第24話 迅脚と連牙拳
俺たちが先陣を切って突入したのを皮切りに、後続のパーティたちも次々と戦闘に加わった。
それぞれのパーティが連携を取りながら、ゴブリンの討伐を進めていく。思った通り下級魔物であるゴブリンは、個体としての力は弱い。数にさえ気をつければ、1対1であればそう苦戦する相手ではない。
俺も拳ひとつで応戦する。相手の攻撃をさばき、隙を突いて正拳突きを叩き込む。まともに決まれば、それだけで一撃だ。だが逆に、それ以外の動きは我ながら頼りない。手探りの構え、ぎこちない回避。どれも素人同然の動きだった。
——ステータスが高かろうと、俺はまだ“戦い方”を知らない。
攻撃をもらう場面もあったが、フィーナの迅速な回復魔法が俺の背中を押してくれる。彼女がいてくれるからこそ、俺は臆せず前に出られた。
「へぇ、やるじゃねぇか。確かにレベル1には見えねぇな」
「そりゃ、どうも」
ライナーの軽口に応じつつ、戦況は徐々に落ち着いていく。視界に映るゴブリンの数も、目に見えて減ってきた——そのときだった。
「くそっ、中にもいるぞ!」
別パーティの叫びと同時に、木こりの家の扉が開かれる。その瞬間、中から飛びかかったゴブリンが一人の男を押し倒した。
「っ……!」
俺は即座に駆け出し、跳び蹴りでゴブリンを吹き飛ばす。
「悪い、助かった!」
礼を受け取る間もなく、室内からさらに数匹のゴブリンが現れる。俺は素早く正拳突きを放ち、敵を沈めた。
——しかし、戦場はそれだけでは終わらなかった。
背後で悲鳴が上がる。振り返ると、矢を受けて肩を押さえる魔法使いの姿があった。次の瞬間——
「……っ!? なんだこの矢の雨は……!」
嵐のように降り注ぐ矢。その精度と速さは、ただのゴブリンではない。俺は目を細める。
「森の奥から狙ってるぞ! 弓を使うやつもいるのか!?」
「ゴブリン・アーチャーだな。厄介なやつが出てきたもんだ」
不意打ちのような矢の連射に、周囲が浮き足立つ。さらに悪いことに、その混乱に乗じて、増援らしきゴブリンの群れが現れた。
「みんな、中に入るんだ!」
俺は先陣を切って木こりの家へと突入する。狭い通路では、敵に動きの余地はない。一撃必中の正拳突きで、次々とゴブリンをなぎ倒していく。
「嬢ちゃん、アヤトのサポートを頼む!」
ライナーの声が飛ぶ。
「ライナーさんは!?」
「俺は外で他の連中を援護する!」
俺はそれを背に、さらに家の奥へと進む。
そして——角を曲がった瞬間、腹部に激痛が走った。
「ぐっ……!」
反射的に正拳突きを放ち、目の前のゴブリンを撃退。だが、腹に刺さった短剣から血が流れ落ちる。
その時だった。視界にシステムウィンドウが立ち上がる。
《スキル《正拳突き》の熟練度が2に上昇しました》
《スキル《迅脚》を習得しました》
《効果:鍛え上げた脚力で放つ、鋭く重い一撃の蹴り技》
《スキル《連牙拳》を習得しました》
《効果:素早く繰り出される、三連撃の連続拳打》
——よし、スキル習得だ! 痛みよりもスキル習得に手ごたえを感じた。戦闘という状況にちょっとハイになってるかもしれないな。
「アヤトさん!」
HPの減少に気づいたのだろう。フィーナが駆け寄り、すぐさま治癒魔法をかけてくれる。傷がふさがり、痛みがすっと引いていく。
「無茶しないでください! いつもそうやって心配させるんですから」
「……ごめん。でも、まだ中に残ってるはずだ。早く倒さなきゃ」
そのとき——入口の方から叫びが届いた。
「誰か、治癒士はいるか!? 助けてくれ!」
矢にやられたのか、他のパーティの叫びだ。
「俺は平気だ。フィーナ、あっちを頼む!」
フィーナが何か言いかけたが、俺はそのまま奥の部屋へと踏み込んだ。そこには、三体のゴブリン。それぞれが武器を手に、こちらを見据えている。
——新スキルを、試すにはもってこいだ。
一体が棍棒を振りかぶる。それを受け止め、俺は迅脚の発動をイメージする。
「——迅脚っ!」
鋭く放ったミドルキックが、ゴブリンの頭を横薙ぎに吹き飛ばした。次に背後を取ろうとする敵に振り向きざま、連牙拳を発動する。
一撃目で武器を弾き、二撃目で腹をえぐり、三撃目で体ごと吹き飛ばす。自然に、最後の拳が正拳突きへと繋がっていた。
……今の、繋がった?
コンボが成立した——確かな手応えがあった。
残る一体。こちらに向かって突っ込んでくる。
もう一度確かめてみるか。棍棒の一撃を迅脚で弾き飛ばし、間合いを詰めて連牙拳で一気に押し込み、最後に正拳突き。
「——はあっ!」
鈍い音とともに、ゴブリンが壁に叩きつけられ、動かなくなる。
……いける。スキルを繋げて戦えば、体がスムーズに動く!
気づけば他のパーティの面々が部屋に駆け込んでいた。矢を受けた者も多く、フィーナの魔法で止血はできても、すぐの戦線復帰は難しそうだ。ステータス画面に映る彼らのHPも、軒並み赤に近い。
そして、最後にライナーが部屋へと滑り込んできた。
「——まずいな。囲まれたぞ」
―――
習得スキル
◆《迅脚》
カテゴリ:脚攻撃
効果:鍛え上げた脚力で放つ、鋭く重い一撃の蹴り技
習得条件:正拳突き熟練度2、ステータス条件を満たす。
◆《連牙拳》
カテゴリ:素手攻撃
効果:素早く繰り出される、三連撃の連続拳打
習得条件:正拳突き熟練度2、正拳突きを一定時間の間に5回連続でヒットさせる。
派生スキル
◆《???》
状態:未習得(進行度0%)
カテゴリ:脚攻撃
発現条件:迅脚 熟練度2
???
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