家から養子を迎えていましたが、それは比較的珍しいケースでした。ですが今後は、ごく当たり前のケースになるでしょう」
貴族の人口が減り続ければ、貴族制度を維持することは困難になる。さすがにほとんどの当主はそのことを理解しているようだ。
「それが深刻な事態だということは、余も理解している」
国王陛下はそう仰ったが、王妃陛下がぶち壊した。
「しかし、好きおうた相手と結ばれてこそ、人生は幸せになる!」
今はそういう話をしているのではない、貴族たちのそういう意見を殿下が代弁した。
「我ら王侯貴族は自らの血統をもって、地位の継承を正当化しています。その血統の維持が困難になりつつあるという問題提起です。個人の幸福を論じているのではありません」
血統の存続という責任より個人の幸福が大切なら、身分を捨てて平民になるべきだった。誰でもすぐ思いつきそうな結論だが、両陛下の御前でそれを口することは、さすがに殿下も遠慮したようだ。




