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第2話 才能の選別

 広間の中心、淡く光る巨大な魔法陣。その中心へと、クラスメイトたちは順番に列を作り並んでいく。

 不安げな表情で、誰もが小さく息を呑み、視線を彷徨わせていた。


 俺は列の一番後ろに並んだ。何が起こるかわからない先頭に並ぶのなんてもっての他だが、一番最後というのもちょっと微妙だったかもしれない。けど、裏を返せば一番長く観察できるということでもある。


 列の先頭に立ったのは一馬カズマだった。文武両道で成績トップ、何より自分以外を見下しているような態度が目につく男だ。それでいて、こういう場面では誰よりも率先して行動するのがカズマらしかった。


「……ふん」


 僅かに口元を吊り上げ、余裕めいた笑みを浮かべながらカズマが魔法陣の中心に歩を進める。その姿に、周囲のクラスメイトたちは息を呑み、ざわめきが広がった。


 神官が一歩前に出て、両手を掲げると、低い声で呪文を唱え始めた。淡い光が魔法陣を満たし、カズマの体を包み込む。光が集束し、神官の前に半透明の板のようなものが浮かび上がった。そして、神官がそこに浮かび上がった内容を読み上げた。


「ジョブ……『剣聖』。武器適性:S。魔法適性:B。生産適性:B」


 神官が淡々と告げた瞬間、周囲に歓声が広がった。玉座の側に控える王宮の重鎮たちが「おお……!」と声を上げ、目を見張る。ざわつき具合でどれだけ凄いのか伝わってくる。Sランク――それは大抵のゲームの設定でも最上位クラスのはずだ。今の反応を見てもそれがわかる。


「剣聖か。悪くない響きだな。どれほどのものなのか早く試してみたいところだな」


 ……なるほど。これが“加護の開示”か。


 頭の中に流れ込んだ情報と照らし合わせる。ジョブはその者の成長の方向性を示し、習得するスキルに影響を与える。適性は生まれ持った才能のようなもので、基本的に固定されている。

 武器適性の中には剣、槍、弓、斧などの細分化されたカテゴリが存在し、詳細は自身のステータス表示――『ステータスオープン』で確認する仕組みだ。


 つまり、適性が高い分野を伸ばしていくのがセオリーってわけか。もちろん例外もあるらしいが……。


 列の後方、俺は最後尾に立ち、自分の順番を静かに待っていた。無意識に拳を握りしめる。学年で一番優秀なカズマだからSを引いたのか。それともたまたま偶然Sを引き当てたのか。


 ……どうしようもないのは分かってる。でも、どうなるかは見ておきたい。


 視線を前に向け、順番を待ちながら観察を続ける。どういう基準でジョブや適性が割り振られているのか、少しでも法則を掴みたかった。


 見ていると、なんとなく傾向が分かってくる。スポーツが得意な男子や血気盛んな連中は武器適性が高く、ジョブも戦士系が多い。逆に女子や頭脳派タイプは魔法職が多めだ。ただし、完全に一致するわけではない。


「ジョブ……『魔法剣士』。武器適性:A。魔法適性:A。生産適性:B」


 神官の読み上げと共に、場がどよめいた。列の中央に立つのは三輪早苗――クラスの委員長で、成績も人柄も申し分ない優等生だ。


「え、すご……」

「マジでAが二つ?」


 女子たちがステータスを見せてと集まり、早苗も少し照れたように笑いながら、自身の表示を見せていた。その数値がまた高いらしく、周囲の反応は羨望と驚嘆の入り混じったものだった。


 リアルでも優秀な奴は、異世界でも優秀ってことか……。


 抗いようのない“才能”という現実が、目の前で突きつけられる。俺は肩を落とし、うつむきながらも冷めた目でその光景を見つめていた。


 俺は自分が人より優れているなんて思っちゃいない。だが、控えめに見ても成績は中の上、運動神経だって中の中くらいはある。周りに比べれば地味かもしれないが、俺は俺の力でやってきた。今度だってめちゃくちゃ外れを引くことはないはずだ。……そうであってくれ。


 ふと、気づく。クラスメイトたち――一見、目立たない子たちですら、誰もが最低一つはCランク以上の適性を持っている。それがこの“勇者”という枠組みの最低保証なのだろう。Cは、この世界では“中の上”とされ、勇者の成長補正も加わるため、十分な戦力になるらしい。


 大丈夫、俺は大丈夫だ。そう言い聞かせながら、一歩一歩、自分の番が近づいてくるのを感じる。


 加護の開示は進み、広間の空気は歓声や失望、安堵の声で入り混じっていた。能力の明らかになった今、既に見えないグループ分けの輪ができ始めている。強者と、それにすり寄ろうとする者たち。能力が低いと嘆く者もいれば、気まずそうに笑う者もいた。


 強いやつについた方が生き残る確率は上がるのだろう。だが俺は、そんなのはゴメンだ。こんなところに来てまで、媚を売って生きていくのは嫌だった。


 そして、ついに俺の番が来た。全身の血が逆流するような緊張感に包まれ、足が自然に前へと進んでいく。抗いようのないこの瞬間が、どうしようもなく嫌だった。

 せめて……Bランク以上。一人で生きていけるくらいの力が欲しい。心の奥で、小さく祈るような感情が芽生える。


 神官の声が響いた。


「次の者、前へ」


「あなたで最後ですね」


 神官が俺の額に手を添える。冷たい指先の感触が皮膚に触れた瞬間、体が淡い光に包まれていった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

初日投稿の2話目です。本日は3話目までの投稿になります。

以降は毎日更新を予定しています。


よければブクマや評価、感想などで応援いただけると励みになります。

今後の展開もぜひお楽しみに!

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