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月の森の物語  作者: 喜多彌耶子
朔の夜に
5/11

小さな森の小さな家に住む、ラーニャは、夜の散歩が大好きです。

森の中には獣もいますが、何もしなければ襲ってくることはありません。


それを知っているから、ラーニャは毎夜、のんびりと森を歩くことができるのです。


けれど、ラーニャにも怖いものがあります。

それは、人であれば誰でも恐れてしまう、原初の、本能の恐怖。

恐れと安らぎ、両方を与える存在。


それは、朔の夜のことでした。



真っ暗なよる。

それは、月に1度の、朔の夜のことです。

朔の夜は、お月様は姿が見えません。


雨の日でも、曇りの日でも、お月様は隠れていても、存在します。


けれど、朔の日は。


お月様が完全に、隠れてしまうのd素。


真っ暗な、夜。


朔の夜は、すべての始まりなんだよ、と、おばあさんは優しくラーニャに教えてくれました。

真っ黒な真っ黒な森の中。


いつもならば月の光にキラキラと輝く葉も、しっとりと闇に染まり、静かです。


朔の夜は、出歩いてはいけないよ。

おばあさんは、ラーニャのストロベリーブロンドの髪を、優しく撫でながら言いました。

こんな夜は、早めにベッドにはいって、ゆっくりとおやすみ。


朔の夜は、闇に静まり返り、誰もが皆ひっそりと隠れて、新たな光の誕生を待ちわびるのだから。


ラーニャは頷いて、自分のベッドへともぐりこみました。


ふかふかと暖かい藁のベッドは、草の香りがして幸せな気分にしてくれます。

窓にかかったカーテンは、ふわりと柔かで、その向こうに静かな森を見せてくれました。


ラーニャは、眠れません。

なにかが森にいるようで。なにかが森で起こっているようで。


我慢できずに、おばあさんが寝静まるのを待つと、そっと家を抜け出しました。


真っ暗な森の中。


まるで、誰もなにもいないような、そんな森のなか。


かさかさと、ラーニャの歩く音だけが、あたりにひびきます。




気配すら消えた、朔の森。

みながみな、自分の住みかで息を潜めているはずの夜。



かさかさ。


こそこそ。


ふいに、葉音が聞こえました。


びくり、とラーニャは立ち止まり、目を凝らします。

当たりは闇。闇。


ラーニャは、悲鳴を飲み込みました。


じっと見詰める視線の先で、不意に闇は、ゆらり、とゆれ始めたのです。


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