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第13話 地味に+1

 スキル欄を開くと、見慣れた『正拳突き』に加えて、新たに三つのスキルが表示されていた。ひとつずつ、順番に目を通していく。


≪スキル:ガッツ≫

効果:即死攻撃に対し、HP1で耐える(次回使用可能まで1週間)

習得条件:致命傷を負ったとき、生きようとする強い意思を示す。


≪スキル:逆境≫

効果:HPの残量に応じて攻撃力が一定時間増大(最大倍率×100)

習得条件:瀕死状態の時に、格上の相手に挑む意思を示す。


 どちらも、ミノタウロス戦で発動していたスキルだ。


「なるほど、正拳突きとは違って、習得には特定の条件を満たす必要があるのか。ガッツにはクールタイムまであるんだな……まあ、不死身ってわけにはいかないか」


 逆境は、任意で発動できるかは不明だが、使い所を見極める必要がありそうだ。HPが少ないほど威力が増すんだろけど……そもそもHPが少ない時点で、体ボロボロだしな。


「あの時は、熱くなってて気づかなかったけど……HP1で逆境最大倍率って……完全に死に物狂いだったな」


 自嘲気味に笑いながら、もう一度スキル欄を確認する。


「正直、まぐれみたいなもんだよな。ガッツがなかったら普通に死んでたし……二度とあんな芸当できる気がしねぇ」


 ふと、正拳突きの熟練度が上がっていることに気づく。


≪スキル:正拳突き 熟練度1(17%)≫


「お、進んでる。前はゼロだったのに……やっぱ実戦で使わないとダメか」


 ずっと0%だったから薄々気づいてはいたが、安全な状況で楽して熟練度を上げるのは無理ってことなんだろうな。案山子を殴っても上がらなかったのはそのせいか。


「もう、案山子に八つ当たりするのやめよ……」


 そして、最後のスキル。


≪スキル候補:???≫

状態:未習得(進行度26%)

適性カテゴリ:精神集中

発現条件:該当カテゴリの継続行動


「……なんだこれ?」


 スキル名が表示されていない。だが、進行度はしっかりと26%と示されている。


「進んでるってことは、何かしら条件は満たし始めてるってことか……?」


 正拳突きの時は、最初からスキル名が見えていた。だがこれは違う。名前すら伏せられている――そういうスキルもあるのか。

 そして、“適性カテゴリ:精神集中”。


「精神……?」


 ふと思い出す。そういえば精神ステータスが大きく上昇していたな。


「もしかして……ステータス上昇で、表示されるようになったとか?」


 そう考えると合点がいく。これまでは肉体を鍛えるばかりで、精神や知力はノータッチだった。継続行動ってことは、正拳突きの時みたいな“初歩スキル枠”ってことか。


「精神系スキルか……何をすればいいんだ? 瞑想? 座禅? それとも勉強とか……?」


 顔をしかめる。


「うわ、めっちゃ苦手分野だわ……でも、やるしかないよな」


 どんな経験も無駄にはならない。そう信じて、前に進む。


「鍛錬Sは、成長の機会を与えてくれるだけ……動かなきゃ、何も変わらないんだ」


 ひとまずそれっぽい事を色々試してみるしかなさそうだな。


「でもまあ……生活費とかもそろそろ考えないとだよな。ただ飯食わせてもらってるだけってのも、気が引けるし」


 その辺りのことも、村長に聞いておく必要がありそうだ。


「やること、山積み……でも、ま、1歩ずつだな」


 ベッドから降りて、手足を動かしてみる。目覚めた時よりずっと調子がいい。フィーナの回復魔法のおかげだ。


「……俺も魔法、使えたらなあ。せめて回復スキルくらいは使えないと一人でやっていけないよな。どう覚えるのかは知らんけど」


 うんうん唸っていても仕方がないので、とりあえず腕立て伏せを開始することにした。初日は10回もできなかったが、今では20、30回とこなせるようになってきた。


「……っしゃ、100回!」


 いやー、我ながら大きな進歩だな。筋力も50を超えて一般の平均値をようやく上回る事ができた。とはいえ勇者のカテゴリにいるクラスメイト達はもっと先を行っているに違いない。


 確か、半年間は王宮で訓練すると言っていた。とすれば、外の世界であいつらと出会うのはそれより先だろう。その時に備えて少しでもステータスは伸ばしておきたい。


「……まだまだ、もっと強くなってやる」


 妙なテンションが湧き上がる。

 次はスクワット、そしてバーピー。


「お、体が温まってきた! なんか楽しいぞこれ……! ……あっつ」


 額を拭うも、止まらない汗。シャツは肌にべったりと張りついて、動くたびに気持ち悪い。


「……あー、もう、暑い。脱ぐか……」


 誰もいない部屋の中。窓も閉まってるし、外からは見えない。たぶん。周囲をちらりと見渡し、慎重に服を脱いでパンイチになる。


「どうせ誰も見てねぇし……この方が断然動きやすい!」


 でも、どこかで妙な予感がしていた。

 ――けど、それでも筋トレは止まらない。動いてると、体も気分も軽くなってくる。


「うぉおお、これで100回目! ……っしゃぁ!」


 テンションが妙な方向に上がっていく。

 思いつく限りの筋トレをこなし大の字になって床に寝転がる。板張りの床がひんやりと気持ちい。そしてちょうど汗が引き始めた頃だった。


 不意にノックの音。


「アヤトさん、宴の準備が――」


 がちゃり、とドアが開いて。


「えっ」


 目が合う。 パンイチの俺と、皿を持ったフィーナの目が。


「…………」

「…………」

「……あの、私、す、失礼しましたっ!!」


 顔を真っ赤にして、バタンと音を立ててドアを閉める。

 沈黙。


「……うわあああああああ!!!」


 慌てて布団にくるまりながら、頭を抱える。


「……もう死んだほうがいい……」


――――――――――


 ちなみに赤っ恥までかいた筋トレの成果はというと……ステータス欄を見る限り、筋力+1だけだった。


 ……地味ッ!


≪ステータス表示≫


名前:ハヤツジ アヤト

ジョブ:――

称号:ミノタウロスハンター

レベル:1


【能力値】

HP:283/340

MP:300/340

筋力:51(+1)

耐久:69

敏捷:30

知力:15

精神:68

器用:30

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

現在毎日更新しています。


よければブクマや評価、感想などで応援いただけると励みになります。

今後の展開もぜひお楽しみに!

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