3
その三日月の夜から、周りのお姉さまたちは、アイラのことを心配します。
アイラがおかしいのです。
どこかうっとりとしたり、哀しそうだったり。かとおもうと浮かれたように微笑んだり。
アイラに年の近い子たちは、顔を見合わせて心配そうに囁きあいます。
けれど、ずっと年上のお姉さまたちは、どこか訳知り顔に微笑むのです。
――気におしでないよ。
――大丈夫、三日月の魔力にかかっただけのことさ。
そう――実際、アイラは、自分がなにかの魔法に掛かってしまったのだろうと、そう思っていました。
あの、三日月の夜のことを想いだすと、どきどきして、胸がきゅうっとなって、切なくて嬉しくて――どうしようもないのです。
どうしてそんな気持ちになるのか、アイラにはわかりません。
わからないけれど――どこか、こころがほっこりと、暖かくなるのです。
暖かくって、幸せで――とても切なくって、涙がこぼれてしまうのです。
アイラは、ほろほろと涙を流しました。
哀しいだけの涙ではありません。
その涙は、暖かく、甘く――そして少しだけ苦い、大人になるための、涙でした。
それが「恋」だと気づくのは、まだあと少し先のこと。
彼女が5つ目の満月を超えた、その次の三日月の夜のこと。
再び、その銀色の髪に飴色の髪の彼と出会う、そのときまで。