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アルバトロスの剣  作者: 白田ハク


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第二話

 薄暗い洞窟の中をハイト達一行は明かりを灯しながら進む。

 ハイトは自分の力をミシェラに誇示する機会なため、体を強張らせて緊張している。

 それに気が付いたセリアは、ハイトに声をかける。


「ハイトくん、そんなに緊張しなくても私たちがついてるから大丈夫だよ」


 セリアに言われて、自分が過剰に緊張していることに気が付いたハイトは深呼吸をして体を落ち着かせる。


「ありがとう、セリアさん」


 過度に緊張していては実力を示せない。

 いつも通り、自分のできることに集中しようと決意を固めるハイト。

 すると、ハイトが気配を感じると同時に後衛二人もその気配を察知した。


「何かいますね」


「あれはグレーウルフね」


 グレーウルフ、灰色の毛並みを持つ群れで動く習性を持つ魔物だ。


「相手は五匹。まだこっちには気づいていないね、どうする?」


「先にこちらの魔法で牽制し、敵が混乱しているすきに一気に叩き込む形で」


「なら、僕は後衛に魔物が行かないように引き付けつつ、仕留められる奴は仕留めるね」


「支援魔法だけハイト君にかけておくね」


 事前に話し合いをしていたので、魔物に遭遇しても落ち着いているハイト一行。


「ならいくわよ、バレット」


 ミシェルが牽制の魔法を放つ。

 複数個の火の弾丸が魔物にめがけて飛んでいくと同時に、ハイトは魔物の方に走り出した。

 ハイトの役目は、敵の注意を自分に引き付けること。

 敵の状況が砂煙で分からないため、安易には近づかない。

 すると、一匹のグレーウルフが煙の中からハイトめがけて飛び掛かってきた。


「ガァァウウウウ!」


 ハイトは最小限の動きで躱しつつ、グレーウルフ全体が視野に入るように躱したり、いなし続ける。

 その間に砂煙が晴れ、後衛陣が負傷気味で動けない三匹のグレーウルフを魔法で仕留める。

 このままではまずいと感じたのか、ハイトの相手をしていたグレーウルフ一匹が後衛陣に突っ込む。


「一匹向かった!」


「問題ないわ!」


 ミシェル目掛けて突っ込んでくるグレーウルフ。


「バインド」


 セリアが放った魔法、バインド。

 敵を一時的に拘束する魔法。

 それによって、グレーウルフは動けなくなる。


「バレット」


 ミシェルは動けなくなったグレーウルフを冷静に処理する。

 それと同時に、ハイトが相手していた一匹を切り伏せた。


「ごめん、一匹逃した」


「一匹程度、問題ないわよ」


「そうだよ、気にしないで」


 ハイトはウィーナにこの三ヶ月、徹底的に長所を鍛えてもらった。


「お前の長所はその勘の良さだ。勘っていうのは、突然天から降り下りてくるものじゃない。脳が情報を高速で処理して、己の過去の経験から算出される予測だ。そういうやつは洞察力がいい。気弱そうなお前が今こうして私に頼み込んだのも、勘が働いたんだろ?」


「…そうですね」


 ハイトは自分の思考回路をウィーナに見抜かれすごいと感じると同時に、自分の卑屈さに少し恥じる。


「別に恥じることはない、それは立派な長所だ。それを伸ばしていこう」


「…あの、普通に思考を読むのやめてもらえますか?」


「お前が分かりやすいのが悪い」


 ハイトは自分が分かりやすい人間なのだと自覚する。

 そこからウィーナによる地獄の特訓が始まった。

 ハイトは身体能力も魔力も普通で、突出した才能はない。

 剣と魔法が使えるからと安易に魔法剣士になったところで、中途半端な器用貧乏が誕生するだけだ。


「お前には洞察力がある。それはタンク兼アタッカーとして輝かせることができると思う。今下手に魔法を覚えて器用貧乏になるくらいなら、身体強化魔法を鍛えた方がよっぽどためになる。将来的に魔剣士として魔法を習得する頃には、魔力効率や魔力量が上がっているから習得も容易になるだろう」


「なるほど、今中途半端に両方伸ばすくらいなら僕の長所を生かしつつ、将来性もあるやり方ということですか…」


 今までハイトは自分の出来るであろうことを片っ端から試してきた。

 手数を増やすことで何かしら役立つと思っていたからだ。

 しかし、自分はどうなりたいかという目標がなかったのだ。


「不満なら変えてもいいぞ?」


「いえ、大丈夫です。やることが明確化されるのは、こんなにも心が軽くなるものなんですね」


「ああ、お前がやることは体づくり、身体強化魔法の強化、剣術の向上。この三つだけだ」


「分かりました!」


 身体強化魔法は、文字通り身体能力を向上させるものだ。

 それはつまり、元の身体能力が高ければ高いほど効果も上がる。

 そのための体づくり。


「シッ…シヌ」


「私とお前が一緒にいるところを見られると面倒だから深夜にやっているが、存外夜に走るのは気持ちいいものだな」


 そう言い残して夜闇に消えていくウィーナを見て、負けずと走り続けるハイト。


「身体強化の訓練については個人でやってくれ。分からないことがあったら、剣術の訓練時に聞いてくれ」


「分かりました」


 身体強化魔法は、全身の筋力を底上げする基本的な魔法である。

 しかし、魔力の操作精度や伝導効率を高めることで、魔力消費を抑えながら筋力以外の身体機能を強化することも可能となる。

 これを習得すれば、視神経や脳神経を強化することで情報処理の精度が飛躍的に向上し、ハイトの持ち味である洞察力を最大限に発揮できるようになる。

 それが実現したとき、彼は前衛としてさらに頼もしい存在へと進化するだろう。


「剣術については難しいことはしない。実践で使うような剣術は授業で習っているだろうからな。だから、私の攻撃をただひたすら躱したり、いなしたりして反撃までできるようになるまでボコる」


「よろしくお願いします!」


 今はタンクとして鍛えているが、それがアタッカーになれるまで強くなれたらこの学園で上位の実力者となれるだろう。


「ねえ、ハイトくん。なんでさっきの戦いで身体強化しなかったの?」


 セリアに聞かれてハイトは、ある日のダンジョン実習前の剣術訓練を思い出す。


「訓練をしているが、結局実践に勝るものはない。ダンジョン実習では、色々なことを学べるだろう。だが、ひとつだけ約束をしろ」


「なん…ですか?」


 ハイトは地面にぼろ雑巾のように転がっていながらも、ウィーナの話に耳を傾ける。


「身体強化魔法はなるべく使うな。危険な状況の場合には許可するが、それ以外で使うのは禁止だ」


「…どうしてですか?」


 魔物との戦闘で前衛が身体強化魔法を使うのは常識だ。

 それを使わないで戦うなど、よほどのバカか自信家のどちらかだ。


「ダンジョンの魔物なんて雑魚しかいない。雑魚相手にそんな身体強化魔法使ったところで大して強くはなれない。人は極限状態で最も強くなるんだ。最高効率で強くなろう」


 この三ヶ月でウィーナは可憐で美しく、そして強い完璧な高嶺の花だと思っていたが、言葉は男のように乱暴で容赦がなく、無茶ぶりを言いまくる天使の皮を被ったバケモノだと知ったハイトなのであった。


「魔力の節約…かな。安心して、然るべき時は使うから」


 ハイトがこの三ヶ月間行ってきた特訓の成果は、身体能力の向上、身体強化魔法の多少の効率化と時間制限ありの視神経や脳神経の強化、剣術の向上だ。

 特に神経系の強化はまだ魔力の調節ができないため、魔力を大きく消費してしまう。


 嘘はついていない。


「今も一匹逃してたみたいだけど、そんな余裕こいていて大丈夫なのかしらね」


 ミシェルがハイトに手厳しいことを言う。


「ごめん、次は後ろにそらさない」


「…そう」


 興味なさげにミシェルは先に洞窟を歩き出す。


「誰にでも失敗はあるものだよ、切り替えていこ」


「分かった」


 セリアに励まされ、先にどんどん行こうとするミシェルを二人は走って追いかけた。









「ちょっと魔物が多いね。前はこんなにいなかったと思うけど」


「学園側が難易度を調整したんじゃないかしら」


 確かに前回に比べて魔物の数や強さが上がっている気がすると感じるハイト。

 しかし、見たこともない魔物も多数見受けられる。

 どこか嫌な予感を感じ取っているハイトだが、確信はないため黙っている。


「囲まれたね」


「この階層の魔物全部が僕たちのもとに来たのかな?」


 大勢の魔物たちがハイト一行を囲って様子見をしている。


「幸いにも、私の魔法に怯えて一斉攻撃してはこないわね」


 魔物にも多少の知恵はある。

 いまここで一斉に襲っては、ミシェラに焼き尽くされるだけだと警戒をしているのだ。


「私の魔法がバレットしかないと思ったら大間違いよ、熱風!」


 ミシェルは杖を上に掲げて魔法を宣言すると、ハイト達を中心に周囲を炎の竜巻ですべての魔物を焼き尽くした。


「さすが、ミシェルさん。助けてくれてありがとう。たくさん魔力を使っただろうし、少し休憩する?」


「そうね、周囲の警戒は頼めるかしら」


「僕がやるからセリアさんも休んでいいよ。魔物の妨害にたくさん魔法を使ったでしょ?僕は特に何もやってないから僕一人でやっておくよ」


「ありがとう、ハイトくん。それじゃあお願いするね」


 ハイトは幼馴染のレベルの違いを見て、自分との差を改めて感じられた。

 この三ヶ月で少しは追いつけたと思っていたけど、まだまだミシェルの見ている景色は先だった。

 ハイトが成長しているように、ミシェルも日々成長をしている。

 ミシェルに追いつくには、確かにウィーナの言う通り最高効率でやらないと追いつけないだろう。


「うわああああああああ!!」


 改めてハイトは決意を固めると、誰かの悲鳴が洞窟最奥部から聞こえた。


「...助ける?」


「どうせ帰還してるでしょ」


「助けようとすることが評価に繋がるかもだよ?それに前回は階層守護者までは討伐していない。グレーテストウルフだということは知っているけど、できるだけ戦力は確保しておくべきだと思うよ?」


「…そうね」


 安全装置を生徒全員装備しているのは分かっている。

 だから、安全なはずなのは分かっているのだが、どこか不安に思うハイト。


「あなた、何か不安なのかしら?」


「えっ?まぁ…そうだね」


 ミシェルが自分に話しかけたことに驚いたハイトだが、すぐさま自分の違和感を語る。


「さっきから魔物の様子や今の叫び声、何か僕たちの知らない恐ろしいことが起きている可能性があると思う」


「たしかに、見たことない魔物がいたり、様子がおかしかったね。まるで、何かから逃げているように見えた」


 セリアが自分の所感を語る。


「助けにいくわ!助けついでに何が起きているか把握するわよ!」


「「了解!」」


 ハイト一行は助けを呼ぶ声の聞こえたダンジョン最奥部まで急いで向かう。


「あんなに魔物が奥から逃げるようにやってきたということは、それより上位の魔物が奥にいるかも」


「階層守護者が出てきたとか?」


「階層守護者は基本その場所から出てこないけれど…上位の魔物と言ったら階層守護者しか考えられないわね。もしくは、また別の何かしらによるものとかね」


 悲鳴の聞こえたであろうダンジョン最奥部に向かって最短で辿り着くため、最低限の魔物以外をすべて無視して突き進むハイト一行。


「見えたわ、階層守護者のいる場所よ!」


「…なにこれ」


 ここは本来、灰色の毛並みを持つグレーテストウルフが鎮座している場所だ。

 しかし、そこに広がっていたのは一匹の黒狼に倒されている多数の生徒たちの血みどろの光景だった。


『きたか』


「「!?」」


 魔物が話した。

 つまり、相当高い知能を有する高位の魔物だと予想できる。

 そういった魔物は決まって異次元の強さを持っている。

 この息苦しく重苦しいオーラに圧倒されるハイトとセリア。


『死ぬがいい』


 黒狼が口から禍々しい闇に包まれた魔力の塊をレーザーのように放出してきた。

 動けない、手が震えて、足が震えて、怖い、死ぬかもしれない、そんなネガティブな感情がハイトの心の中を支配する。


「バレットッッ!!」


 しかし、ただ一人駆け出していた。

 ミシェルが今までとは比べ物にならないほどの数の炎の弾丸をレーザーに叩き込む。

 なんとか闇のレーザーをかき消したが、辺りが土煙に覆われ、黒狼が見えなくなった。


「…に……げろ!」


「大丈夫!?」


 セリアが意識を取り戻した一人の生徒に内に広がる恐怖の渦を何とかかき消して、回復魔法をかける。


「助かった、もう大丈夫だ。他の奴の分のために魔力は温存しておいてくれ」


「でもまだ傷が…」


「このくらい大丈夫だ。他の重症の奴らを急いで診てやってくれ!」


「…わかった!」


 セリアは急いで、他の重症らしき生徒たちに回復魔法をかけに行く。


「辛いところ悪いけど、一体何があったか教えてほしい」


「ああ、あれはボス部屋に来た時のことだ」


 そこから彼は語り始めた。

 彼によると、先に階層守護者の場所まで辿り着いたグループで階層守護者の情報を取りにいこうと中に入ると、情報にあったグレーテストウルフが階層守護者が倒されていた。

 それを倒したのがあの黒狼で、一瞬で生徒たち全員を倒したのだという。


「どうして、安全装置で帰らなかったの?帰っていればここまでの惨状になっていなかったと思うけど…」


「俺たちも帰りたかったさ…でも、使()()()()()()!」


「…使えなかった?」


 この安全装置は適量の魔力を込めることで、即座に転移陣が起動してダンジョン入り口に転移されるはずだ。


「壊れていたとかじゃなく?」


「ああ違うさ、全員起動しても何も起きなかった!」


 全員の安全装置が壊れているなんてことはあり得ない。

 この安全装置は耐久性もバッチリで、衝撃程度じゃ壊れない。

 それにここまでのことが起きているのに、本部で見ている教授たちがやってこないのもおかしい。

 このダンジョンは今もしかしたら――


『気づいたみたいだな』


「ッ!?」


 黒狼がハイトの方を見据えて鎮座していた。


『そうだ、このダンジョンは今、空間断絶結界によって囲まれている。だから、外の助けなんて期待しない方がいいぞ』


 空間断絶結界は現女王しか使えない至高の魔法。

 それを魔物が使うなんてありえない。

 だが、実際に安全装置が起動しないことや助けが来ないことから察するにこれは本当のことなのだろう。


「おまえを今ここで殺せば関係ない!十年前の恨み、晴らさせてもらうわ!黒狼シュバルツ!!」


 ミシェルは殺気を宿した目で怒りに満ちた声で荒げる。


「ミシェル…?」


 ハイトとミシェルの故郷の村は、十年前の大侵攻で両親を魔物に殺された。

 ハイトは大侵攻で村が焼かれているとき、偶然村にいなくて帰って来た時には、すべてが終わっていたのだ。

 生存者がいないか探していると、家の瓦礫に隠れていたミシェルを見つけたが、あの日のことは詳しくは語ってくれなかった。

 そして、優しく明るい幼馴染から冷たく暗い顔見知りに変わってしまった。


「あああああああああああああああああああああ!!!」


 そんな彼女が煉獄のごとく怒りを爆発さえている。

 喉が裂けるほどの叫びが、灼熱の怒気とともに迸る。

 ミシェルの周囲の空気が震え、熱を帯びる。

 それは怒りの咆哮――十年分の怨嗟が、声となって弾けた。


焔葬花えんそうか!!」


 黒狼シュバルツの足元から、紅蓮の炎が花弁のように咲き乱れる。

 それはまるで地獄の底に咲く花――灼熱の業火が形を成したかのようだった。

 薄暗い洞窟を一瞬で朱に染め上げ、炎の花が燦然と咲き誇る光景に、ハイトは思わず息を呑む。


 これこそが、ミシェルの本気の魔法。

 憎悪を燃料に咲かせた、地獄の業花――。


 息を荒げ、額の汗を拭いながらも、ミシェルの視線は黒狼がいた場所を射抜くように見据えている。

 遠く離れたハイトでさえ、肌を焦がすような熱を感じ取った。

 あの直撃を受けた黒狼シュバルツが、無傷でいられるはずがなかった。


「あれは……」


 黒狼のいた場所に、黒く濁った球体があった。


『ふむ、なかなかの威力だったと思うぞ』


 球体が音もなく崩れ落ちる。

 その中から現れたのは、紅蓮の炎をものともせず、艶やかな黒い毛並みを輝かせる狼――黒狼シュバルツだった。


『だが、弱いな』


 その言葉と同時に、黒狼の姿が掻き消える。

 次の瞬間、ミシェルの目の前に現れた。


 反射的にシールドを展開するミシェル。

 しかしそれは、魔法攻撃には強くとも物理攻撃には脆い。

 轟音と共に砕け散り、彼女の身体は後方へと吹き飛ばされ、洞窟の壁に叩きつけられた。


「ミシェル!!」


『直前で防御を張るとは……他の学園生とやらよりは幾分かマシだな』


 ぼやけゆく視界の中で、ミシェルの脳裏に――あの日の惨劇がよみがえる。






 

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