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07 森の民の族長

お読みいただきありがとうございます。

 二人子供がいるようにはとても見えない男、それがネルとミラの父親だ。


 森の民は森を傷つけないように木々の間に家族ごとに小屋を建てているが、建材は精霊の許可を得て最小限の木々を伐採している。

 家族が増えても増築はできるだけ控えているようだ。

 僕が使わせてもらっている小屋は前族長の家だ。


 今の族長の家は、ネルとミラが言うには母方の家族が暮らしていたものだという。

 この家の中に入るのは僕がこの森で生活する許可をとりに来た時と今日で二度目だ。

 優しい木の香りがする心地のいい家だ。


「精霊が森に入ることを許したのならば私がとやかく言うつもりはない」


 オスカーのことをしばらく匿いたいという話をすると、族長は僕の時と同じようなことを言った。


「しかし、エノクがしっかり面倒を見てくれ。エノクに会うために来たのだろう?」


 要するに、森の民には迷惑をかけるなということだ。

 僕は「わかった」と約束する。


「お前、おにぃちゃんに迷惑をかけるなよ!」

「父さんもおにぃちゃんにもっと優しくして!」


 ネルはオスカーに、ミラは族長に言った。

 どういうわけかネルとミラは出会った時から僕のことを気に入ってくれている。


 オスカーが来るまでは外から来た人間がもの珍しく、新しい住人が気になるのだろうと思っていたが、オスカーに対しては態度が厳しいから、何か他に理由があるのかもしれない。


「もちろん、エノクにも森の民の人々にも迷惑がかからないように気をつけるよ」


 オスカーはそう約束してくれる。

 風属性の魔法書を作り終わるまでは精霊の森にいてもらおうと思ったけれど、迷惑をかけられるのは僕も困るから、王子様には大人しくしていてもらいたい。


「父さんもエノクに優しくするって約束して!」

「ミラ、私は別にエノクに厳しく接してはいないと思うのだが?」


 族長が少し困った様子を見せてミラに言う。

 僕も特別厳しい態度を取られているとは感じていない。

 森の民の族長としては適切な態度ではないだろうか?


 僕はよそ者なのだから、精霊が森に入ることを許可しているとはいっても警戒することは大切だろう。


「ミラ、僕は気にしていないから、大丈夫だよ」

「ミラのお父さんは族長としてこの森の民を守らなければいけないのだから、適切な態度だ」

「オスカーは黙ってて!」


「それに」と、族長に向けられるオスカーの目が少し冷たいものに変わった。


「森の民ではなく、いずれはこの森を出ていく可能性の高いエノクに情が移っては困るだろう」

「おにぃちゃんはずっと森にいるもん!」

「そうだよ。おにぃちゃんはずっと森で魔法書を作ればいいんだから」


 族長には少しヒヤリとする視線を向けたオスカーだが、オスカーの言葉に反応して怒っているミラとネルに視線を向ける時には柔らかい眼差しに戻っていた。


 族長が僕に対してなんらかの情を持つことなどないだろうと思って族長を見たが、族長はなんだか複雑な表情をしていた。


 ーー 将来的にエノクはこの森を出ていく可能性が高いのだから、今のうちに優しくしておいた方がいいのではないか


 それがオスカーが言葉の裏に隠した真意だ。

 正確に読み取ることができなくても、よほど鈍感な人でなければ何か含みを感じるだろう。


 オスカーは王子という立場上、これまでいろんな貴族と言葉の裏を読み合うようなやり取りをしてきたはずだ。

 舌戦百戦錬磨みたいなオスカーの言葉を真面目に聞いていたら、純粋な森の民は翻弄されまくりだろう。


「族長、僕は自分の立場をわかっています。オスカーの言葉は気にしないでください」


 僕はオスカーを追い立てるようにして族長の家から出た。




「随分と頑固そうな人だったな」


 僕の小屋に戻る道中でオスカーは言った。


「そうかな? 森の民を守る人の普通の態度じゃない?」

「私には、彼がエノクに対して緊張しているように感じた」

「僕に対して?」


 14歳の頃にこの森に来て、それから一年ほどが経つが、僕は同じ年頃の少年よりも体は小さく、運動能力も低くて体力もそれほどない。


 祖父が亡くなってから公爵邸で僕に出される食事量はずっと変わっていなかった。

 要するに、年齢に見合った食事量は出されず、十分な栄養を摂取することはできなかった。

 だから、体は小さくて体力もない。


 そんな僕に緊張などする必要はないと思う。

 何よりここは精霊の森だ。

 もしも僕が族長や森の民に危害を加えるような考えを持っているのならすぐに森から追い出されるだろう。


「族長が僕に緊張することなんてないよ」


 そうオスカーに言えば、どういうわけかオスカーはにこやかに笑んで、僕の頭を撫でた。





アルファポリスにて先行更新中。

https://www.alphapolis.co.jp/novel/135536470/928951442


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