第28話 呪われた指輪
翌朝、俺とフィーナは中央通りへ向かった。ライナーに教えてもらった通り、このあたりには装備屋が多く並んでいて、すでに通りには人の波ができている。
まずはフィーナの装備を揃えよう。俺は素手で戦えるし、後回しでも問題ない。
通りの中ほどに、それっぽい魔法系の装備を扱う店を見つけた。看板には『エーテル装備専門 ルナリア堂』とある。
「ここ、よさそうですね」
フィーナが嬉しそうに店先を覗き込んだ。
店に入ると、杖やローブ、魔力のこもった装飾品が整然と並べられていた。俺たちは店員の案内で、フィーナに合いそうな防具と補助装飾を選んでいく。
そして――
「着替えてきました……どう、ですか?」
試着室から出てきたフィーナは、薄紫のローブに身を包み、軽装ながら魔力の流れを整える加工が施された装備を身に着けていた。顔を赤くして、両手で裾を気にしながら、俺の視線を伺っている。
「ああ、すごく似合ってる」
そう言うと、フィーナはぱっと顔を明るくして微笑んだ。
「……ほんとに、ありがとうございます。でも、高かったですよね……私、そこまでしてもらえるほど……」
「回復役が倒れたら全滅するんだから当然だよ。これは俺のためでもある」
言い切ると、フィーナはしっかりと頷いた。
「……はい。私、頑張りますね!」
結局、装備一式で銀貨150枚を使ったが、それだけの価値はあると思った。
「次はアヤトさんの番ですよ。ちゃんと自分の装備も揃えてくださいね」
フィーナに背中を押され、店員にグローブ系の装備を扱う店を尋ねると、やや間を置いてから、「そうだな、あそこがいいかもしれない」と教えてくれた。
紹介された店は中央通りから一本裏路地に入った静かな通りにあった。店内には金属製のグローブや革製の防具がいくつか並んでおり、素手戦闘を前提とした装備が目立つ。品ぞろえは悪くない。
「いらっしゃいませ……」
出てきた店員は顔に不自然な布を巻いていた。異世界風の湿布か包帯のようなそれは、明らかに打撲を隠しているように見えた。どこか挙動不審な様子のまま、俺の姿をじろじろと確認するように見てくる。
「グローブ系の武具を探してて」
「ああ、そちらですね……ええと、こちらの棚に……」
店員はややぎこちない動きでいくつかの商品を勧めてくれた。悪くなさそうな装備ではあるが、予算と相談すると即決は難しい。
すると店員が、声を急がせるように切り出した。
「今なら、お安くします。それに、こちらの指輪も……おつけします」
「指輪……?」
「ええ。装備者の最大HPを上昇させる特殊なアイテムでして。今は在庫整理中ですから、おまけということで……」
少し引っかかるが、内容的には悪くない。
「……それなら、いいか。じゃあ、それで」
「初めてでしたら、こちらで装備をお手伝いします。きちんと着けられているか確認もできますので」
少し言い方が食い気味だったが、初めての店ではそういうこともあるかもしれない。言われるままに、服の上から防具を着け、グローブをはめる。そして、最後に――
指輪を装備した瞬間、ずしりとした異変が身体を襲った。
「……ッ、なんだ、これ……?」
急に足元に重りでも括りつけられたように、体が重くなる。腕にも力が入らず、指先まで感覚が鈍っていく。バランスを崩して、俺は思わずカウンターに寄りかかった。
「アヤトさん……!? 大丈夫ですか?」
フィーナが駆け寄り、俺の顔を覗き込む。俺は息を整えながら、重い口を開いた。
「……なんか……急に、体が重くなってきて……。腕にも力が入らない……」
フィーナの顔がこわばる。
「もしかして……その指輪、すぐ外して!」
言われるままに俺は指輪に手をかけるが――まるで皮膚に貼り付いたようにビクリとも動かない。
「ダメだ……外れない……!」
俺の焦りが伝わったのか、フィーナの声が震える。
「そんな……まさか……その指輪、呪いが……かかってるんじゃ……?」
俺が睨むと、店員の肩がびくりと震えた。
「……これは一体、なんだ?」
低く問いかけると、店員は顔を引きつらせて後ずさる。
「お、俺は、知らねえ……! 言われた通りにしただけで……っ」
「誰にだ」
「……っ」
口をつぐむ店員に、さらに一歩詰め寄る。
「言えばあんたをどうこうはしない。だが、黙るなら……分かってるな?」
「わ、わかった! 言う、言うよ……! リョウタに脅されたんだよ! 昨日の晩、急に来て、あんたが来たらこれをつけさせろって……! 断ったらいきなり殴られて……っ! 仕方なかったんだ、呪いがかかってるなんて、俺だって知らなかった! 代金はいらない、だから勘弁してくれ……!」
店員は完全に腰が抜けたようにへたり込む。
「……一体どんな効果が付与されているんですか?」
フィーナが一歩踏み出して、真剣な目で店員に詰め寄る。
「言っただろ、俺は知らないんだよ……。本当に、詳しいことは何も……。ただ、指輪をつけさせろって、そう言われただけで……っ。鑑定しないことには詳細はわからねぇ……」
店員は目をそらしながら、しどろもどろに答える。
「鑑定はどうやったらできるんですか?」
フィーナが問い詰めるように畳みかけると、男はしばらく黙った後、観念したように口を開いた。
「このあたりなら……ヤールって商人がいる。鑑定の腕なら間違いないって評判だ。あっちの通りの突き当たりに店を出してるはずだ」
……またヤールの世話になることになるとはな。
「呪われた装備を無理に外そうとしたら、余計に悪化したりしないんですか……?」
フィーナが不安げに指輪を見つめながら尋ねる。
「そ、それは……詳しいことはヤールに聞いた方がいい。俺じゃ分からねぇ……っ」
店員の言葉に、俺は無言で頷いた。
「アヤトさん、行きましょう」
フィーナの声には、微かに焦りと決意が混じっていた。
「……ああ」
俺たちは、呪われた指輪の正体を確かめるため、急ぎ足でヤールのもとへ向かった。
「面白かった!」
「続きが気になる!」
「この先どうなるの!?」
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