3
真っ暗でなにも見えない森の中。
濃紺のエナジーに目を凝らしていたラーニャは、その紫紺の瞳を大きく見張りました。
そこに見えたのは。
闇の中で、せっせと土を掘り返したり、枝を折ったりしている、小さなとがった尻尾の精霊の姿。
まるで小さな悪魔のような精霊は、せっせと、破壊しているような、悪戯しているような行動を繰り返しています。
青い光に包まれたそれも、同じように働き。
そして動きをとめると、低く響く音が、辺りに溢れ始めました。
おとは、波となってあたりの空気を揺らします。
震える大気は、さらりと、ラーニャの髪を揺らしました。
ラーニャは、身動きひとつできないまま、目の前の景色を見詰めていました。
心の中によぎるのは、恐怖。そして――説明できない、歓喜。
何が嬉しいのだろう。わからないまま、ラーニャはただただ、目の前で起こっている出来事を、見詰め続けました。
音とともに、次第に濃紺の光は、ひろくひろくひろがってゆきます。
光はゆっくりと、やがて森全体をつつんで。
音が次第に高くなり、濃紺のエネルギーは、森の中へみちみちてゆきました。
――そして。
ひときわ激しい閃光とともに、ぴたりと音がやみ。
ふっ、と、ろうそくを消すかのように、あたりのエネルギーは消えたのです。
訪れた静寂。真の闇。
全てが飲み込みつくされたように、真っ黒に染まった森。
ラーニャは、しばらく呆然とそこに立ち尽くしていました。
一体、今、何が起こったのか、自分が見たのが闇の精霊であることはわかっていても、一体なんだったのか、わからなかったのです。
やがて、ラーニャは我にかえると、弾かれたように家へと駆け戻りました。
みたものが、いい物だったのか、悪いものだったのか。
ラーニャにはわかりませんでした。
静かに出て行ったいきがけとは反対に、混乱したまま、大きな音を立てて家の中に駆け込んでしまったラーニャは、その物音に気づいて出てきたおばあさんに、少しだけ震えながら、抱きつきました。
おばあさんは何も言わず、そっとラーニャを抱きしめてくれました。
そして、ゆっくりと背中を撫でて、一緒の布団で寝てくれたのです。
次の朝。
やがて朝日が登り、森が目覚めると。
掘られた穴からは、新芽。あちこちで産まれたらしき、命の声。
ラーニャはおばあさんにたずねました。
彼らは、一体なんだったの?
おばあさんは、静かに微笑んでいいました。
彼らは、闇の精霊、破壊と再生の精霊なのよ。
闇と夜の精霊は、近しい存在だからとっても仲がいいの。
月もまた、彼らを好むのだけれど、闇の精霊は、光の陰で活動するもの。
月の見えない朔の夜は、彼らの儀式の夜で、こっそりと姿を現しては、再生と誕生の儀式を行うの。
でも、おばあちゃん。
彼らの姿は、とっても怖かったの。
おばあさんは少しだけ驚いた顔になり、それから、ふふ、と笑いました。
姿が怖い?
大丈夫。彼等は恐れなくてもいいものだから。
朔の夜に出かけるのを控えるのは、儀式の邪魔をしないため。
でも、彼らは、ラーニャならば、邪魔とはおもわないでしょう。
不思議そうに首を傾げるラーニャに、しかしおばあさんは静かに笑うだけ。
ラーニャ、ラーニャ。彼らを恐れないで。
ただ、あることを理解し、受け入れてあげて頂戴。
彼らもまた、精霊であり。世界の愛し子なのだから。
そう。
闇は、あなたがたを、包み守ってくれるはず、だから……
了