06 ネルとミラ
お読みいただきありがとうございます。
「エノク、私に風魔法の魔法書を作って欲しいんだ」
「……まぁ、いいですよ。もう料金ももらっちゃってますし」
やはり、作りかけの風魔法の魔法書と生活魔法の魔法書で金貨20枚はもらいすぎだろう。
「いや、完成したらまた追加で支払う」
「そんなにいらないですし……逃亡中の王子様に払えるの?」
「出世払いにしてもらえれば一番ありがたいけど、冒険者として高ランクの依頼をいくつか受ければなんとかなるだろう」
僕はため息をついてオスカーに手を差し出した。
オスカーは少し不思議そうに再び握手をしようとしたが、「違う」と僕は首を横に振る。
「前回渡した中途半端な魔法書をちょうだい。そこに書き足すから」
「できればこれは持って依頼に出向きたいのだが」
「出世払いでいいよ。魔法書ができるまで精霊の森に隠れていた方が安全だろう?」
「それはありがたいが、私ではこの森に長時間はいられないのではないか? 森の中を彷徨っていてもなかなかここに辿り着けなかったし、精霊は私を贔屓にしてはくれないだろう」
「それも含めて出世払いしてよね。もうすぐネルとミラが来るはずだから、オスカーのことも二人にお願いしてみるよ」
「ネルとミラというと、前回果樹園で会った森の民の子供か?」
ネルとミラを待つ間、僕はオスカーからどんな魔法を加えた魔法書にしたいのかを聞き取った。
メモ帳がうっかり魔法書にならない様に慎重にメモをとる。
メモは精霊たちの言葉ではなくこの世界の人間たちが使う一般的な言葉で書いているのだが、どういうわけか時折魔法書のような効果を持ってしまうことがある。
特に、特別な属性の魔力を必要としない生活魔法はまずい。
無属性の僕の魔力でも反応してしまうため、水が湧いてきたり、火が灯ったりしてしまうことがあるのだ。
「「おにぃちゃん!」」
ネルとミラが小屋の扉を開けて部屋の中に入ってきた。
そして、オスカーの姿にその動きを止める。
「お前! また何しにきた!!」
「おにぃちゃんに何する気!?」
僕の小屋の中のことをよく知っているネルとミラはベッド脇の本棚から土属性と火属性の魔法書を取り出して、それぞれ魔法を発動させようとする。
「ちょっと待って! 部屋の中での攻撃魔法は禁止です!」
「じゃ、外に出ろ!」
「決闘よ!」
どうしてそんな発想になったんだ!?
森の民の割には二人は好戦的すぎるような気がする。
まだ子供だからだろうか?
いや、子供なら他所から来た者をもっと怖がってもいいと思うのだが……いや、怖がっているが故のこの過剰反応なのだろうか?
「待って! 待って!! この人は敵じゃないから!」
僕は慌ててネルとミラを止めた。
それから、二人の手にあった魔法書を回収する。
ネルは土属性でそれほど強い攻撃魔法については教えていないが、それでも使い方によってはこの小屋を壊すくらいのことは簡単にできる。
ミラは火属性でミラの好奇心が強い性格もあってすでに一通りの初級攻撃魔法を覚えている。
二人に小屋を破壊されても困るし、王子に傷をつけられても困る。
二人は精霊の森の民だからどこの国にも属せず、誰にも罰することはできないが、それでも不敬罪という言葉が頭をよぎる。
「この人はオスカー、精霊の森の外から逃げてきたんだ。精霊も森に逃げることを許してくれたのは二人も知っているだろう?」
「なんだ、お前、逃亡者なのか?」
「おにぃちゃんと同じ世捨て人?」
世捨て人……間違ってはいない。
間違ってはいないが、まさか二人からそんな風に思われていたとは……
なんだか情けない気持ちになってしょんぼりとすると、精霊たちが僕の周りに集まってきた。
(大丈夫よ)(大丈夫)(いい子ね)(大丈夫よ)(愛する子)(可愛い子)(大丈夫)
精霊たちが慰めてくれる。
「どうしたの?」
「おにぃちゃん?」
そんな精霊たちに気づいたネルとミラも心配そうに僕を見つめた。
精霊の森の民たちは常に自分の属性の精霊が見えている。
ネルには土属性の精霊が、ミラには火属性の精霊が見えているはずだ。
しかし、言葉は聞こえないらしい。
「二人とも、一時的にオスカーを匿うことに協力してくれるかい?」
「「仕方ないから父ちゃんに会わせてあげる!」」
お礼を言って、僕は二人の頭を撫でた。
オスカーも同じように「ありがとう」と二人の頭を撫でようとしたが、二人はオスカーを睨んでその手を叩き落としていた。
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