再会
出席者の顔を眺めると、事件を知らない人も少なくないようだ。五十年前の王太子が誰だったかを考えている人も多かったようだが、すぐに答えは出るはずだ。最近の五十年で、国王の代替わりは一回しかないからだ。
「当時のゴディアス王太子はクラリッサ・デーリング公爵令嬢と婚約していました。しかし王立学園の卒業式で一方的に婚約破棄を発表し、デボラ・アトキンス男爵令嬢と新たに婚約すると宣言したのです」
全員の視線がゴディアス陛下とデボラ王妃に集まる。思いもよらず後ろめたい過去を蒸し返された国王夫妻は、王族らしくなく顔を紅潮させていた。
「ソレと今のコレに、なんの関係があるというのだ」
陛下は完全に冷静さを失ったようで、自分に食ってかかった。
「それをこれからご説明するのです」
殿下が自分に代わって答えてくれた。国が違い臣下ではないとはいえ、国王とただの貴族では身分が違いすぎて、自分は何も言えなくなる。
「お見受けしたところ、当時のことを知らない人も多いようです。実は当時のことをよく知る人物を証人として招いています。もし陛下のお許しをいただければ、ここに招きたいと思いますが」
殿下の言葉でも、陛下は躊躇したようだ。少し間が空いたが、再び頷いた。
それを受けて殿下は視線を従者の一人に向けた。従者はすぐに動いた。やがて大広間の扉の一つが開いた。
扉から一人の女性が大広間に入ってきた。先ほどの従者にエスコートされている。女性は陛下と同年輩だと思われるが、真っすぐ伸びたきれいな姿勢でカーペットの上を歩いている。絵に描いたような高位の貴族の老婦人だ。
そして老婦人は陛下の正面まで来ると、足を止め、陛下の方へ向き、高齢にも関わらず見事なカーテシーを披露した。
「ご紹介します。我が国のコーディナー前公爵夫人、五十年前のクラリッサ・デーリング公爵令嬢です」
殿下の言葉に、軽いどよめきが大広間に漏れた。
前公爵夫人は国王夫妻をあからさまに見つめるような無礼はしなかった。国王夫妻の方はバツが悪そうに前公爵夫人から視線をそらした。周囲はその両者を興味深そうに見ている。
「証人にお願いします。婚約破棄の後に何があったのか、話していただけますか」
殿下の言葉に、前公爵夫人は軽く頷いた。
「はい。当時の王太子殿下から婚約破棄を告げられた翌日のことです。私の自宅を王室の使者が訪れ、当時の国王陛下の書簡を渡されました。書簡には、婚約破棄は王太子の独断で行ったことで両陛下はご存知なかったこと、一度王族の口から出た発言は取り消せないから婚約破棄に応じてほしいこと、婚約破棄は王太子の有責とし慰謝料を王太子の私財から払わせること、謝罪のために王太子を私の自宅を訪問させることが書かれていました。証拠としてそのときの書簡を持参しました」
前公爵夫人をエスコートしていた従者が、その書簡を殿下に手渡した。殿下は慎重に古くなったそれを確認した。
「確認させていただきました。希望する方がいましたら、後ほど見ていただきましょう。陛下、よろしいですね」
陛下は苦々しい顔をしたが、頷くしかなかった。そんな陛下に構わず、前公爵夫人は証言を続ける。
「それから数日後、約束通り王太子殿下は私の自宅を訪れました。しかし約束は果たされませんでした」




