プロローグ
クイーンズベル王国の王宮の大広間には、当事者の代表が全員集まっていた。大広間の正面中央には玉座があり、国王夫妻が座っていた。齢七十近い国王は年齢相応の貫禄を身に付けていたが、頭上の初代女王ベリアーヌ一世の巨大な肖像画のせいで、小物感が漂っていた。
建国の祖で、歴代の国王の中でも最も偉大と言われる女王の肖像画は、その息子で二代目国王のヒギンズ二世が描かせたもので、王国の国宝に指定されている。ヒギンズ二世は偉大な母親の威光を借りたかったのだろうが、何代か後の王が自分が小さく見えるという理由で、別の場所に掛け変えさせたという逸話がある。だが今上陛下はその肖像画を元に戻させた。その狙いはヒギンズ二世と同じだろうが、いまのところ逆効果になっているように見える。
玉座から見て右手には、クイーンズベルの同盟国であり、ヘリオス同盟の盟主であるバースバルク帝国のコンラート皇弟殿下の席がある。畏れ多いことだが、自分の席はその隣だ。
内戦一歩手前の混乱に陥ったクイーンズベル王国の状況を、同盟の盟主たる帝国は看過できなかった。そこで仲裁のための特使として皇弟殿下が派遣された。内政干渉と受け取られないよう、殿下は必要最小限の護衛しか連れずにクイーンズベルを訪れた。殿下に万一のことがないよう牽制のため、国境付近では帝国の大部隊が演習を行っているが、演習場は帝国国内だし、クイーンズベルを含む全ての同盟国には事前に通告しているから、国際法上はなんの問題もない……それがどう受け取られているかは、殿下を見るときの出席者の表情から、なんとなくわかる。予想通り、いや期待通りというべきか。
殿下が右手を挙げて、陛下に発言を求めた。国力を考慮すれば、この場で最大の権力者は殿下だろう。陛下もそれは理解しているようだ。
「コンラート殿下、発言をどうぞ」
陛下は着席したままだったが、殿下は起立した。身分としては、皇弟より国王の方が上なのだ。
「我々は御国の不幸を看過することができず、仲裁のために参りました」
帝国と同様にクイーンズベルと国境を接するアーケナンとルークスの両国も特使を派遣している。両特使は殿下の下手の席に着いている。
「これから問題の平和的な解決のための話し合いを行うわけですが、なぜ問題が発生したのか、その原因を明らかにすることが肝要かと存じます。僭越ながら我が国から連れてきた専門家に調査をさせたので、まずはその結果を聞いていただきたいと思います」
陛下は明らかに不快な感情を顔に浮かべた。たぶん他の出席者も同じだっただろう。だが最大の権力者に逆らう度胸はなかったようで、無言で頷いた。言葉で肯定しなかったのも、不快感の表明の一種だろう。
念のため殿下の方を見ると、殿下も頷いた。自分も殿下にならい起立する。
「ではモートン卿に報告させます」
軽くつばを飲み、手元の書類に視線を落とす。
「報告させていただきます。この混乱を招いた原因を遡りますと、五十年前の王太子殿下による婚約破棄事件にたどり着きます」




