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第22話 初任務、ゴブリン討伐

 オベリスクをあとにし、俺たちはギルドの依頼掲示板の前へと足を運んだ。


「アヤトさん、さっきは……その、ごめんなさい。あの人との関係も知らずに、勝手なことを言ってしまって」


 掲示板の前で、フィーナがぺこりと頭を下げた。気に病んでいるのが伝わってきて、俺は思わず苦笑する。


「いや、むしろ言ってくれて嬉しかったよ。ありがとう、フィーナ」


 あの場で俺を庇ってくれたのは、素直に嬉しかった。誰かに信じてもらえるというのは、こんなにも力になるのか。


「……俺も、つい勢いで“ダンジョン攻略してやる”なんて言っちまったけど、本当は調査任務だったんだよな」

「いえ。私も、なんだかやる気が出てきました。一緒に、がんばりましょう!」


 フィーナが晴れやかな笑顔を見せる。その表情につられて、俺も自然と顔が緩む。

 

 ダンジョンを攻略するには、まずEランクに上がらなければならない。受付の話では、FランクからEランクへ昇格するには、受注した依頼に設定された“ポイント”の合計が30に達する必要があるらしい。


 掲示板に貼られた依頼の中身を見てみると、Fランク向けでもポイントはまちまちだ。内容によっては1〜5ポイントと幅があるが、5ポイントの依頼でも6件こなす必要がある。これでは、時間がかかりすぎる。


 急ぐなら……やっぱり一つ上のEランクの依頼に挑戦したいところだな。

 悩んでいたそのときだった。


「緊急クエストだ! 東の森でゴブリンの集団が確認された! 討伐任務にあたれる者は、至急集まってくれ!」


 ギルドの職員が駆け込んできて、新たに紙を掲示板へ貼り出す。


「ゴブリンか……」


 異世界ではお約束の雑魚魔物。だが、数が集まれば話は別だ。依頼のクエストランクはD。今の俺たちFランクには、手が出せない。


「討伐系の依頼は、魔物の質だけじゃなくて、数も考慮されるからな。Dランクってのは妥当なとこだろ」


 隣から聞こえた低い声。見ると、ひとりの中年の男が腕を組んで立っていた。


「さっきのやりとり、見てたぜ。……リョウタに啖呵切ってたな。同じ勇者なのに、仲が悪いのか?」

「だから、なんだってんだよ」


 警戒心を込めて睨むと、男は肩をすくめた。


「いや、別に詮索する気はねぇさ。俺もアイツのことはあんまり好きじゃなくてな。ちょっとだけ、応援してやろうって気になっただけさ」


 ……なんだこいつ。どこまで本気なのか測りかねて、男の目を覗き込む。


「お前さん、まだ登録したてで、Dランクの依頼は受けられねぇんだろ。ランク上げたくても、ポイント稼げる依頼が少ない。……そんなとこだろ?」

「……まあ、そんな感じだけど」


「だったら、俺と組まねぇか? 俺はDランクだ。パーティを組めば、二つ上の依頼も受けられる。お前さんも、このゴブリン討伐に参加できるってわけだ」

「……裏があるんじゃないのか?」


 素直に乗れない俺に、男は笑ってみせた。


「言ったろ? ちょっとだけ応援してやりたいってな。お得すぎて気持ち悪いってんなら、俺の分の報酬を割増ししてくれてもいいんだぜ?」


 この男……嘘は言ってないっぽいけど、信用できるのか? だが、時間はない。ここで動かなければ、ダンジョンの攻略も遠のいてしまう。


「フィーナ……どう思う?」

「はい。私は、アヤトさんが良ければ——」


 頷くフィーナの目は真っすぐだった。なら、俺も決めるしかない。


「わかった。その案に乗らせてもらうよ……あんた、名前は?」

「ライナー。サンドール在住の、しがないベテランさ」

「俺はアヤト」

「フィーナです!」


 俺たちは顔を見合わせ、ライナーに手を差し出す。


「よし、これでパーティ結成だな」


 ライナーが俺とフィーナ、それぞれの手首にふれた瞬間、刻印がかすかに発光した。ステータスウィンドウに、二人の名前が追加される。こうやってパーティを結成するのか。



パーティメンバー

≪ライナー:HP320/MP150 フィーナ :HP187/MP289》



 それぞれのHPとMPの値は表示されたが、詳細な能力までは見えない仕組みらしい。

 フィーナはやっぱり治癒士だからMPが高いな。


「お前さん、HP結構高いな。レベルはいくつなんだ?」


 何気ないその問いに一瞬ぎくりと固まってしまう。

 言うべきか言わないべきか……。一瞬悩んだが、どうせいつかはばれる話か。

 俺は二人だけに聞こえる声でレベルを伝えた。


 「なっ……、レベル1!?」


 ライナーが思わず大声を上げ、周囲の冒険者たちの視線が一斉にこちらに向いた。俺は慌てて手で制止する。


「おい、声……!」

「あ、すまん、つい……。だが、レベル1ってどういうことだ? 年齢からして、普通に生活してりゃ10は超えてるはずだろ?」


 フィーナも驚いた様子で俺を見ている。まさかミノタウロスを倒した俺がレベル1だとは思わなかったのだろう。


「ライナー。これ、あんたとフィーナだけには伝えておく。でも、他の誰にも言わないでくれ。……俺にとっては命取りになりかねない話なんだ」

「おいおい、そんな重要な話なのか。いいのか話しても?」


 ライナーの目が真剣になる。


「まあ、こっちとしてはパーティを組ませてもらってるわけだし、どうせすぐに分かる事だしな。信頼の証だと思ってくれ。ただ、裏切ったら許さないからな」

「オーケーわかった。……話してみな」


「俺、レベルが上がらない体なんだ。ジョブの適正がなくて経験値も入らない。でも代わりに、鍛えれば鍛えるほど、身体のステータスが伸びていく。特殊なスキルの影響で、そういう仕組みになってるらしい」


 ライナーはしばらく沈黙したまま、俺の顔を見つめていた。そして——ふっと息を吐いて、肩をすくめる。


「……まあ、勇者ってのは得体の知れないスキル持ってる奴が多いって話だしな。信じるさ。広めたりはしねーよ」


 フィーナも同意するように頷く。


「ありがとう」


 そして、俺たちはギルドの受付カウンターへと向かった。


「ミランダちゃん、俺らあの緊急クエスト受けるから、登録よろしくな」


 受付にいた女性が顔を上げる。落ち着いた雰囲気の大人びた女性。ミランダというらしい。


「お二人とも初任務でDランクの依頼ですか? 危険度は高めですが……大丈夫ですか?」

「問題ない。二人ともモンスター討伐の経験はある」


 ライナーが即答した。まあ、嘘ではない。ミノタウロス1体の戦闘経験がどれだけ役にたつかは疑問だけどな。

 ミランダは少しだけためらった後、俺たちのギルド登録情報を確認しながら手続きを進めてくれた。


「では、討伐任務『東の森の群れるゴブリン』、依頼登録完了しました。寄り合いの馬車が1時間後に出るのでそちらで向かってください。どうか、ご武運を」

「任された。やるからにはきっちり仕留めてくるさ」


 ライナーが軽く手を振ってその場を離れる。俺とフィーナも、それに続いた。


 いよいよ、俺たちの初めてのギルド任務が始まる。

 そしてこの一歩が、リョウタに勝つための第一歩になる——。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

現在は毎日更新しています。


よければブクマや評価、感想などで応援いただけると励みになります。

今後の展開もぜひお楽しみに!

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