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月の森の物語  作者: 喜多彌耶子
朔の夜に
7/11

真っ暗でなにも見えない森の中。

濃紺のエナジーに目を凝らしていたラーニャは、その紫紺の瞳を大きく見張りました。


そこに見えたのは。



闇の中で、せっせと土を掘り返したり、枝を折ったりしている、小さなとがった尻尾の精霊の姿。



まるで小さな悪魔のような精霊は、せっせと、破壊しているような、悪戯しているような行動を繰り返しています。



青い光に包まれたそれも、同じように働き。


そして動きをとめると、低く響く音が、辺りに溢れ始めました。



おとは、波となってあたりの空気を揺らします。


震える大気は、さらりと、ラーニャの髪を揺らしました。

ラーニャは、身動きひとつできないまま、目の前の景色を見詰めていました。

心の中によぎるのは、恐怖。そして――説明できない、歓喜。

何が嬉しいのだろう。わからないまま、ラーニャはただただ、目の前で起こっている出来事を、見詰め続けました。



音とともに、次第に濃紺の光は、ひろくひろくひろがってゆきます。


光はゆっくりと、やがて森全体をつつんで。



音が次第に高くなり、濃紺のエネルギーは、森の中へみちみちてゆきました。


――そして。


ひときわ激しい閃光とともに、ぴたりと音がやみ。



ふっ、と、ろうそくを消すかのように、あたりのエネルギーは消えたのです。




訪れた静寂。真の闇。


全てが飲み込みつくされたように、真っ黒に染まった森。



ラーニャは、しばらく呆然とそこに立ち尽くしていました。


一体、今、何が起こったのか、自分が見たのが闇の精霊であることはわかっていても、一体なんだったのか、わからなかったのです。


やがて、ラーニャは我にかえると、弾かれたように家へと駆け戻りました。


みたものが、いい物だったのか、悪いものだったのか。


ラーニャにはわかりませんでした。


静かに出て行ったいきがけとは反対に、混乱したまま、大きな音を立てて家の中に駆け込んでしまったラーニャは、その物音に気づいて出てきたおばあさんに、少しだけ震えながら、抱きつきました。


おばあさんは何も言わず、そっとラーニャを抱きしめてくれました。


そして、ゆっくりと背中を撫でて、一緒の布団で寝てくれたのです。




次の朝。



やがて朝日が登り、森が目覚めると。


掘られた穴からは、新芽。あちこちで産まれたらしき、命の声。



ラーニャはおばあさんにたずねました。

彼らは、一体なんだったの?


おばあさんは、静かに微笑んでいいました。


彼らは、闇の精霊、破壊と再生の精霊なのよ。

闇と夜の精霊は、近しい存在だからとっても仲がいいの。

月もまた、彼らを好むのだけれど、闇の精霊は、光の陰で活動するもの。

月の見えない朔の夜は、彼らの儀式の夜で、こっそりと姿を現しては、再生と誕生の儀式を行うの。



でも、おばあちゃん。

彼らの姿は、とっても怖かったの。


おばあさんは少しだけ驚いた顔になり、それから、ふふ、と笑いました。




姿が怖い?



大丈夫。彼等は恐れなくてもいいものだから。

朔の夜に出かけるのを控えるのは、儀式の邪魔をしないため。

でも、彼らは、ラーニャならば、邪魔とはおもわないでしょう。


不思議そうに首を傾げるラーニャに、しかしおばあさんは静かに笑うだけ。



ラーニャ、ラーニャ。彼らを恐れないで。


ただ、あることを理解し、受け入れてあげて頂戴。


彼らもまた、精霊であり。世界の愛し子なのだから。


そう。


闇は、あなたがたを、包み守ってくれるはず、だから……




 了






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