35 ダニアンの盾
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僕たちは庭に出て、ダニアンに盾を構えてもらった。
「それじゃ、矢が放たれるイメージをして、魔法書に少しだけ魔力を込めてみて」
「少しだけでいいからね?」と、僕は念押しをした。
「矢のイメージ……光でできた輝く弓矢……」
ガルフレッドが込めた魔力により、10本の光の矢が形成されてダニアンの盾に当たる。
初級魔法だったが通常の光の矢よりも大きめで量が倍も多かったためにダニアンは盾を構えていても少しだけ、後退することになった。
「ちょっと待て! 光の矢は通常、多くて5本じゃないのか!」
「魔法書はそれほど魔力を必要とせずに魔法を行使することができるんだ。それと同時に、ガルフレッドの魔力量が多いのと、ガルフレッドがまだ魔力量のコントロールがうまくできないために通常よりも光の矢が多くできてしまったんだと思う」
「ガルフレッドは魔法書を使った魔力量のコントロールを訓練する必要があるな」
「そうだね。それから、ダニアンってその盾を使って戦うんだよね?」
「ああ、そうだが?」
「その巨大な盾を持ってどうやって魔法書を使うの?」
普段は背中に背負っているダニアンの盾はダニアンの体が隠れるくらいに巨大で、その盾を両手で抱えて敵や魔物の攻撃を防ぐようだ。
僕の疑問の言葉にダニアンは視線を逸らした。
「それは……鍛治の時にでも使うかの?」
おそらく、ダニアンは自分の戦い方では戦闘中に魔法書を使うことはできないことを知っていたのだろう。
確かに、依頼する時に戦場で魔法書を使うとは言っていなかったけど、僕は当然、戦場で使うものだと思って考えていた。
それに、鍛治で使うとは言っても、普段はゼノビアたちと一緒に冒険者として活動しているダニアンが鍛治をしているとは思えない。
ドワーフは種族特性で鍛治などの制作作業が得意だとは聞いているが、やはりそれは普段からそうした仕事をしている者の場合だろう。
ダニアンはきっと、魔法書に対しての興味だけで僕に制作依頼をしたのだ。
「それなら、その盾で魔法書を使えたら便利だよね?」
「む?」
ダニアンが作ってきてくれた紙には生活魔法を書くことにして、戦闘のための魔法は盾に直接書き込むことにした。
手始めに一つ、火属性の初級魔法であるファイアーを書き込む。
光属性のライトと同じように単純に火が出現する魔法だ。
「火のイメージをして、盾に魔力を流してみて」
ダニアンが盾を握った状態で魔力を流すと、火を纏った盾になった。
「おお! これなら今まで盾では意味をなさなかったレイスにも対抗できるな!」
ドワーフは種族特性として火のスキルを使えるそうだが、スキルではこんな風に盾に火を纏わせることはできない。
これなら、魔法書を作る僕の技術が役に立つだろう。
「せっかく紙を作ってきてくれたから、そっちには生活魔法を書けばいいかな?」
「わしが作った紙でも、火属性の他の者も使えるか?」
「生活魔法なら問題なく使えるはずだよ」
攻撃魔法などの威力は落ちるが、生活魔法に威力は必要ないだろう。
「それならば、ドワーフの洞窟に住む者たちにやるのもいいだろう。エノクのおかげでドワーフの生活がよりよくなるな! ありがとう」
そんな風に真っ直ぐにお礼を言われると恥ずかしくなる。
「エノク! 魔法書について話を…ギャッ!」
工房の扉の外でグラーツの声がした。
昼間に会うのは無理だと思って、こんな夕食の時間に来たのだろうか?
「兄さん、何をしているの? エノクー? 入るわよ~? キャッ!」
続いてシーラの声だ。
「あいつら、何してるんだ?」
「さっき、扉を直す時に結界の内容を少し書き換えたんだ」
「危険人物を防ぐための結界だろ?」
「うん。それをさらに、僕の制作の邪魔をする人は入れないようにしたんだ」
「結界って、そんな細かく設定できるのか?」
ガルフレッドとダニアンが興味深そうに扉の魔法陣を見ている。
「ふふん! いい気味ね!」
「ミラは僕が制作している間は外に出ないか、帰れなくなる可能性があることを考慮して外出してね」
「え……?」
工房に入れないことをいい気味だと笑ったミラに僕は注意事項を述べたが、ミラにはどういう意味なのか伝わらなかったようで、その目を瞬いていた。