第4話 追放
「この国において、そなたに与えられる場所は、唯一つ。辺境の地である。」
王の声が、何度も頭の中で反響する。まるで判決文のような冷たさだった。
“辺境の地”──言い換えれば、追放。
この国に不要とされた者が送られる、名ばかりの生存圏。
つまり俺は、もうこの国の人間ですらないってことだ。ほぼ処刑宣告ってことか?力がないというだけで、価値がないと切り捨てられるのか? ふざけんなよ……勝手に呼び出して、使えないからって……捨て駒扱いかよ……。
唇の端が震えた。吐き捨てるように声が漏れる。
「ふざけんなよ、勝手に呼び出して……使えないからはい、さよならってことか……」
だが、その呟きに答える者は誰一人いなかった。広間を支配する冷たい沈黙。壁に掛かる旗が微かに揺れ、兵士たちの鎧がわずかに擦れる音だけが響いていた。
誰かの笑い声が小さく弾けたが、すぐに掻き消され、重たい空気に押し潰されていく。クラスメイトたちは視線を逸らし、肩をすくめて小さく笑い、息を潜める。
リョウタが耳元でくすっと笑いながら囁く。
「まあ、心配すんなって。俺たちが魔王倒してやるからさw」
……クソが。俺が乱暴にリョウタを振り払う。
「おぉ、コワッ。あー、戦わないで済むなんて羨ましいよなー」
三輪早苗の声が響く。
「なぜ、彼だけ別の場所に? 私たち、一緒にいればいいじゃないですか!」
ああ、ほんと、三輪はいい奴だよ。真面目で優しい、善人だ。でも……分かってるだろ? そんな理屈は、ここじゃ通じないってことを。
「勇者諸君には半年間、王宮騎士団の訓練に参加してもらう。君たちは魔王軍と戦うための存在だ。力になれない者を、ここに置いておく理由はない。無能力者に割く余裕はない」
王の声が冷たく広間に響き渡り、視線を切り捨てるように冷ややかに見下ろす。
誰かが低くつぶやいた。
「所詮、無能は無能だな」
神官も眉をひそめ、鼻で笑う。
「無駄な足掻きでしたね」
三輪が「そんな……」と呟いた声は、まるで小石が水面に落ちたように、あっけなく消えていった。
理不尽だ、って思うけど……これが、この世界のルールなんだろうな……。誰が何を言ったって変わる事のない現実。
胸の奥で何かが凍りついていく感覚。怒りでも、悲しみでもなく、ただただ虚無。息を吐き出すたびに、力が抜けていくような感覚。視界が滲むのは悔しさのせいか、それとも涙のせいか。
「……連れていけ。」
王の一言で、兵士が二人、無言で俺の両脇に立つ。鎧の金具が擦れる音がやけに響き、床に響く靴音が冷たく、無情に響いた。肩を無理やり掴まれ、引きずられるように歩かされる。足がもつれ、膝が折れそうになるのを無理やり堪える。
……別に、逃げやしねえよ。どうせ俺は、このクソ勇者システムから、クソ王国から、クソみたいなクラスメイトから切り離されるんだ。望むところだろ……。
胸の奥で、わずかな熱が生まれる。苦くて、冷たくて、でも確かに燃えるような熱。
……そうだ。俺は、いつもどこかで一人になることを望んでいた気がする。でもな……。
歩きながら、心の奥底で呟く。
見てろよ……いつか這い上がって、お前ら全員叩き潰してやる。俺を笑ったその口を閉じさせてやる。お前たちの尺度では測れない、俺だけの道があることを、いつか思い知らせてやる。絶対に……絶対に、忘れないからな。
重い扉が軋み、開かれる。光が差し込む向こう側へと、俺の背中は無理やり押し出された。
振り返った先、広間に残ったクラスメイトたちの視線が俺に突き刺さる。哀れみ、嘲笑、無関心、優越感……様々な感情が渦巻くその目を、俺は睨み返した。
覚えてろよ……
心の奥底に、静かに、しかし確かに火が灯った。
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