表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/41

第8話 正拳突き

 それからというもの、俺は積極的に村の手伝いに加わるようになった。薪割りに始まり、畑を耕し、川で芋を洗い、腰の曲がったおばあちゃんをおんぶして移動させたこともある。裁縫の手伝いまでしたときは、さすがに村の子どもたちに笑われたけどな。


 村長との挨拶で名乗ったきりだったが、気づけば一緒に遊ぶ仲になった少年たちは名前で呼んでくれるようになっていた。ま、なんでもやるさ。鍛錬になるんなら、な。


 実際、ステータスの伸び方は“行動内容”によって変わってくる。同じ薪割りを100回やるよりも、新しい作業をした方が伸びは良い。連日続けてると、伸び幅も鈍ってくる感じがする。多分だけど。


 筋力は「重いものを扱う系」。力仕事全般、特に瞬発力使うと伸びる。

 耐久は「長時間の作業」。地道な繰り返しとか、筋力と一部かぶる。

 器用さは「新しいことに挑戦して慣れていく」と伸びる傾向アリ。と自分なりに傾向は掴めて来た気がする。


「ステータスオープン」


≪ステータス表示≫


名前:ハヤツジ アヤト

ジョブ:――

称号:村人

レベル:1


【能力値】

HP:110/125(+35)

MP:90/90(+15)

筋力:30(+12)

耐久:25(+7)

敏捷:20(+8)

知力:15(+3)

精神:18(+3)

器用:22(+8)


「……おぉ、着実に上がってるな」


 レベルアップしていないのに、ここまで数値が伸びてる。「鍛錬S」って、やっぱりヤバいスキルなんじゃないか?

 いやいや、油断するなよ、アヤト。勘違いで天狗になるのが一番危ない。


 冷静さを保ちつつ、頭の中で情報を整理する。一つ気になっているのは「適性」の伸びだ。試しに村の青年から古びた剣を借りたことがあった。……が、握った瞬間から違和感満載。振るたびに手の内で暴れるし、どう頑張ってもフォームが安定しない。


 やっぱり、鍛錬を重ねてもFはFってことらしい。詳細ステータスで武器適性を覗いてみても、剣、槍、弓、斧、すべてFのまま。 何をどう頑張っても“才能ゼロ”の現実は変わらなかった。まぁ、いい。剣がダメなら、素手でやればいい。今の俺にはこれがある。



≪スキル:正拳突き 熟練度1≫

効果:鍛えた拳に集中力を込め、瞬間的に撃ち抜く拳撃を放つ

進行度:0%

適性カテゴリ:素手攻撃

派生条件:継続的な鍛錬と、さらなる熟練度の蓄積により発展



 そう、何を隠そう。正拳突きスキルを習得したのだ。そして、発動方法も掴めてきた今──俺はその威力を確かめるため、一人で森の外れに立っていた。


 拳を握る。正面には、斜めに傾いた枯れ木。ちょうどいい的だ。


 軽く腰を落とし、拳を構える。息を吸い込む。森の音が遠ざかり、世界が静まり返る。自分の心音と、木々のざわめきだけが聞こえる。集中。体中の感覚を一点に集めて──


「──正拳突き」


 頭の中でスキルを明確にイメージし、拳を放つ。


 ドォンッ!!


 一瞬、空気が破裂するような音が響いた。拳が幹にめり込み、枯れ木全体がバウンドするように揺れる。乾いた皮が裂け、枝にいた鳥たちが一斉に飛び立ち、空へ舞い上がった。残響が、森の奥へと消えていった。


「……やっぱ、すげぇな」


 我ながら驚いた。自分の拳ひとつで、こんな破壊力が出せるなんて。この威力、絶対に“ただのパンチ”じゃない。


 スキルの発動には、しっかりとしたイメージが必要だった。適当に念じただけじゃ反応しない。最初は必殺技みたいに声を張り上げてみたりもしたが……別に叫ばなくてもいいらしい。むしろ、集中して「その型通りに動く」意識の方が重要だった。


 剣は握れない。魔法も使えない。だけど──この拳だけは、俺自身が鍛えた証だ。


 ──ボトッ。


 首筋に何か柔らかいものが落ちてきた。 「うわぁっ!?」 思わず飛び退き、払いのける。 見ると、イモムシが地面に転がっていた。


「……びっくりした……」


 肩の力が抜け、近くの石に腰を下ろす。握った拳を見つめながら、俺は呟いた。


「これも、鍛えればもっと使いこなせるのかもな……」


 スキルは、武器じゃない。だけど、俺にとっては──これが唯一の“武器”だ。明日からは、スキル錬もメニューに加えよう。


 村へ戻る道すがら、夕暮れの空にオレンジ色の光が差し込んでいた。村人たちは家路につき、子どもたちの笑い声も次第に静まっていく。帰り際に話しかけてくる子どもたちにも違和感なく手を振れるぐらいには馴染んできた。


 ゆっくりと呼吸を整え、木製の扉を開けて家へと戻った。今日の疲労がじわじわと全身にのしかかる。軽く夕飯を済ませ、ストレッチをしてから布団へと横たわる。


 その夜、疲れた体をベッドに沈めた瞬間──


「──キャアアアアアッ!!」


 外から、悲鳴が響いた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


よければブクマや評価、感想などで応援いただけると励みになります。

今後の展開もぜひお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ