01 プロローグ
お読みいただきありがとうございます。
僕には属性がない。
この世界の人々は体に魔力を宿し、その魔力は火、水、風、土、雷、光、闇の属性のうちのどれかに分類される。
その属性は、その精霊に愛されている証だと言われている。
つまり、魔力はあるけれど、どの属性でもない僕はどの精霊からも愛されていないということらしい。
けれど、僕自身はそんな風には思っていない。
だって、僕は小さな頃から精霊が見えて、彼らの語る言葉を聞くこともできるし、彼らの記す言葉を読むこともできるからだ。
それは幼い頃からの精霊による英才教育の賜物だ。
そんな僕が精霊に愛されていないわけがないだろう?
そして、多くの人々には精霊の姿が見えないらしい。
魔力が多い人が、時折精霊の姿を見ることはあるらしいけれど、僕のように常に精霊を見て、精霊たちと話すことができる人はいない。
僕が小さい頃、精霊と話をしていたら頭のおかしい子だと言われた。
精霊と話しているんだと言っても、僕が嘘をついて周囲の気を引こうとしているのだと思われて、父からも恥ずかしいからやめるようにと言われた。
父に注意されてから、 僕は人前で精霊と話すことをやめた……正確には、極力人とは会わないようにして、密かに精霊と話していた。
そんな「変わり者」というレッテルを貼られた僕には友達はいなかった。
貴族の子供たちが通う魔法学園に入ってからも、僕はいつも一人だった。
僕は友達がいないのをいいことに、休み時間はずっと図書館にこもっていた。
おそらく、僕は魔法学園にあるほとんどの魔法指南書を読んだと思う。
夢中になって魔法指南書を読むことを、他の生徒たちは無駄な悪あがきをしていると言っていたけれど、僕の専属教師のような精霊たちは魔法指南書をより詳しく解説してくれたり、魔法指南書の間違いを教えてくれたりした。
他の人々にとって精霊は属性の精霊から力を借りて魔法を行使したり、大精霊にはその意向に従うことによって力を貸してもらう存在だったりする。
しかし、僕にとって精霊は家族のように親しい存在だった。
特に、僕は人の家族から厄介者と捨てられてしまったのだから、なおのことだ。
ムー王国の貴族の子供たちは10歳になると魔法学園への入学準備として、魔法学園にて属性を調べる。
ダンジョンで時折採掘されるという希少な魔石に触れると、属性によって色が変わり、それによって属性がわかるのだが、僕が触れても魔石が色を変えることはなかった。
こんなことは初めてだと魔法学園の先生方も動揺を見せた。
しかし、そこで誰よりも動揺していたのは父だっただろう。
いつも僕に対しては同じ笑顔を貼り付けていた顔には怒りが浮かんでいた。
「お前のような恥晒しは我が公爵家にはいらん! 魔法学園を卒業したら出ていけ!」
魔法学園にいる間は貴族らしく笑顔を貼り付けていた父親は屋敷に帰るなりそう怒鳴った。
そうして、僕は魔法学園入学前から家を出ることが決まった。
さらに、父だと思っていた人が実は叔父であり、実父ではなかったこともこの時に告げられた。
どおりで、弟と比べて愛情を向けられることがなかったわけだと僕は納得した。
弟も実際には弟ではなく従兄弟だったということだ。
そして、この時、僕は前世の記憶をうっすらと思い出した。
この世界とは全く違う世界での記憶だ。
前世の世界では魔法は使えないけれど、科学というものが発展していた。
その科学はいろんなものに使われていて、誰でも使うことができた。
おそらく、貴族はいなかったような気がする。
この世界の人々は詠唱と杖によって魔法を使う。
その詠唱と杖の使い方を教えてくれるところが魔法学園だ。
魔法学園には貴族しか通えない。
それは魔法が特別なもので平民にはとても扱えないものだからと言われているけれど、それは違う。
魔法を使えれば、魔法を使えない者よりも武力や権力を持つことができる。
そうして、貴族は特権を維持しているに過ぎない。
だけど、無属性で貴族の恥晒しな僕には、貴族の特権とかどうでもいいことだったし、前世の記憶を少しでも思い出した僕にとっては街の人々の方が身近に感じた。
だから、僕は誰もが使える魔法書を作った。
僕は生活魔法を詰め込んだ魔法書を作って、知り合いの平民に試してもらったりした。
決して、貴族にはバレないように、こっそりと使うようにと言い含めて。
初めて魔法を使った彼らはとても喜んでくれた。
彼らには知恵があるから、生活魔法なんてなくても生きていけるけれど、前よりも簡単に火おこしができたり、汚れていない綺麗な水を出すことができたり、体を簡単に綺麗にできる生活魔法は彼らの生活を少しだけどラクにしてくれるはずだ。
僕はこの魔法書作成を生活の糧にするべく、魔法学園卒業後に屋敷から追い出されると生まれ育ったムー王国の隣のさらに隣の小国のさらに田舎の森の中に住み着いて魔法書を作るための研究を始めた。
お金が手に入るまでは自給自足の生活だ。
魔法書の研究が思う存分できる森の中の小さな小屋が僕の憩いの場所になった。
アルファポリスにて先行更新中。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/135536470/928951442