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25 来訪者

お読みいただきありがとうございます。

「エノクというのはここにいるか!?」


 その声は早朝の宿に響いた。

 一体何かと思うと、宿の受付にエルフが二人いた。

 一人はゼノビアの仲間のシーラと、もう一人は見たこともないエルフの……おそらく男性だ。


「あの、エノクは僕ですが?」


 面倒ごとはごめんだが、宿屋に迷惑をかけるわけにも行かないため宿屋の階段を降りて名乗り出ると、シーラが抱きついてきた。

 冒険者というのはどうしてこうも距離感がバグっているのだろうか?


「シーラ! 僕は子供に見えるかもしれないけど、もうすぐ成人だから!」

「人間の成人年齢なんてエルフからしたらまだまだお子様よ! ましてや人間の10代なんてまだまだ赤ちゃんよ!」


 赤ちゃん!?

 ゼノビアや宿屋の主人に子供扱いされてショックだったけど、今度は赤ちゃん!!?


「エノク? どうしたの?」


 部屋からネルとミラも出てきた。

 二人の後ろにはガルフレッドもいる。

 ついでに、野次馬の冒険者が数人。


「僕が赤ちゃんなら、この子達はどうなるんですか!?」


 ネルとミラを引き寄せて聞くと、シーラが二人を見つめてにっこりと微笑んだ。


「胎児?」


 母親のお腹の中にいるわけでもないのに胎児とはこれいかに?

 まだ体が完成されていないという意味か?


「「たいじ?」」とネルとミラは首を傾げている。


「ああ、ごめん。気にしなくてもいいよ」


 ネルとミラに謝って二人から手を離す。


「シーラ! くだらないことで私の邪魔をするな!」


 最初に絡んできたエルフが怒っている。

 僕もつい、赤ちゃんと言われて意地になってしまった。


 エルフに子供扱いされたからって僕が気にする必要はないだろう。

 エルフは長寿種で、人間とは年齢の感覚が全く違うのだから。


「私はその少年が本当に魔法の書なんて荒唐無稽なものを作れるのかが知りたいのだ」

「宿屋の受付のところにずっといたんじゃ迷惑だよ。話は部屋でして」


 世話になっている宿屋に迷惑をかけるわけにはいかないため、僕は渋々とシーラと男のエルフを部屋に通した。




 僕がベッドに座るとネルとミラも僕を挟むように座り、シーラまで僕のベッドに座った。

 グラーツは書き物机の椅子に尊大な態度で腰を下ろした。


 ガルフレッドは扉の横の柱に寄りかかって見物するらしい。


「僕は魔法書を作っているけど、それがなに?」

「貴様のような赤子がそのようなものを作れるわけがないだろう!?」


 最初から不機嫌そうだった男は僕の言葉に怒り出した。


「ごめんね、エノク。兄は魔法の研究が好きだから、自分が作れないものをエノクが作っているって知って、エノクの才能に嫉妬してるの」

「シーラ! 余計なことを言うな!!」


 嫉妬という部分を否定しないエルフ。


「僕の名前はもうシーラから聞いているみたいだけど、あなたの名前は?」

「赤子に名乗る名前などない!」

「赤ん坊さえもできることができない人はなに? 胎児? それとも、ミジンコ?」

「ミジンコ! 兄さんがミジンコ!!」


 シーラが声を立てて笑う。

 ガルフレッドもクックックッと低い声で笑っている。


「シーラ! うるさいぞ!」

「ミジンコさんと魔法談義は無理でしょうからおかえりください」

「私はミジンコではない! グラーツだ!」

「それで、グラーツは何が知りたいの?」


 ここはお茶を出す場面のような気もするが、茶器のセットなんてここにはないし、失礼な人に出すお茶もない。


「妹に魔法の書物を作れるなんて嘘をついたことを謝れ!」

「それをシーラに伝えたのは僕ではないし、僕が魔法書を作れるのは本当だからゼノビアが謝る必要もない」


 オスカーやゼノビアの反応にしろ、このグラーツの反応にしろ、魔法書に関してみんな反応が大袈裟すぎないだろうか?


「そういえば、どうしてシーラは宿屋に来たの? 僕を探してたのならまずはゼノビアのところに行くんじゃない?」

「ゼノビアのところに行ったら、エノクはここだって教えてくれたの」

「それなら、ゼノビアのところでグラーツを納得させてくれたらよかったんじゃないの?」

「オスカーが兄さんを鬱陶しがって屋敷から早々に追い出されたのよ」

「オスカーめ、僕に面倒ごとを押し付けたな……」


「誰でも魔法が使えるという書物を本当に作れるのならば、証拠を見せてみよ!」


 だからどうしてこいつはこんなに偉そうなんだと思っていると、ミラがミラ用の小さな魔法書を抱えてグラーツのそばへと寄っていった。


 その魔法書は僕が精霊の森を出る時にネルとミラのために僕の家……借りていた小屋に置いてきた生活魔法の魔法書だった。

 他にも、ネルには土属性の魔法書を、ミラには火属性の魔法書を置いてきていた。




 ミラは生活魔法の魔法書をグラーツに見せてやるつもりなのだろうかと見守っていると、グラーツの前で魔法書に魔力を流した。


「ウォーター!」


 魔法書から魔法陣が浮き上がり水を生み出すと、グラーツの顔に命中した。


「ミラ!?」


 思わずベッドから立ち上がった僕をネルの手が押し留める。

 ネルがにこりと笑って言った。


「エノクの魔法書は本物だってミラが実演してあげてるからちょっと待ってて」


 実演の仕方がだいぶ乱暴なんだが?


 ちなみに、グラーツに近づく時は無表情だったミラの表情は今は邪悪なものに変わっている。

 グラーツを警戒させないように怒りを抑えていたようだ。

 ミラに怒りを抑えるとかできたことが意外だった。


「ウォーター!」

「ウォーター!」

「ウォーター!」


 ミラが魔法を連発している。

 コップ一杯分くらいの水を空中に生み出してはグラーツの顔に命中させる。


「ちょ」

「ま」

「な」


 グラーツは何か言おうとしているが何一つとして言葉になっていない。


 そして、グラーツを助けるべきシーラは爆笑している。

 最初こそポカンッと驚いた顔をしていたが、水球に連打される兄の姿がツボに入ったようで、今はベッドの上でお腹を抱えて笑っている。


 いいのか? それで?


 そして、ガルフレッドも笑っている。

 先ほどもそうだが、ガルフレッドは意外に笑い方が豪快ではない。

 クックックッと声を抑えるように笑っている。


「ウォーター!」

「ウォーター!」

「ウォーター!」


 ミラの攻撃はまだ続いているが、もうグラーツは言葉を挟まない。

 魔法で対抗しようと思ったのか、手には杖が握られているが、至近距離から顔面に水球を喰らい続けているために詠唱できないのだろう。


 椅子から立って逃げればいいのにと思ったが、その体がぐったりしている。

 もしや、気を失っている?


「ミラ、その辺でやめようか? 床がびしょびしょだ」


 ミラの魔法が止まるとやはりグラーツは気を失っていた。


「ネル、乾燥魔法をお願い」

「わかった!」


 ネルはミラから生活魔法の魔法書を受け取り、床を乾燥させる。

 床は乾燥させたのに、グラーツのことはそのままにする鬼畜さよ。

 ネルはミラより常識的で優しい子だと思っていたのだが、怒るとかなり怖いようだ。


 朝から不快な思いをしたから気分転換が必要だろう。


「ネル、ミラ、今日は街を見て歩こうか?」

「「うん!」」


 びしょ濡れエルフのことなどもう忘れたように、二人は嬉しそうに笑った。




アルファポリスにて先行更新中(完結済)

https://www.alphapolis.co.jp/novel/135536470/928951442


アルファポリスの次世代ファンタジーカップに挑戦中。

応援よろしくお願いします☆

投票しなくても読んでいただくだけで得点になりますので、覗いてみていただけると嬉しいです。

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